【完結】偽りの聖女、と罵られ捨てられたのでもう二度と助けません、戻りません

高瀬船

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「──到着、しましたね……」

メニアが安心したように呟くと、同乗していたカーナ達がこくり、と頷いた。

「……あら?あそこに居るのって……」
「あ、メニアさんのお父様ではないの?何故外に出ているのかしら?」

カーナとユリナが身を乗り出して見詰める先には、確かにメニアの父親が邸の正面玄関に立っている。
まだ馬車が到着するまでは時間が掛かると言うのに、メニアの父親は既に玄関前で待機しており誰かを待っている様子だ。

「──誰かが、お見えになる予定なのかしら?」

メニアが首を傾げながらそう呟くと、ロザンナが苦笑する。

「こんな時間に来客があるとは思えないし……ネウス様が事前に使いを飛ばしたのじゃないかしら?メニアが戻るから、出迎えて欲しい、と」
「えっ!ほ、本当ですか……!」

ロザンナの言葉にメニアは慌てたように再度邸の玄関前へと視線を向ける。
まだ秋口とは言え、夜は冷えるのだ。いったいどれ程前から玄関前で父親は待っているのだろう、と心配になってしまったメニアは、逸る気持ちで馬車が停車するのを今か今かと待った。









「──お父様!」

馬車が停車して直ぐ。
メニアは急いで馬車から降り立つと、玄関前で待っている父親へと駆け寄った。

「メニア、良かった無事だったか……!お帰り」

メニアの姿を認めた父親は、メニアが怪我一つ無い事を確認するとほっと安堵の吐息を吐き出して、駆け寄って来るメニアを腕を広げて受け止めた。

「ご心配お掛けしてしまいましたね、申し訳ございませんお父様」
「いや、大丈夫だよ。ネウス殿から子細は聞いている。ああ、カーナ殿やユリナ殿、いつもありがとう」

メニアと会話を交わした後、父親はメニアの背後から邸の玄関に近付いて来ていたカーナとユリナに向けて微笑むとお礼を口にする。
そして、二人のやや後ろに居たロザンナに目を向けると不思議そうな表情を浮かべた。

「──えっと、?そちらの女性は……?」
「お父様、あちらの女性はカーナさんとユリナさんのお母様で、ロザンナさんと言います」
「初めまして、ロザンナ・アルハランドと申します」

メニアの紹介に、ロザンナは自身の胸に片手を添えてにっこりと微笑むとメニアの父親に向かって名乗る。

「ロザンナ・アルハランド……?──ああ!貴女はあのロザンナ殿ですか!」

メニアの父親は驚いたような声を上げると、ロザンナを見てかぱり、と口を開く。
有名なロザンナの名前に、父親はわたわたと玄関を開けるとロザンナ達を邸へ案内した。









邸の応接間へと案内され、メニアと父親は同じ三人掛けのソファへと腰を下ろし、ロザンナ達三人は向かいのソファへと腰掛けた。

メニアは、夜会で起きた事やこれからハピュナー子爵家に訪れる可能性のある事柄等を説明した。





「──なるほど……、夜会でそんな事が……」

メニアの父親は、自分の眉間を指で揉むと深く溜息をついた。

「メニアが発動してくれた解呪の魔法が籠った魔石をカーナ殿とユリナ殿に運んで貰ってから、私達家族もセリウス殿とシャロン嬢からの干渉魔法から解かれたが……」

まさかこんな事になるなんて、とメニアの父親はふるふると緩く頭を振ると押し黙ってしまう。

夜会でセリウスとシャロンが魔獣を使いメニアに対して行った事、それによって周囲の貴族達からメニアは偽りの聖女と罵られ、認識されてしまっている現状に頭を悩ます。

「──メニアのお父様。現状、私達に出来る事はネウス様とマティアスが戻って来るのを待つしたないかと……。万が一、こちらの邸に危害を加える者が訪れた際にも我々が同行しておりますので、心配する事はございませんよ」

ロザンナがにっこりと安心させるように父親に向かって微笑むと、困ったような表情を浮かべていた父親は些か安心したように表情を和らげた。

「そう、ですか……メニアを手助け頂きありがとうございます……。本当に、どうお礼をさせて頂ければいいか……」
「気になさる事はございませんわ。私達は見返りが欲しくてメニアを助けている訳ではございませんので」

ロザンナとメニアの父親が穏やかな会話をしていると、使用人が慌てたように応接間にやってきた。

「──旦那様……っ、」
「何事だ?」

部屋へと入って来た使用人は、父親の耳元で何事かを耳打ちすると、メニアの父親は驚きに瞳を見開いた。

「──?」

何か、あったのだろうか。
メニアが些か不安気に父親を見詰めると、メニアの視線を受けた父親が困ったような表情を浮かべたまま、メニアに対して唇を開いた。

「──メニア、客人が来たようだ……」
「このような時間に、ですか……!?」

時刻は深夜。
夜会会場からラドの執務室に向かい、それから邸に戻ってきた。
その為、とっくに日付は変わっておりこのような時刻に来客があるなど普段では有り得ない。

使用人と、父親の表情を見る限り、その客人は歓迎するような来客では無さそうでメニアは改めて自分達に精神干渉を弾く魔法を発動した。
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