【完結】偽りの聖女、と罵られ捨てられたのでもう二度と助けません、戻りません

高瀬船

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広範囲の治癒魔法。
セリウスが発した言葉に、周囲の貴族達は表情を輝かせ、メニアに視線を向ける。

「そのような魔法が使用出来るのならば……!」
「早くその広範囲の治癒魔法でぱぱっと治して下さいよ!」
「──……っ、」

メニアには、広範囲の治癒魔法など発動出来ない。
あの時発動出来たのは、セリウスから貰った魔力増幅のブローチ魔道具を創星祭に付けて行っていたから広範囲治癒魔法を発動出来ただけだ。

そのブローチ魔道具を渡して来たセリウスは、メニアがそのブローチのお陰で魔力が増幅し、あれだけの広範囲治癒魔法を発動出来ていた事を理解している筈だ。
それなのに、出来もしない事をこの場でやれ、と強要してくると言う事は大勢の前で聖女としての治癒魔法が発動出来ない事を露見させようとしているのだろうか。

メニアは何とも言えない表情を浮かべると、セリウスから視線を外して怪我人への治癒を続ける為に怪我人に向き直る。

だが、そのメニアの態度を見た貴族達が更にメニアに近付いて来る。

「──聖女様、そのようにちまちまと魔法を掛けるのでは無く早くいっぺんに治して下さいよ!」
「ああ、痛い……っ何故怪我人である我々を捨て置いてただの警備の人間等を治すのか……!」
「……っ、少しだけ黙っていて下さい……っ!何度も話し掛けられてしまうと、集中が乱されてしまうんですっ」

メニアが堪らない、といった様子でつい貴族達に言葉を掛けると、その様子にセリウスが首を傾げて周囲に良く聞こえるような大きさでメニアに声を掛ける。

「でも、メニア。彼らの言う事も尤もだろう?何故、あの日のように広範囲治癒魔法を発動しないんだい?あの時のように発動すれば、複数の怪我人を直ぐに治癒出来るだろう?」
「──っ、セリウス様も、少しだけ黙っていて下さい……っ」

セリウスとメニアの会話に、周囲に居た貴族達がざわざわと疑問を口にし出す。

「そもそも、広範囲の治癒魔法を発動出来ると言う事は魔力が豊富で、魔力制御も優れた者であるという事だろう?だからこそ、聖女様に任命されたと言うのに……」
「──集中が乱される、と言っていなかったか……?それだけの豊富な魔力と、魔力制御が出来ていた聖女様が何故、今この場所で同じ事が出来ない?」
「その時に発動出来た、と言う広範囲治癒魔法がもう発動出来ないと言う事か……?」

こそこそ、ひそひそとメニアの周囲で貴族達が話始めるがその言葉達はしっかりとメニアの耳にも届いて来る。

周囲の貴族達の疑問が大きくなり、メニアへの不信感が育って来ている事が如実に分かり、ネウスとマティアスは関心する。

(──なるほどな。メニアの婚約者はこうして周囲からメニアを疑わせて、聖女は偽りだ、とでも糾弾するつもりだったのか……)
(それ、をこの国の重役達が監視でもしてるんですかね?)
(多分、な。だからこそ、ラドが言っていたあいつらは動じずこっちを観察したままだ。……と言う事は、この場では俺達が下手に動かず成り行きを見守った方がいいって事か。この国に害ある人間達を見極めてんだろ)

ネウスとマティアスは、お互いにしか聞こえない程度の極小さな声で会話を続ける。

先程から、セリウスの言葉に煽られてメニアを疑問視する貴族達の語気が荒くなって来ており、興奮気味になって来ているのが良く分かる。
ネウスはメニアの側に近付くと、興奮気味の貴族達を牽制するように周囲に視線を巡らせる。
マティアスも腰の剣に手を添えると、厳しい視線で周囲を見回した。

先程、魔獣を相手に戦ったネウスとマティアスの姿をしっかりと見ている貴族達は、流石に襲いかかっては来ないがメニアへの不信感は時間が経つと共にどんどんと募っていっているようだ。

怪我人を運んでいたカーナやユリナも、心配そうにメニアに視線を向けているが、ネウスは二人には近付かないように視線で制す。
「その他大勢」の中の一人でいてもらった方が後々都合が良いかもしれない。



「メニア……メニアはもしかして、本当は広範囲治癒魔法を発動出来ないの……?」

セリウスがぽつり、と零した言葉に周囲の貴族達が「何だと!?」と声を荒らげた。

「──それならば、ただの光属性の使用者が聖女を騙ったと言う事か!?」
「それならば納得が行く……!これだけ言われても、ちまちまと一人しか治さないのも、複数人を同時に治癒出来ないからか!」
「聖女を騙って、その権利を欲しいままにしていたのか……!?」

セリウスの言葉一つで、突然貴族達は興奮したように口々に声を荒らげてメニアを詰める。
周囲の人々の突然の変化に、メニアは驚きに目を見開くと治癒魔法の発動が途切れてしまう。

その様子を、図星だったのだろう、と歪曲した貴族達が声高に自分達の言葉が正しかったのだ、と吹聴し始めた。

「──やはり、そうだったのか!」
「何か姑息な手を使い、この国の聖女に任命され、その権利を悪用していたのだな!」
「聖女を偽る最低な人間だ……!」

貴族達の言葉に、その周囲で様子を見ていた他の貴族──この夜会に参加していた貴族達が俄に騒ぎ始める。
大多数の言葉を信じやすいのが人間だ。
誰かがメニアを疑い始め、その雰囲気が広がり始めればその雰囲気に呑まれて良く知りもしない内に多数の人間の言葉を信じ始める。

現に、メニアが広範囲治癒魔法を今現在使用していない、と言うだけでメニアを聖女では無いのでは、と疑うような流れが出来始めてしまっている。

「メニア……、本当に広範囲治癒魔法を使えないの……?俺達を騙していたの……?」

とても悲しそうに眉を下げながら問い掛けてくるセリウスに、周囲の喧騒は更に大きくなった。
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