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しおりを挟む「──なら、ば……っ!我々が手にした物は……っ!」
悔しそうに荒い息を吐き出し、途切れ途切れに言葉を紡ぐ魔の者にネウスは笑みの形に唇を歪めると唇を開く。
「ぜーんぶただの塵だな?ご苦労さん」
「──っ」
息を飲む魔の者に、ネウスは自分の顔をぐっと近付けると「で?」と囁く。
「──その塵を手にして、お前達がやろうとしていた事は……俺に取って代わる事か?ああ、目を逸らすなよ。俺の目を見ろ」
「──ひっ」
必死にネウスから視線を逸らそうとしていた魔の者の顔を掴むと、ネウスは無理矢理自分と視線を合わせる。
「俺に取って変わろうとしたな?俺を、排除しようとした?」
「──そう、です……っ我らのリーダーは……っ、人間を使い、人間を糧にしようと……」
人間を糧に、と言う言葉を聞き、ネウスは舌打ちをすると掴んでいた魔の者の顔を床に叩き付ける。
ネウスのその激しい怒りを表したような行動に、背後に居た者達が息を飲む気配が伝わる。
「この後、お前は仲間と合流するな?仲間はあと何人居る?」
「──正式な人数を私は把握しておりません。この後落ち合う場所で、十数名と落ち合う予定です」
「──そうか」
ネウスの質問の言葉に逆らう事無くスラスラと言葉を返す魔の者に、ネウスはその場から立ち上がるとマティアスに視線を向ける。
「──こいつを逃がすぞ。その後、こいつと合流する為に出てきた奴らを処理する」
「分かりました」
マティアスに声を掛けた後、ネウスはメニアの方へと振り向くと心配そうにネウスを見詰めていたメニアの方へと近付いて行く。
「メニア」
「──はいっ!」
ネウスに声を掛けられて、メニアは小走りでネウスに近付いて行く。
走った拍子に纏めた髪の毛からひと房、髪の毛が頬に落ちてきてしまったのにネウスは気付くとメニアの髪の毛を耳に掛けてやりながら唇を開く。
「俺とマティアスは少しだけ席を外す。この後、ラドの元にも報告が上がって慌ただしくなるだろう……。今夜は一先ず自分の邸に戻れ。俺が居ないと俺の邸は警備魔法が発動しねえからな。それより、カーナとユリナ、ロザンナ三人を連れてメニアの邸に戻った方が安全だ」
「分かり、ました……。ネウスさんはこれから……あの方と何かするんですよね……?危ない事はしないですか?怪我をする心配はありませんか……?」
私も一緒に居た方がいいのではないか、と言うようなメニアの言葉にネウスは緩く首を横に振ると、メニアの頬を自分の手のひらで撫でてから手のひらを離す。
「いや、大丈夫だ。俺とマティアスは心配ねえから、家に戻って休んでろ。今日は疲れただろう」
ネウスがそう言うと、ラドの部屋の扉が叩かれる。
先程、ネウスが話していた今回の夜会で起きた事を報告に来たのだろう。
ラドは慌てて扉の方へと向かうと、何事か話している。
ネウスは、ラドのその様子を見てからマティアスに「逃がせ」と声を掛けると、ネウスの言葉に頷いたマティアスが魔の者をこの場から解放する。
ネウスから何らかの干渉魔法を受けていた魔の者は、ハッとしたように意識を取り戻すと、マティアスが破った窓から逃げ出した。
「こっちの用事が済んだらメニアの邸に行く。──ラド!さっき話した通り、メニアの婚約者と、その女の処罰はまだ待ってろよ!」
ネウスはラドに向かってそう言い残すと、マティアスと共に割れた窓ガラスから外へ飛び出すと、一瞬の内に姿を消した。
それから、部屋に残されたメニア達とラドは、夜会会場で起きた事を報告しに来た者達と入れ替わるようにその場を後にした。
ラドには、今はまだ対処は先延ばしにして貰い、相手の出方を見ると伝え、メニアはカーナとユリナ、ロザンナと共にラドに用意して貰った馬車でハピュナー子爵邸へと戻る事になった。
「メニアさん、折角ネウス様色のドレスを着たのに、一曲もダンス踊れなかったですねぇ」
「──えぇ!??」
馬車で邸へと戻る道中、向かいに座ったカーナが残念そうにメニアに話し掛ける。
メニアは頬を染めると、あわあわとしながらカーナに向かって言葉を返した。
「そ、そんな……今日は夜会を楽しむのでは無くて、その……セリウス様とシャロン様の企みを確認する為でしたし……」
「でも、ネウス様しっかりと自分の好きなようにメニアさんを着飾ってましたよね。絶対にダンスの一つくらいは踊るつもりだったんですよ」
「まあねぇ。ネウス様もまさかあんなに早くメニアさんの婚約者がちょっかいを掛けてくるとは思わなかったんでしょう」
メニアの言葉に、ユリナが言葉を返し、ロザンナもユリナに同意する。
「そんな事は……」
あるのだろうか?
メニアはちょっぴり自分でももしかしたらネウスと一曲くらいは踊れるかと考えてしまっていたので、ネウスもほんのちょっとでもそう思っていてくれていたら嬉しい、と自然に考えてしまう。
結局は、夜会に参加して間もなくセリウスとシャロンがやって来て、次いで魔獣が乱入して来てしまったので慌ただしく夜会会場から姿を消してしまったが、ああならなければ、とメニアはちらりと自分が纏っているドレスに視線を落とす。
ネウスの髪色の黒を基調とした色合いで纏め、瞳の色の紅の装飾品を付けている事がとても気恥ずかしく、だが何処か嬉しく感じてしまう。
そっと自分の首元を彩る緋色の宝石があしらわれた豪奢なチョーカーを指先でなぞる。
何処かむず痒いそわそわとした感情を誤魔化すようにメニアが馬車の窓へと視線を向けると、うっすらと自分の邸が見えて来て、メニアはほっと息を付いた。
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