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しおりを挟む──きゃああ!
と、耳を劈くような女性の甲高い悲鳴が上がり、その声に反応した魔獣が、悲鳴を上げた女性に向かって進路を変更した。
「──馬鹿が」
ネウスは眉を顰めて小さく罵ると、自分の横に居るマティアスに指示を飛ばす。
「マティアス、助けてこい」
「かしこまりました」
魔獣に狙いを定められた貴族女性は、自身の炎属性魔法を咄嗟に発動しているが、魔力が少ないのか、それとも動揺して上手く魔法を発動出来ていないのかは不明だが、弱々しい球体の炎を作り出すだけで、全く魔獣に攻撃が出来ていない。
この距離であの貴族女性が魔獣に襲われてしまえば、メニアの視界にも入ってしまう。
(魔獣は人間を喰らうからな。メニアに見せる訳にはいかねえだろ)
マティアスが貴族女性の元へ駆け寄ると、駆けていた速度を落とさずに魔獣に接近し、直前で床を蹴ると片足を軸にして魔獣の腹に自身の膝から下の部分を叩き込む。
魔獣の腹に自分の足が当たった瞬間に、マティアスは遠心力を利用して体を半身捻るとそのまま魔獣の体を入口方面へと吹き飛ばし、戻す。
ぎゃっ、と汚い呻き声を上げて魔獣が床へと叩き付けられた所を、マティアスは風属性魔法を自分の剣に付加すると、そのまま横に刀身を凪いで斬撃を繰り出すと風の刃となった魔法がそのまま魔獣達に命中して胴体を切り裂いた。
マティアスの行動を読んでいたのだろう。
ネウスは数歩程下がっており、先程立っていた場所にそのまま居ればマティアスの攻撃で傷を負った魔獣達の血がメニアとネウスを汚してしまっていただろう。
「わっ、マティアスさんってあんなにお強いんですね……!」
「まあ、俺の仕事を任す事もあるし、あいつは父親の魔法のセンスを受け継いでるしな」
「あのカーティス様の!す、凄いです……っ!」
マティアスの戦いぶりに興奮したのか、メニアがしきりに凄い凄い、とマティアスを褒めていて、ネウスは些か面白くない。
むすっと表情をつまらなさそうに歪めると、マティアスが始末しそこなったのだろう。
マティアスの攻撃から逃れた魔獣が上体を低く伏せたままメニアとネウスに接近して来る。
ネウスが魔獣に気付き、魔獣に視線をやると一瞬魔獣が怯んだが魔獣の瞳を見てネウスは瞳を細めた。
魔の者、魔獣や魔物は瞳が赤い。だが、何者かに意識を操られていると瞳の色がどす黒く濁る事がある。
ネウスが視線をやった魔獣の瞳はどす黒く濁っており、誰かに操られているのだろう、と言う事が伺えた。
「──操縦、か?ひでぇ事をしやがる……」
「──え、?」
ネウスがぽつり、と呟いた声に反応したメニアがマティアスからネウスに視線を戻そうとした瞬間。
ネウスが飛び掛って来た魔獣を自分の足で蹴り飛ばすと、「きゃんっ!」と犬のような鳴き声を上げてそのまま入口へと吹っ飛ばされた。
「えっ、え?」
メニアが驚いている内に、入口を突破して来た魔獣達はマティアスの攻撃にあっさりと押し戻され、時々マティアスの攻撃から逃れた魔獣がネウスに飛び掛って来るが、そのまま蹴り飛ばされる。
何度かその行動を繰り返す内に、魔獣の襲撃が落ち着いて来たのだろう。
入口を突破して、こちらにやって来る魔獣の数が減り、そしてぱったりと魔獣の姿がフロアに現れなくなった。
「た、助けて下さりありがとうございます……!貴方がいなければ、命を落としておりました……!」
「え、?ああ、いえ。我々は聖女様をお守りする為に行動したまでですので」
マティアスが、結果的に助ける形になった貴族女性からお礼を告げられているが、マティアスは素っ気なくそう返答するとメニアとネウスの方へと小走りで戻ってくる。
「──ネウス様……良くメニアさんを抱えたまま魔獣の相手を出来ますね?」
マティアスは、メニアをしれっと抱えたまま魔獣達を追い返していたネウスに呆れたような笑みで話し掛ける。
「あ?メニアを下ろしちまった方が守るのに不都合だろ?俺と居れば怪我なんてする事はねえんだし、こうして動く方が一番安全だ」
「まあ、それはそうですけど」
当然のようにそう告げるネウスに、マティアスは苦笑する。
このような場所で聖女であるメニアを抱えたまま魔獣を追い払ってしまえば、悪目立ちしてしまうのだ。
その証拠に、先程からネウスとマティアスに話し掛けたいといった雰囲気の貴族達がそわそわとしながら様子を伺っている。
二人が騎士の団服を身に纏っている為、騎士団の所属だと思い、何とか繋がりを得たいのだろう。
しかも、ネウスとマティアスは「聖女様」の護衛をしている。
重要人物の護衛をしている事から、この国でもある程度身分のある貴族家の出なのだろうと推測しているのだろう。
だが、聖女であるメニアと、その護衛である二人に表立って近寄り、話し掛けようとしている者達は居ない。
聖女であるメニアに不敬を働けば、その家がどうなるかしっかりと分かっているのだろう。
周囲の貴族達は、メニア達に話し掛けたいのは山々だが、お互い牽制し合っている状態だ。
そして、ネウスとマティアスが軽口を叩いていると、入口の方で行われていた戦闘も一区切りついたのだろう。
入口の方向から見慣れた顔の令嬢二人が駆けて来る。
「──メニっ、」
「聖女様!護衛の方っ!怪我人が居ます!ご助力ください!」
カーナがうっかりメニアの名前を呼んでしまいそうになり、すかさずユリナが大きな声で聖女であるメニアに向けて声を上げた。
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