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しおりを挟むセリウスの目の前から、この夜会会場そのものから忽然と姿を消したメニア達三人に、周囲の貴族達が騒ぎ始める。
「──空間転移!?あの魔法を使用出来る人間は居ない筈だぞ……!?」
「この場所に転移の魔道具も無いのに、何故あの男は姿を消したんだ……!?」
周囲の貴族達はざわざわと騒ぎ出し、そして先程ネウスが口にした言葉を思い出してセリウスに視線を向けた後、ヒソヒソと小声で何かやり取りを始めた。
「待て、それよりも……ラド・メランドがこの騒ぎを……」
「宰相に見られたら流石に不味いだろう……」
「いや、私達はそこのレブナワンドの子息に煽られただけで、別に……」
「そうだ、そもそも聖女様を始めに疑い始めたのはレブナワンドの子息だ、我々はレブワナンドの子息の言葉に賛同しただけで……」
「我々の総意では無いからな……!」
貴族達は好き勝手にセリウスに言葉を掛けると、その場から逃げるようにそそくさとフロアを離れる。
「──セリウス、大丈夫かしら……?」
セリウスの背後から、心配そうなシャロンの言葉が聞こえて来てセリウスはシャロンに振り向く。
会場の雰囲気が悪くなっている事に気付き、不安になっているのだろう。
シャロンはきょろきょろと周囲を見回している。
「あ、ああ。大丈夫、大丈夫だよ。シャロン……メニアに聖女に値する力が無い事はこの国の貴族達に周知された筈だ……」
不安そうな表情を浮かべるシャロンをそっと抱き寄せると、セリウスはシャロンを元気付けるように背中をぽんぽん、と何度か叩く。
「本当は、この場でメニアを糾弾して婚約破棄を行うつもりだったんだが……邪魔をされて逃げられてしまった。けれど、聖女の名を貶めた事はこの国では大きな罪になる。正式にこの後、レブナワンド侯爵家からハピュナー子爵家に婚約破棄を行う」
メニアが悪事を働いたと知れば、自分の両親も大人しく諦めるだろう。
きっと、メニアは数日中に聖女の任を解かれてこの国の逆賊として扱われる筈だ。
(逆賊──……だが、実際に国に対して損害を与えてはいないから、処刑まではいかない筈だ……だが、聖女を騙った罪は重いから生涯幽閉か……子爵家は良くて取り潰し、悪ければ罪人の親族は労働刑に処されるな)
セリウスはそう考えると、シャロンに向き直り微笑む。
「シャロン。やっとだ、やっと約束が果たせるよ」
「嬉しいわ、セリウス。これでもう我慢せずに、私がセリウスの婚約者に、セリウスの妻になれるのね──」
感極まったように瞳を潤ませてぎゅうっとセリウスに抱き着くシャロンを、遠くから──カーナとユリナが見詰めていた。
「なるほど……?けど、なるほど、なのかしら……?」
「あの二人に取ってはとても大きな事だったのでしょう」
「ふーん……メニアさんとさっさと婚約解消すればいいだけなのにね?」
「想い合う自分達を引き裂いたメニアさんを傷付けたいとでも思っていたんじゃないかしら?」
「──えぇ?人間の世界で良くある悲恋物みたいね?悲劇のヒーローヒロインに浸ってるのかしら?」
「そうじゃない?巻き込まれたメニアさんはたまったものじゃないわね」
ユリナはロザンナから渡された「盗聴」の魔道具を耳から外すとまだ楽しそうにその場に残りたがっているカーナの手首を掴んで会場を後にした。
「で、ネウス様達は何処に行ったんだっけ?」
「あんた、本当にちゃんと話を聞いてないのね。転移する場合は、ラドって宰相の執務室に転移するって言ってたわよ」
カーナの言葉に呆れながらユリナが言葉を返す。
二人が会場の外に出れば、予め予定していた通り、王城の執務塔に向かう馬車が待機しており、カーナとユリナの姿を認めると、馬車の御者が扉を開けた。
「すっごー。私達の絵姿もしっかりあちらに連絡済みなのね?」
「まあ、ネウス様が直接動いているって言うのもあるけれど、後はお母様が実際この国に来ているのが大きいわよね」
「あー……。そうね……そうだったわ……アルハランド侯爵家にはお母様の絵姿がしっかりと残っているんだったわ……。お父様が映像記録の魔道具も多用してたし……」
「侯爵家がお母様の身柄を保証したからね」
二人で馬車に乗り込むと、馬車はゆっくりと動き出す。
馬車の行先は、勿論ラドの執務室だ。
あの場所でメニア達はカーナとユリナが到着するのを待ちながら、ラドが放った国の諜報部隊の報告も同時に待っている。
諜報部隊は、映像記録の魔道具を持たされているらしいのであの場で起きた事全てを映像に記録しているだろう。
セリウスは勿論、あの場でメニアを偽りの聖女だ、と糾弾した貴族達の姿もしっかりと撮ってくれているだろう。
全ての証拠や、カーナやユリナの証言を元にこの国の宰相であるラドと、国王が貴族達の今後を決めるだろう。
カーナとユリナは、馬車の窓から見える景色を眺めながら王城に到着するまでの時間を楽しんだ。
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