【完結】偽りの聖女、と罵られ捨てられたのでもう二度と助けません、戻りません

高瀬船

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ネウスの言葉に、マティアスは何とも言えない表情を浮かべると唇を開いた。

「その、可能性はありますね……。師団長補佐だけならば良いですが……師団長まで加わっているとすれば……近衛騎士団の団長や副団長も裏切っている可能性があります……」
「それ程までに俺を排除したかった、って事か?」
「その動機が詳しくは分かりませんが……人間を糧にしたいから、と言う理由だけでネウス様を排除しようとするでしょうか?」
「──四百年前から、人間を餌にするのは辞めろ、と俺が種族に通達したからか……?だが、人間を伴侶とする種族も出てきたし、何より人間と協力関係にあった方が俺達だって生活しやすいだろ……」
「俺が生まれた時はある程度魔力の枯渇は解消されてましたし、人間を親に持つ俺達は魔力に頼り切る事が無いですからね……。人間を餌にせず、手を組む事を煩わしいと感じたのでは……?」
「そうか……。それで、俺を排除する事を長年掛けて準備してたってことか」

ご苦労な事だ、とネウスが小さく呟くと二人の視界の先に居た魔の者達の会話が終わったのだろう。
それぞれが再びこの場から姿を消しそうな事に気付いたネウスが建物の影からさっと姿を表すと、その影達の方向に向かって駆け出した。

ネウスの行動に一拍遅れてマティアスも駆け出すと、急速に近付いて来る気配に反応した魔の者達がネウス達の方へと視線を向け、そして驚愕に瞳を見開いた。

「──逃げられると思うなよ!」

ネウスは自分の魔力を解放すると、十名程居る魔の者達の影に自分の魔力を流し込み、影を縛り付ける。
闇魔法である影縛りの魔法は、縛られた場合相手よりも強大な自分の魔力で縛りを解いて逃げるしかない。
だが、影縛りを行っているのは自分達の種族の王であり、大人数を縫い付けていると言うのにその魔力には到底叶いそうにも無い。

「──何故っ、ネウスがこの場に居る……!?」
「もう自国に戻っているのでは無かったのか!?」

自分の影を縛られ、身動きの取れなくなった魔の者達は、ネウスの姿を見て口々に声を発し、何とか縛りを解こうと自分の魔力で抵抗するが、ネウスの拘束からは逃れる事が出来ず、逃げる事も出来ずに顔色を真っ青にしている。

「お前は……第二師団長補佐のディシアードだな」

ネウスの後から姿を表したマティアスがネウスの隣に歩み寄り、縛られた男の中の一人に視線を向けると、ディシアードと呼ばれた男はあからさまに狼狽えた。

「マティアス……団長か……何故あんたがネウスと一緒に……」
「ネウス様を守るのが俺達騎士団の務めだからだ……お前は、ここで何をやってる……人間の治めるこの国で、何をしようとしていた……っ!」

ネウス一人だけだと思ったのだろう。
気まぐれな行動を起こす魔の者の王であるネウスは、自分自身の側に人を置く事を嫌がる。
だが、それは表向きの情報であって、実際のネウスは自身が信頼している部下は自分の近くに配置している。
それは、ロザンナしかり、マティアスしかり、腹心と言われているラティージルしかり。

ただ、ラティージルはネウスが国を離れている間ネウスの代わりに国を治めてくれているのでこの場には居ないが、その代わりにマティアスやロザンナがネウスに付き従っている。

その事を知る者は、魔の者の国でも数少ない。

「この事を知らねえ、って事は……師団長は黒であっても団長は白な可能性があるな」

ネウスはふむ、と自身の顎に手を添えると考え込むように虚空に視線を向ける。

ネウスの発言に、ぴくりと反応した魔の者達に視線を戻すと、ネウスは「で?」と言葉を放つ。

「これで、全員か?それとも他にも俺を排除しようとしていた奴が居るのか?」
「──……」

ネウスの言葉に、誰も言葉を発さない。
ネウスから視線を逸らし、ぐっと唇に力を入れて口を噤んでいる。

その様子に、ネウスは呆れたように後頭部をかくとゆったりと魔の者達に近付いて行った。



「──お前達は誤解しているかもしれねえが……確かに俺は四百年前に人間に滅ぼされるのを恐れて手を組んだ。だが、それは種を残すために必要な判断だったし、魔力を得る事が出来る土地も出来た……。脅威になる人間が居なくなったとは言え、こっちが犠牲を出して人間を糧にするのは得策じゃねーだろ?共存って道を取った事の何が悪いんだ?」
「そう、考える事そのものが人間に屈していると言うのが分からないのか……!?魔の者は強者であるべきで、弱者は搾取され続ける存在だ……!腑抜けた王に代わり、俺達が種族の王となり、再度強者であるべき種としてこの国を支配下に置こうとして何が悪い……!」
「──マティアス、こいつらの年齢ってどれくらいか分かるか?」

ネウスは、ふいっと魔の者達から視線を外すと、自分の隣にやって来ていたマティアスにそう問い掛ける。
マティアスはぴっと背筋を正すと、ネウスの問い掛けに唇を開いて返答する。

「──はっ。第二師団長補佐のディシアードは二百以内かと。その他の者達も似たり寄ったりかと思います」

マティアスの返答に、ネウスは溜息を吐き出すと自分の額を手のひらで覆う。

「──まだ、餓鬼って事か……」
「……っなんだとっ!?」

ネウスの言葉に、影縛りを受けた魔の者達が怒りを込めて吠える。
だが、その言葉にはネウスは構わずに一歩近付くとディシアードの正面に立って腰を屈め、視線を合わせる。

「他に、馬鹿な事を考えている仲間は居るか?居るよな……?お前達みたいな考えの浅い餓鬼を嗾けてる奴がまだ居るだろう?」
「──っ、」
「喋った方が楽だぞ?苦しみたくはねえだろう?」

ネウスはそう告げ、先程捕らえた魔の者にやったように魔力の供給を切ってやる。
途端、突然苦しみ出したディシアードに、周囲に居た魔の者達は恐怖に叫び出した。

「三日三晩、魔力の供給を途切れさせると俺達の体がどうなるか知ってるか?魔力は血液と同じだから血液が体に循環しなくなると……どうなるだろうな?ああ、お前の目の前で見せてやろうな」
「──あっ!」

ネウスはディシアードから視線を外すと、後方で震えていた魔の者に視線を向けてその魔の者の魔力供給を切る。

途端、苦しみ出して見る見るうちに姿を変えていくかつての仲間の姿に、ディシアードは怯えを瞳に映すと、震える唇で叫んだ。
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