【完結】偽りの聖女、と罵られ捨てられたのでもう二度と助けません、戻りません

高瀬船

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カーナとユリナが指差す方向へ視線を向けると、逃げ帰って行く魔獣達と、その魔獣達の近くに何人も蹲っている姿が確認出来る。

魔獣達の襲撃が落ち着いた事が分かったのだろう。
フロアの奥に集まっていた貴族達がパラパラと移動し始め、怪我人の手当等をし始めている。

魔獣の姿が無くなった事から、ネウスはメニアを床に降ろすとメニアを先頭にカーナとユリナが示した方向へと駆け出した。





「聖女様、こちらの方なのですが、腕を魔獣の牙で傷付けられていて……出血が止まらない状態です」

ユリナの説明に、メニアはこくりと頷くとその男性に向かって治癒魔法を発動する。
目の前の男性は、警備の者なのだろう。騎士服を身に纏っているネウスやマティアスと似たような服を着ている。
ネウスやマティアス達の黒を基調とした団服では無く、警備の男性は白を基調とした団服を着ている。
似たような団服を着ていると言う事から、この夜会の警備の者も国から正式に派遣されている警備、と言う事だろう。

メニアが治癒魔法を発動している間に、背後に控えていたネウスとマティアスは周囲の様子を伺う。
ラドが王城の者達もこの夜会に潜ませ、国に悪意を持った者を把握すると言っていたがこの者達なのだろうか、と考え二階へとネウスが視線を向けると複数の人影がささっとネウスの視界から逃れるように動いた。

「──……?」
「どうしました、ネウス様」

ネウスの様子に違和感を感じたマティアスがネウスに話し掛けると、ネウスは二階の方向を顎でしゃくり、マティアスの視線を先程の影が隠れた方へ誘導する。

ネウスとマティアスが二階のその方向へ視線を向けると、複数の影達がちら、と姿を表しぺこりと二人に頭を下げた。

「……ああ、あいつらはラドの言っていた人間か」
「あ、潜り込ませると言っていましたね、確か」
「一回隠れたっつー事は、潜り込んでるのが露見したら不味いって事か」
「視線を逸らしておきましょうか」

ネウスとマティアスがメニアの側で小さく会話を続けていると、怪我人で、自分の足で動ける者達がわらわらとメニアの元へと近付いて来る。

「聖女様、俺にも治癒魔法を……!」
「聖女様、あちらに動けない者がいます、助けて下さい!」
「聖女様──……っ!」
「す、少しだけお待ち下さいね……っ、必ず皆様の元に行きますので、少しだけお待ち下さい!」

この場で治癒魔法を発動出来るのはメニアのみなのだろう。
唯一、怪我を治す事が出来るメニアにわらわらと人々が集まって来る。
警備の者だけでは無く、魔獣に応戦していた軽傷の貴族達もメニアの元に集まりだして来て、ネウスとマティアスはすかさずメニアを守るように周囲の人間達を牽制する。

「聖女様は、大怪我の人間を優先して診て行く……!」
「動ける者は、──あちらに。自分の足で動けない者は誰か手を貸してやってくれ……!こちらまで連れて来て欲しい……!」

ネウスとマティアスが周囲の者達にそう告げるが、素直に従う者は半数程で、それ以外の半数はネウスとマティアスの言葉を無視して我先にメニアに治癒魔法を掛けて貰おうと近寄る事を止めない。

「聖女様、そんな死にかけの人間よりも私を……!」
「金ならばある!優先して助けてくれれば報酬は弾むぞ!」

身勝手な事を叫び、近付いて来るのは殆どがフロアの奥に逃げた貴族達で、その貴族達は逃げる際に足を挫いたから治癒魔法を掛けてくれ。や、転んで擦りむいたから治癒魔法を掛けてくれ、などと軽傷の傷を治してくれとずいずいと自分の願いを押し通そうとして来る。

度々話し掛けられてしまうと、魔力の練り上げが乱れてしまう。
これだけの大勢を治癒するのであれば、魔力を少しも無駄には出来ない。
メニアが「大人しくしていてくれ」と苦言を呈す前に、ネウスとマティアスがその貴族達に声を荒らげる方が早かった。

「──だから、待てと言ってんだろう!軽傷の奴らは後回しだ!重傷者を先に治癒する!」
「自身で動ける者はあちらに行くように!」

ネウスとマティアスの言葉に、メニアに近付いて来ていた貴族達はカッとしたように瞳を見開き、怒りで顔を真っ赤にすると口汚く罵り始める。

「貴様ら!たかが騎士如きが我々に逆らってもいいと思っているのか!」
「聖女の力は、皆で共有する!それがこの国での常識だぞ!」

頭に血が登った貴族達は、メニアの腕を掴もうと身を乗り出すが、素早く動いたネウスが貴族の足を払う。

ぎゃっ!と汚い声を上げて床に転がる貴族に対して、ネウスは更に唇を開こうとした所でネウスの声では無い男の声がその場に響いた。




「そうだ、メニア!皆を広範囲の治癒魔法で治して差し上げればいい!聖女に任命される切っ掛けになった、あの広範囲治癒魔法だ!あの時のように大勢の人達を同時に治してしまえばいいだろう!」

メニア達が驚き、振り返るとそこにはいつの間に接近して来たのか。
セリウスが薄ら笑いを浮かべながら立っていた。
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