【完結】偽りの聖女、と罵られ捨てられたのでもう二度と助けません、戻りません

高瀬船

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「なるほど……ありがたいわ、ありがとうメニア」

ロザンナがメニアに向かって微笑むと、メニアは些か緊張した面持ちのまま頷いた。






ロザンナが許可を出した事で、邸に訪ねて来たフィエンをサロンに通す事になり、メニアと父親を後方に、ロザンナが先頭、カーナとユリナがロザンナの後ろでメニアを守るように扉から距離を取っている。

メニアの父親は、メニアの隣でそわそわとしており、緊張感に包まれた室内の空気に若干顔色を悪くしている。

「──お父様、無理せずお部屋に戻られてもいいのに……」
「娘が危ない目に合うかもしれないと言うのに、自分だけ安全な自室に戻れる訳がないだろう?」
「それも、……そうですね……」

こそこそとメニアと父親が会話をしていると、使用人に連れられて客人がやって来たようだ。

サロンの扉が開かれて、そこかは顔を覗かせた男性が室内の様子を視界に入れてギョッと瞳を見開いた。

「──え、は……?」

白銀の長い髪の毛を首の後ろで束ね、騎士団の団服を着た男性は、ロザンナ達に視線を向けた後、背後に居るメニアに視線を移して慌てている。

瞳はロザンナ達と同じく赤く、身に纏う団服も、マティアスが普段着ていた魔の者の国の騎士団の団服と似通っていて、目の前に現れた青年が魔の者の騎士団に所属している人物なのだと言う事が離れた場所からでも分かった。

それは、ロザンナも同じ考えだったのだろう。
そして、ロザンナは青年の顔にも見覚えがあったのか、青年の名前を呼びながら問い掛けた。

「──本当にフィエンね……。貴方の顔はあっちの国で確かに何度か見た事があるわ。第二師団長のフィエン……」
「ロザンナ様とお見受け致します。はい、私は確かにフィエンですが……えっと、中に入らせて頂いても……?」

フィエンはロザンナの言葉に自身の胸に手を当てて軽く腰を折る。
騎士の挨拶だろうか。挨拶をした後に、気まずそうに眉を下げると苦笑しながら入室の許可を取った。

「……入口まで、ね……。私達は別件でネウス様から指示を受けているから、例えネウス様から指示を受けたと言う貴方でも、はいそうですかと簡単に中には入れてあげられないのよ、ごめんなさいね?」
「はは……それは困りました……。私もネウス様から指示を受けて、そちらのお嬢様の保護を依頼されております」
「保護……?それは何故かしら?私達が居るのに?」
「さあ、それは私にも良く分かりませんが……。何やらネウス様は急いでいらっしゃったもので……」
「──へえ、そう」
「ええ、はい」

表面上はにこやかに笑顔でやり取りをしているロザンナとフィエンだが、何処かサロンに流れる緊張感が増して来ているように思える。

お互い一歩も引かない舌戦を繰り広げているようで、ロザンナも引かず、フィエンも頑なに引かない態度からメニアはフィエンに対して不信感を持ち始める。
本当に、ネウスから言われて来たのだろうか。
そうしたら、ネウスはロザンナやカーナ、ユリナの事にも言及する筈である。
メニアを守る、と言う名目で三人はこの邸まで一緒にやって来ているのだから、その三人の今後の行動についてもネウスであれば指示をするだろう。

それを分かっているからこそ、ロザンナもフィエンを通そうとはしていないし、カーナとユリナも警戒を解かない。

その様子が正面に居るフィエンにもしっかりと伝わっているのだろう。
困ったように眉を下げて後頭部をかいている。

「──あー……そこの、奥に居る女性がネウス様が仰っていた女性ですよね?」

フィエンがひょこり、と上半身を横に曲げてロザンナの影から顔を覗かせる。
突然自分に話を振られたメニアは、びくりと肩を揺らすと父親の方へ一歩近寄った。

怯えられている、と言うのがフィエン本人にも伝わったのだろう。
フィエンは益々悲しそうに眉を下げると「えーっと」と声を出したが、フィエンが再度メニアに何か声を掛ける前にロザンナが唇を開く。

「本当に、貴方はそこに居るリーシャをネウス様に頼まれたのね?」

(──えっ、?)

ロザンナが、この場に居る誰の名前でも無い名前を口にして、メニアは不思議そうに首を傾げる。
だが、ロザンナの言葉に大袈裟に頷いたフィエンは笑顔で唇を開いた。

「はい、そうです。ネウス様からそちらのリーシャ嬢を連れて来てくれ、と──」

フィエンが最後まで言葉を話し切る前に、ロザンナの後ろに居たカーナとユリナが一瞬でフィエンの元へと跳躍した。

「──は!?」
「このっ、嘘つきめ……!」
「そのような女性などこの場に居ません……っ!」

突然攻撃魔法を繰り出して来たカーナとユリナに、フィエンは腰に下げていた長剣を素早く抜き放つと、カーナとユリナの攻撃を剣で受け止めた。

カーナからの魔法攻撃を剣で弾き飛ばし、死角から迫ったユリナの魔力が乗った蹴りをフィエンは自分の腕で受け止めると、そのまま自分の腕力でユリナの足を弾き返す。

フィエンは、自分が騙された事を察すると、先程までの困ったようで、気弱な表情を一変して憎々しげにロザンナを睨み付ける。

「──騙したな」
「騙される方がおかしいんじゃない?ネウス様からの指示だ、と言うなら対象の名前くらい告げられている筈でしょう?」
「ははっ、それはそうだ」

フィエンはロザンナを睨んだ後、深く溜息を吐き出すと改めて自分の長剣を構える。

第二師団長、と言う肩書きを持つ男だ。
戦闘面は腕が立つだろう事が伺える。

先程は不意打ちを受けたが、しっかりと剣を構え、カーナとユリナに相対する様からは微塵も隙が伺えない。

カーナとユリナも、自分達と相手の力量差をしっかりと把握しているのだろう。
常より真剣な表情で体勢を低くして構えている。



フィエンがふっ、と息を吐き出して右足を踏み出した瞬間その姿が揺れ、一瞬でユリナの目の前へと移動した。
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