【完結】偽りの聖女、と罵られ捨てられたのでもう二度と助けません、戻りません

高瀬船

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ディシアードの口から零れたもう一人の魔の者の名前に、ネウスとマティアスは急いでハピュナー子爵邸に戻る事にした。

捕らえた魔の者達の半数はネウスの手で処理されてしまったが、残った半数は国に戻したので腹心のラティージルが上手く対応してくれるだろう。
それに、ラティージルと共にロザンナとカーティスの息子で、長男のロンも今は国に居る。
研究好きなロンが上手く送られて来た魔の者の対処と、家族に上手く対応してくれるはずだ。

だが、それよりも。
と、ネウスは焦りながら転移魔法の発動の為に魔力を練り上げる。
動揺と、焦りで転移魔法を発動する為の魔力の制御が揺らいでしまっている気がする。
ほんの一秒でも発動が遅れる事でネウスの胸中は焦りで満たされていく。



「──あいつが所属していた、師団長が別行動しているなんて最悪だ……!」

やっと転移魔法を発動する事が出来たネウスは、マティアスと共にメニアの元へと転移した。











ロザンナは、メニアの頭を撫でた後サロンの中を軽く見渡す。

ネウスから発される膨大な魔力はまだ近くに感じる事は出来ない為、ネウスがこちらにやって来るのにはまだ暫く時間が掛かりそうだ。

シャロンが突然訪問して来たのだ。
メニアの婚約者であるあの男も、突然マナー違反の訪問をしてくる可能性がある。
ロザンナはそう考えると、メニアが覚えた物理と魔法攻撃の攻撃を完全に防ぐ事が出来ると言う魔法を魔石に発動しておいて貰おうと考えて、唇を開いた。

「──メニア、ちょっとあなたに頼みたい事が……!」
「はい?」

ロザンナがメニアに話し掛け、メニアがロザンナに視線を向けた際、サロンの扉を開けて使用人がやって来た。

「旦那様、お客様が……」
「──なに?こんな時間に、か……?」

メニアの父親は首を捻りながら呟き、使用人と共にサロンを出て行く。
使用人の様子からして、セリウスやシャロン関係の客人では無さそうで、メニアとロザンナも顔を見合わせて首を傾げた。

夜会後のこのような時間に客人、と言う事は客人は急ぎの用事があったのだろう。
明日の訪問では間に合わない、と言う事でこのような遅い時間にやって来たと言う事だろう。

「──客人、?メニア、貴女誰か心当たりはあるの?」
「いえ……。私は元々、セリウス様やシャロン様としか交流が無かったので……学院にも親しい友人と言う方はおりませんので、私のお客様では無いと思うのですが……」

ロザンナから話し掛けられて、メニアはふるふると小さく首を横に振って答える。
使用人達は既にネウスとマティアスの姿を見ているのでそのまま案内する筈だ。
それにネウスであれば玄関からやって来ず、そのままメニアの元に転移魔法でやって来そうではある。

メニアとロザンナ、カーナとユリナが首を傾げているとサロンから出ていった父親が戻って来て、メニアとロザンナに向かって唇を開いた。

「──メニア。メニアに客人だ。先方はネウス殿の遣いでやって来たらしい」
「ネウスさんの……?誰でしょう」

メニアが不思議そうにしながら父親の元へと向かいそうになった時、隣に居たロザンナに腕を掴まれて静止される。

「メニアのお父様──その遣いの者の名前は何と言ってましたか?」

些か強ばった表情に、真剣な声音で問い掛けるロザンナに、メニアは瞳を見開く。
父親に向かいそうになっていた足をぴたり、と止めるとメニアも父親に向かって視線を戻した。

メニアとロザンナの後ろに居たカーナとユリナも、メニアと自分の母親であるロザンナを守る為に二人の前に歩み出ると、父親に視線を向けた。

「あ、ああ……フィエン、と言ってましたが……」

ロザンナ達の真剣な表情と声音に、メニアの父親はしどろもどろになりながら答えると、ロザンナが考え込む。

「──フィエン……、フィエン……近衛騎士団の第二師団長の名前が確かそうだったわね……」
「騎士団の方、ですか?それでしたらマティアスさんと同じ騎士団の方ですし、本当にネウスさんからの言付けがあったのかもしれませんね?」

ロザンナの言葉に、メニアはほっとしたように表情を緩めるが、ロザンナは難しい表情のまま言葉を続ける。

「いえ……。マティアス、あの子はネウス様直轄の騎士団の団長だから、近衛騎士団とは関係無いわ……それに、ネウス様からの伝言ならばネウス様本人がメニアの元に転移してくる方が早いのに何故人を遣わせたのかしら」
「え……。そ、それは何かネウスさんがその場から離れられない理由があって、とかですかね……?」
「──ネウス様がそうするかしら……。メニアの元に行かせるのよ?今までメニアに紹介していない部下を行かせるなんて事……ネウス様はしないでしょう……」

ロザンナの言葉に、メニアも確かにロザンナの言う通りだ、と言う気持ちになってくる。
今まで顔も合わせた事が無い人間を、緊急事態だからと言ってネウスが寄越すだろうか。

しかも、今は夜会での騒動があった直後だ。

「──本当に、第二師団の方なんでしょうか?」

メニアが恐る恐るロザンナに聞くと、ロザンナは「確認する必要があるわね」と言葉を返してカーナとユリナに視線を向ける。

「私の事は良いから、メニアを守りなさい」
「了解です、お母様」
「分かりました」

ロザンナの不吉な言葉に、メニアもこくり、と喉を鳴らす。

(今度こそ、魔石を発動しておいた方がいいかしら……?その方がいいわよね、きっと)

メニアはそう考えると、急いで自分のポケット内にある魔石を取り出すと、中に封じ込めてある魔法を発動する為に魔力を込める。

メニアの魔力に呼応して、その魔石は光り輝くと瞬時にメニア達が居るサロンを暖かい光が覆った。

「──メニア、今のは?」

ロザンナが驚きの表情を浮かべてメニアに問い掛けると、メニアは頷いてから唇を開いた。

「以前作成しておいた、攻撃を一度だけ防ぐ聖属性の魔法です」
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