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しおりを挟む──時は少しだけ遡り、メニアとネウス、マティアスが姿を消した瞬間。
ネウスは転移魔法を発動した際に、当初の予定通りラドの執務室に移動するのでは無く、夜会会場の屋根へと転移した。
「──ネウスさん?ここ、は……夜会会場の屋根ですか?」
メニアは、不安定な足場にバランスを崩さないようにネウスにしがみつくと、ネウスもメニアの体を強く抱き留める。
きょろ、と不思議そうな表情を浮かべて周囲を見回すメニアに、ネウスは一点を見詰めると側に居るマティアスに唇を開いた。
「──マティアス」
「かしこまりました」
ネウスの言葉を聞いて、何を言わんとしているかが即座に分かったのだろう。
マティアスはネウスにさっと一礼すると、自分自身に身体強化の魔法を発動するとぐっ、と足に力を入れて力強く屋根を蹴ると飛び出して行く。
「──えっ、え?」
何が起きているのか分からないのだろう。
メニアがマティアスが飛び出して行った方向を唖然とした表情で見詰めていると、ネウスがメニアの頭を安心させるように撫でる。
「心配すんな。俺達以外の"魔の者"の気配を感じたからマティアスに追わせた。気配は複数あるが、どれか一つくらいは捕えられるだろう」
「魔の者の……?それ、は……セリウス様と協力関係にあると言う魔の者ですか……!?」
「多分な。俺達がここに居る事に気付いて逃げ出したが、逃げ出すのが遅かった。マティアスが誰でも良いから一人捕まえてくりゃあ相手がどれだけの規模で、何を目的として動いているのか……それが分かるからな」
ネウスは次いで心の中で「殺さなきゃいいけど」と呟くと、メニアを改めて抱き直すと「ラドの元へ行くぞ」と再度転移の魔法を発動した。
ラド・メランドは自分の執務室で、これからこの国が慌ただしくなる事に頭を悩ませていた。
数百年間、関係を断っていた魔の者が──それも、魔の者の王が突然今になってこの国に現れた。
それだけでも驚き、対応に追われると言うのにその魔の者はどう見ても明らかにこの国の人間──しかも、「聖女」である人間の女性に執心している。
自分の腹心達を使い、聖女の周辺を守らせ、あろう事か王である本人が聖女の護衛として常に近くに侍っている。
「これは……、どうしたものか……」
ラドは聖女の、メニア・ハピュナーの資料をぺらぺらと机の上で捲りながら眉を寄せる。
「婚約者は、セリウス・レブナワンド……。ハピュナー嬢が光属性の適性者と判明した途端に子爵家に婚約の打診をしたんだったな……」
格上貴族からの婚約の申し込みだ。
当時のハピュナー子爵には断る事など出来なかっただろう。
「だが、そもそも光属性では無く、聖属性だったとは……しかも良く今までそれが露呈しなかった物だ……」
それほど、メニアの両親。特に父親のハピュナー子爵は娘の適性に細心の注意を払っていたのだろう。
ラドは、夜会に向かう前にメニア達が持って来てくれた魔石を自分の指先で摘むと室内の照明に当てる。
光を浴びてキラキラと光る魔石はとても美しく、魔石に込められたメニアの聖属性の魔法が光に呼応しているかのように輝きを変化させている。
「早速、頂いた魔石を城の重要部分と私の執務室に設置した……ハピュナー嬢の聖属性魔法の精神干渉を弾く魔法も、発動したが……これは凄いな……綿密な魔力制御と構築式で魔法が発動されている……。魔道士ですら、私がこの魔法を発動している事に気付いていなかったぞ……?」
魔法の気配に敏感な筈のこの国の魔道士ですら、ラドが精神干渉を弾く魔法を自分自身に掛けている事に気付いていなかった。
優秀な魔道士が、魔法を発動している事にすら気付く事が出来ない程、自然に体に馴染んでいる。
「──これ程の力があるのに……何故レブナワンドの子息はハピュナー嬢と婚約破棄を行いたいんだ、一体……」
自分だったら絶対に手放さないのに、とラドが考えていると突然目の前に何の前触れも無く、メニアを抱えたネウスが現れて、ラドは小さく悲鳴を上げた。
「──ひええぇっ!」
「……っ、うるっせえ……っ」
ラドの声を間近で聞いてしまったネウスは煩わしそうに眉を寄せると、抱えていたメニアを床へと下ろす。
敵襲か、と思ったラドは目の前に現れたメニアとネウスの言葉にあわわ、と口を閉じると二人に向かって謝罪をする。
「も、申し訳ございません……!些か驚いてしまい……!」
「メランド卿、こちらこそ突然来てしまって申し訳ないです……!いきなり現れては驚きますよね……っ、すみません……!」
あわあわと謝罪をし合うメニアとラドに、ネウスは一瞥すると、メニアの手を取って執務室のソファへと足を進めてどさり、とソファに腰を下ろした。
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