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しおりを挟む隣に座っていたネウスに力強く引き寄せられ、すっぽりとネウスは大きな体で覆い被さるようにメニアを自分の体で包み込む。
メニアは、夜会に参加していた事もあり肌の露出も普段よりは多いドレス姿だ。
窓ガラスが割れ、メニアに割れたガラスが降り注いでしまえば肌を傷付ける可能性がある。
ネウスは自分に降り注いで来るガラスからメニアを守る為に更に強くメニアを抱き込むと、窓ガラスから入って来た存在に視線を向けて鋭く叱責する。
「──マティアス……!」
「も、申し訳ございませんネウス様っ!──くそっ、大人しくしろ……!」
部屋の入口付近に居たカーナとユリナ、ロザンナは怪我の恐れが無かった為、カーナとユリナは急いでマティアスの元に駆け寄るとマティアスが拘束している人物が逃げようと暴れている為、自分達もマティアスに加わる。
ロザンナは入口からメニアとネウスの元へとやってくると、ネウスの腕の中に居るメニアに「怪我は?」と声を掛けた。
「わ、私は大丈夫です……。ですが、ネウスさんがガラスを……!」
「あら、ネウス様はガラスくらい大丈夫よ。傷の回復速度も人間より早いし問題無いわ」
「……ロザンナ、メニアとラドをあいつから離れさせてくれ」
ネウスは自分の腕をそっと解くと、ロザンナにメニアを任せてソファから立ち上がる。
何が起きたのか、目を白黒させて驚いているラドの元へロザンナとメニアを退避させると、ネウスは自身に降り注いだガラスを頭を振り髪の毛に入り込んだガラスを払い、団服を軽く手で叩いてガラスを落とす。
ネウスは、宰相であるラドの執務室に向かって来る人間達の気配を感じながら、マティアス達に取り押さえられている人物に向かってゆっくりと視線を向けた。
「──お前……、第二分隊に所属してるやつだな……」
ネウスの低く冷たい声音に、マティアスに地面に押さえ付けられていた男がびくり、と体を震わせる。
男が先程から暴れ、もがいていた際に男の容姿がしっかりと見えてしまっていたメニアは、その男の真っ赤な瞳に目の前に居る男がセリウスやシャロンに協力していたと言う魔の者なのだろう、と理解した。
ネウス自身もその男に見覚えがあったのだろう。
ネウスが話し掛けると、それまで逃げ出そうともがき暴れていた魔の者の男は、突然大人しくなり、怯えるように体を震わせ始めた。
「……マティアス、手を離せ」
「え、?あ、はい……」
ネウスはマティアスにそう告げると、マティアスが捕らえていた男から即座に手を離す。
マティアスが手を離した事を確認すると、ネウスは自分の腕を軽く横に振った。
瞬間。
何かがぶちり、と切れるような音がして床に倒れていた男が突然苦しみ出した。
「──あっちの土地との魔力供給を切った。……苦しいな?四肢が千切れちまいそうな程の激痛だろう?」
「──あ゙あ゙あぁあっ!」
床に横たわり、痛みに叫ぶ男の横にネウスはしゃがみこむとにっこりと笑い、囁くように声を掛ける。
ネウスはちらり、と背後に視線を向けるとメニアやラドから見えないように自分の体で視線を遮り、自分の指先を小さく男の足元に向けると足首の辺りを線を引くようにぴっ、と指先を横に振る。
「──ネウス様、何を……?」
ネウスのやや後ろに居たマティアスがこそっとネウスに話し掛けると、ネウスはマティアスの方向を振り向かないまま唇を開く。
「追跡魔法を掛けた。こいつからある程度情報を取ったら逃がす。恐らく、第二分隊の他の奴も居る筈だ」
「分かりました」
こくり、とマティアスが頷くのを気配で感じネウスは再度目の前の男に意識を向ける。
男は、声にならない叫びを上げながら床で微かに蠢いている。
魔の者は魔力を糧にして生きている為、魔力供給が切れれば酸素を失うにも等しい。
体内を流れる血液のように魔力が流れ、命を維持している為、魔力が途切れると激しい痛みが全身を襲う。
ネウスは、その魔力の供給を独断で遮断したのだ。
種を束ねる王として、その遮断の仕方は誰に教えられなくとも不思議と理解している。
自分の配下、同じ魔の者の種であればこうした事が行えるのだが、王であるネウスがこうした力を持つ事を知っている者は居ない。
知られてしまえば、配下達はネウスを恐れ、本当の信頼関係を築く事が出来ないからだ。
「何の目的があって人間を騙し、魔獣をあの場所に放った?お前らの頭は何をしたいんだ?」
「──……っ、何故っ、貴方がここにいるんだ……っ」
ネウスの言葉に、途切れ途切れながら魔の者が言葉を紡ぐ。
ぜいぜいと荒い息を吐き出しながら何とか言葉を絞り出す魔の者は今にも息絶えそうな程、真っ白な顔色で怯えたようにネウスに視線を向ける。
「俺がここにいるのが不思議か……?以前から創星祭の時はこの国に来ているのは知っているだろう?──ああ、終わってもまだこの国に留まっているとは思わなかったのか」
「くそ……っ、くそ……っ、あと少しで……っ」
「あと、少し……?」
魔の者の言葉に、ネウスは何かを考えるようにやや上空に視線をやって「ああ」と、何か思い付いたように声を出す。
「あの人間の男がお前達に渡した禁書が関係してんのか?何一つとして真実が記載されていないあの禁書が?」
「──っ!?」
ネウスが口にした「何一つとして真実が記載されていない」と言う言葉に反応して、魔の者は大袈裟に瞳を見開き、驚きを顕にするとネウスを凝視した。
ネウスは目の前に倒れる魔の者に対して「はは」と声を出して笑うとしゃがみ込んだ自分の膝に手を乗せ顎を手のひらで支えながら首を傾げた。
「魔の者の王の生態について、俺本人ですら数百年掛けて把握したのに人間が分かるわけねえだろうよ」
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