【完結】偽りの聖女、と罵られ捨てられたのでもう二度と助けません、戻りません

高瀬船

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──とても機嫌が悪そうだ。
ラドは、ネウスの表情とここに現れた際の雰囲気からそう察すると、自身もちょこんとソファに腰を下ろして唇を開いた。

「──ハピュナー嬢、ネウス様、その……夜会では……?」

何があったのか、と最後までラドは口にしなかったがラドの質問の意図が分かったのだろう。
ネウスは自分の眉間を指先で軽く揉むと、唇を開く。

「メニアの婚約者と、その女が魔獣を呼び込みやがった」
「──なっ!?」

ネウスの言葉に、ラドは瞳を見開くと慌ててソファから立ち上がる。
夜会に潜ませた国の諜報部隊からは何の報告も得ていない。
そのような事があり、夜会会場は、夜会に参加していた者達は無事なのだろうか、とラドが顔色を悪くしているとネウスが次いで言葉を紡ぐ。

「怪我人はあらかたメニアが治癒魔法で治したし、死者も出てねえ。魔獣は警備の人間と、こっちのやつが対処している」
「──ほ、本当ですか……!ハピュナー嬢、ネウス様ありがとうございます……!」

ラドはぱぁっと表情を明るくさせると、メニアに向かって笑顔で礼を述べる。
ラドの言葉に、メニアも笑顔で「とんでもない」と答えるが、メニアの隣に座っているネウスの表情は未だに不機嫌そうで、ラドはちらりとネウスに視線を向けて言葉を続ける。

「──これ以外にも、問題が起きたよう、ですね……?」

ラドの言葉に、ネウスは瞳を細めてラドに視線を向けると唇を開いた。

「ああ。よりにもよって、あいつら……メニアを偽りの聖女だなんだと罵りやがった……」
「──なっ!?」

ラドが慌ててネウスの隣に座るメニアに視線を向ければ、メニアは眉を下げて悲しそうに笑っている。

「メニア・ハピュナー嬢は、我が国の国王陛下が正式に任命した聖女ですよ……!?陛下の決定に、我々が異を唱えるなどあってはいけない……!」
「──なら、ラドがそう言ってやれよ。あいつらはメニアの婚約者の口車に乗せられて複数でメニアを罵りやがった。婚約者の男は、信用の魔法を使用していたようだったが、結局他の貴族も心の隅にはメニアを疑う気持ちが残ってたんだろうよ。……それだけ、この国で聖女と言う役割に任命されるのは稀なんだろ?」
「それ、は……そうですが……。そもそも、ハピュナー嬢が聖属性適性者である時点で聖女の任命は行われるのが通例です……寧ろ、今まで国がハピュナー嬢の適性判断を誤り、ご迷惑をお掛けしていて、聖女の任命も本当はもっと早くに行われる事だったのに……」
「まあ、それは聖属性の適性者である事をメニア達が隠していたんだから仕方ねえよな。……だがまだ十代の女に対して、寄って集っていい歳した男共が暴言を吐く事事態が間違ってんだろ。この国の貴族達はそんな奴らばかりか?」

ネウスは苛立ちを何とか堪えながらラドに言葉を紡ぐ。
だが、ネウスの怒気にあてられたかのように顔色を悪くさせると「申し訳ない」と謝罪を口にする。

「確かに、ネウス様の仰る通りです……成人前のご令嬢に対して、大人達がそのような言葉で責め立てるのは……成人男性として、貴族としてあってはならない最低な事ですね……その者達には、然るべき罰を必ず与えます……」

ラドはメニアに顔を向けると、深々と頭を下げる。

「ハピュナー嬢、我が国の貴族達が貴女を傷付けて申し訳ない……この国の宰相として謝罪致します」
「とっ、とんでもないです……!頭を上げて下さい、メランド卿……っ。私は気にしておりませんから……っ」

頭を下げ続けるラドに、メニアが慌てて顔を上げるように進めると、ラドは数秒間頭を下げた後、すっと上体を起こす。

「……諜報部隊が戻り次第、我々も国として対応を考えさせて頂きます」
「あー……それはありがたいんだが、対応はある事柄が済んでからで頼みてえ」

ラドの言葉に、ネウスが言葉を紡ぐとラドは戸惑いを浮かべる。
聖女に対して不遜な行いをした人物は、出来るだけ早めに処罰した方が良い。
国として、メニアを正式に聖女として認めている事を公表して、夜会でメニアを罵った者達に罰を与え、周囲の者達にも知らしめないといけない。

そうしないと、貴族の噂話は広がるのが早い。

周囲に居た貴族達の口から、今夜の夜会で起きた事柄がどんどんと広がっていってしまうだろう。
そうすれば、メニアの不名誉な噂が広がり、収束に時間が掛かってしまう可能性がある。

急ぎ対応をしない、と言うのに理由があるのだろうか。
ラドは不思議そうな顔でネウスを見詰めると、問い掛ける。

「ハピュナー嬢の不名誉を撤回しないのに、何か理由がおありで?」
「ああ。メニアの婚約者の女──名前は忘れたが、その女が厄介なもんを喚び出して願いを叶えようとしている……。その厄介な存在は、喚び出した人間の願いを叶えるまでは去らない。だから、こっちの仲間に今、その願いを探らせているからそれの処理が済むまでは一旦待っててくれ」
「そのような存在が……?」

ラドが不安そうな表情を浮かべた時、ラドの執務室の扉が何の前触れも無く音を立てて開き、カーナとユリナが現れた。


「お待たせ致しました!お話進んじゃってます?」
「カーナ……っ、先ずはご挨拶をなさい!」

バタバタと慌ただしくやってくる二人の背後から、ロザンナも苦笑しながら入室して来て、メニアが表情を明るくさせた瞬間。

「──メニア」
「え……、あっ、きゃあっ!」

ネウスに腕を強く引っ張られたと思った瞬間、メニアの頭を抱えるようにネウスがメニアを抱きしめ、そして室内の窓ガラスが大きな音を立てて割れた。
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