【完結】偽りの聖女、と罵られ捨てられたのでもう二度と助けません、戻りません

高瀬船

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メニアは自分に再度精神干渉を弾く魔法を掛け、客人を出迎える父親にも同様の魔法を掛けた。
ロザンナ達三人は、客人から姿が見えないように隣室へと待機してもらう。
ロザンナ達にも同様、メニアが以前魔石に込めた精神干渉を弾く魔法を発動してもらい、自分自身に掛けて貰う。

「この時間に、メニアと共にロザンナ殿達が共に居る事を相手に知られては、更に良くない事を企てそうだからな……」
「そう、ですね……お父様」

メニアと父親はその客人が待っている、と言う玄関から程近いサロンへと足早で向かう。

邸の使用人達に、精神干渉の魔法を掛けられてしまっては厄介な為、使用人達はその客人をサロンに案内させて直ぐに下がらせている。

「──邸に設置した魔石はまだ魔法を発動していない……もし相手が何か動いたら、全て発動した方がいいのか?」
「いえ……。邸の魔石は、防御結界の魔石ですから精神干渉を弾く事は出来ません。物理的な攻撃から身を守る為の魔法ですので……」

メニアは、以前ネウスから渡されたブレスレットが嵌っている自分の手首を無意識に撫でる。
もし、このブレスレットが熱を持てば厄介な事になる。

(あの、魔法を込めた魔石はポケットに入っているわね……)

メニアは、以前禁書で見付けた聖属性魔法を込めた魔石をポケットの中で握り締めると、ぐっと力を入れて前を見据える。

(ネウスさんが驚いていた、と言う事はもしかしたらネウスさん程の力を持つ人の魔法も防ぐ事が出来る魔法なのかもしれない……)

物理攻撃も、魔法攻撃も一度だけ完全に防ぐ事の出来る魔法。
その魔法は、発動にはとても集中力が必要で、魔力の消費も大きい為に実践で発動するには不向きだが、魔石に封じた魔法を発動するのはとても簡単だ。

(魔石が……二個……)

二つ程その魔法があれば、万が一の時も何とかなるだろうか、とメニアは緊張した面持ちでその客人が待っているというサロンへ父親と共に向かった。



──その客人は、シャロン・タナヒル。
セリウスの恋人で、メニアの親友だった人物。

いつも共に行動していたセリウスは今は共に居らず、何故かシャロンは単身でこのハピュナー子爵家にやって来ているらしい。

何故、一人でこんな時間にやってきたのかは分からないが、良くない事ではあるのだろう。

メニアと父親は、サロンの入口に辿り着くとノックをしてから扉を開けた。








「──メニア!こんな時間にごめんなさいね?」

ノックの音に気付いたのだろう。
シャロンはサロンの壁にあった絵画を眺めていたのだろう。
扉の開いた気配に気付き、笑顔で振り向いた。

「あら、ハピュナー子爵もご一緒だったのね。こんな時間に申し訳ございませんわ」
「──いや、構わないよ。……ただ、こんな時間にご令嬢が一人でやって来るのは心配だ」
「ふふっ、ご心配頂きありがとうございます。しっかりと護衛を付けて馬車でやって参りましたのでご心配無く」

にっこりと笑顔でメニアの父親に言葉を返すシャロンを、メニアは注意深く観察する。

まだ、メニアのブレスレットは熱を持ってはいない。
目の前に居るのは、まだメニアが知っているシャロン本人なのだろう、と言う事が分かる。

「メニア、今日の夜会では大変だったわね?」
「シャロン様……いえ、……」

シャロンは、パタパタとメニアに近付いて来ると心配するようにメニアの両手を取り、きゅっと自分の手で気遣うように手を握る。

傍から見れば、友人を心配する心優しい令嬢に見えるだろう。
今までであれば、メニアも、メニアの父親もそう信じて疑わなかった。
だが、その気持ちも相手に魅了と信用で感情を操られていたのであればそれも当然だ。

だが、今はその干渉魔法を解呪している事から、メニアの目の前に居るシャロンの歪んだ笑顔や、メニアを憎く思う熱い感情が瞳に宿っているのが良く分かる。

(──私は……っ、今までシャロン様のこんな感情に気付いていなかったのね)

メニアの斜め後ろにいる父親も、息を飲んだのが気配で分かる。
シャロンのその感情を精神干渉が解けた今、目の当たりにして確認し、驚いているのだろう。

メニアには、何故自分がここまでシャロンに憎まれているのかが理解出来ない。
確かに、幼い頃から仲が良かった二人は、何れ婚約する予定があったのかもしれない。
だが、それならばそうとメニアに話してくれれば良かったのだ。

それなのに、自分達は友人同士だから気にする事は無い、と言われてしまえば幼いメニアはそれが真実なのだと信じ込んでしまった。

(それなのに……私を殺してしまいたい程の激情が……瞳から溢れてる……)

思わず、メニアが怖気を感じて後ずさってしまう程のシャロンの瞳に、だがそれでもメニアは今シャロンに手を握られているのでシャロンから離れる事が出来ない。

「ねえ、メニア。今日の夜会で皆に言われていたのは本当なのよね……?メニアは、力が無いのに聖女の振りをしてしまったのよね……?何故そんな愚かな事を……」
「シャロン様、私はそのような事は──」
「いいえ。いいのよ、メニア。私にまで嘘は付かないで?きっと周囲に持ち上げられて、引っ込みが付かなくなってしまったのよね。私には分かるから、無理はしないで。──でも、そうね……こんな事をしでかしてしまったメニアは、周囲から糾弾されてしまうし、セリウスとの婚約もメニアに問題があったからと破棄されると思うわ……」

メニアの言葉を遮るようにぺらぺらと言葉を続けるシャロンに、メニアは思わず口を紡ぐ。
言い返して、訂正したいがネウスの言葉を思い出す。
シャロンの願いを叶えないと、シャロンが召喚した者は還らない。

(シャロン様は、私とセリウス様の婚約破棄を願ったのかしら……?それなら、もうネウスさんが気にしていた存在は還ってる──?)

「ね、メニア。貴女は嘘を付いて聖女の権利を私利私欲で利用しようとしたけれど、本当の貴女はそんな人じゃないと分かっているわ。だから、しっかりと罪を償って、また一緒に過ごしましょう?」

何を、したいのだろうか。
メニアの罪とは、いったいなんの事なのだろうか。

メニアは、シャロンがここに来た目的が分からず、眉を寄せるとシャロンがにたり、と唇を歪めて再度言葉を紡いだ。

「ねえ、それでメニア。偽の聖女の護衛をしていたお二方のお名前は何て言うのかしら」

メニアの頭の中で、以前セリウスと保管庫で対峙していた時と同じような破裂音が響いた。
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