【完結】偽りの聖女、と罵られ捨てられたのでもう二度と助けません、戻りません

高瀬船

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その魔の者は、シャロンから何か不思議な魔力を感じる、と言ってある日突然セリウスとシャロンに接触をしてきた。

シャロンは、少しだけ気まずそうに視線を泳がせたがその魔の者の言葉を聞いてみようと言うシャロンの説得にセリウスは頷いた。


その魔の者は、自分達の種族の王をどうにか排除したいと考えているようで仲間達を集めている最中らしい。
王の力は強大で、今のままでは勝てる見込みがないからとセリウスに魔の者の記録が記載されている国の貴重蔵書の持ち出しを依頼してきた。
魔の者の記録、とは言えその蔵書に記載されているのは王についての事柄が多く記載されているらしい。
その蔵書を確認すれば、何か王に対して対策する事が出来るかもしれない、と言うのが魔の者の言い分だった。
そして、その蔵書を得やすくする為に人間達を洗脳しやすいように魔の者の闇魔法である「魅了」が封じられた魔石を数多く渡された。


魅了は国で禁じられており、使い手すら居ないと言われているが、使用されれば魅了のような精神干渉魔法に抗う術は今の人間には無い。
聖属性魔法には、精神干渉を解呪してしまう魔法もあるらしいが、その魔法を取得している者は国内には居らず、またその魔法の詳しい発動条件などを知っている人間もこの国内には居ない。

その事から、魅了と信用を重ね掛けし続ければ、メニアを洗脳し続け、自分達の良いように扱えると思い、セリウスは魔の者と手を組んだのだが──。




「こんな事になるとは……!」

セリウスはフロアの奥へ、奥へとシャロンを連れて逃げながら魔獣達の襲撃が早く収まってくれるのを待つ。
セリウス達の他にも、同じように魔獣から逃げようとしている貴族達の大勢がセリウスやシャロンにどんっ、とぶつかってくる。

「──セリウス……っ」
「大丈夫だ、シャロン。魔獣達の襲撃も直ぐに収まる筈……。多少犠牲は出るだろうが、大勢の人間を傷付けるつもりは魔の者達にもないだろう……。襲撃が収まったら、メニアに治癒魔法を怪我人達に掛けさせよう」

セリウスは自分に言い聞かせるようにシャロンに説明する。
自分達は、魔の者の協力者だ。
流石に、この場で命を脅かされる事はないだろう、と考える。

セリウスは、メニアが居る場所を把握しようとキョロキョロと周囲を確認する。
すると、セリウスの視線の先で護衛の黒髪の男に抱きかかえられたメニアを見付ける。

セリウスの視線を追っていたシャロンも、メニア達の姿を見付けたのだろう。
大事そうに抱えられ、守られているメニアに怨嗟の凄まじい憎悪の念が篭った視線を向けている。

「──何で……っ、あの女ばかり……!光属性の適性者ってだけで……っ!」

シャロンが低く、悍ましい憎しみを込めたような声音でそう呟く。

シャロンは、自分から何もかもを奪って行ったメニアを心の底から憎み、恨んでいる。
それはセリウスも同じだが、シャロンは些か感情を表に出しすぎてしまう。
セリウスのように、憎い相手にも平気な顔をして対応しなければ。
メニアに勘付かれてしまったら元も子も無い。

「シャロン。もうすぐだから。もうすぐ、メニアと婚約を破棄して、シャロンと婚約を結び直せるから、落ち着かないとそうしないと俺達の企てが露見して、メニアが阻止して来たら厄介だろう?」
「それっ、は……そうだけど……っ。メニアはきっと、貴方との婚約を破棄したくないとみっともなく縋ってくるでしょうね……。聖女に任命されたメニアなら、滅茶苦茶な権利を振りかざして貴方を縛り付けようとするものね……」
「ああ。だからこそ、この国の貴族達を味方に付けるんだ。メニアが、聖女の名前を悪用しようとしていた、とこの国の貴族や国民達に流布すれば、メニアへの……いや、メニアのハピュナー子爵家はこの国から蔑まれ、糾弾されるだろう。そうすれば、聖女を騙ったメニアと穏便に婚約破棄出来るからね」
「ええ、そうね……。そうだわ、そうだった……。メニアをこの国の国賊に出来てしまえば、セリウスはメニアから解放されるわ……!」

セリウスとシャロンは、お互いに強く手を握り合うと、黒髪の護衛騎士に守られているメニアに再度視線を向ける。

大分、メニア達もこちら側に避難して来ている。
そこで、セリウスは魔獣がメニアを襲って始末してくれれば全て丸く収まるのに、と心の中で呟いた。










「──メニア、あいつらは居たか?」
「居ました。フロアの最奥の方に。他の貴族の方達を押し退けて避難したみたいですね」

ネウスは、入口の方向から視線を離さずにメニアに話し掛ける。
メニアは、ネウスの肩に自分の手のひらを置くと、ぐっと乗り出して奥の方へと視線を向けてからネウスに返答する。

だが、乗り出したメニアの背中をネウスは軽く叩きながらメニアに注意するように唇を開いた。

「あまりあいつらを注視するなよ。こっちが見張ってる、と察されたら面倒くせえからな」
「──あっ、そうでした、すみません……!」

ネウスの言葉に、その方向を見詰めていたメニアは、直ぐに視線を逸らし魔獣が未だ暴れている入口方面へと視線を向ける。

入口では、この国の警備の者と、カーナとユリナが協力して戦ってくれているようだが、フロア内にも魔獣は複数侵入して来ており、近場に居た貴族達に襲いかかっている。
貴族達も、自身の魔法で何とか防戦しているが傷を負っている者も多い。

「治癒魔法も、使ってはいけませんか……?」

セリウスとシャロンの企てに巻き込まれ、傷を負ってしまっている者達を不憫に思ったのだろう。
メニアがネウスにそう話し掛けるが、「今はまだやめとけ」と言われてしまう。

夜会会場に流れる緊張感など気にも止めず、ネウスとマティアスはのんびりとこの騒ぎの成り行きを見守っているようだ。

そうして、ネウスとマティアスがのんびりとしていると入口の方で暴れていた魔獣の数頭がメニア達の避難している方向に向かって駆けて来た。

メニア達の周囲では、他の貴族達の悲鳴が次々と上がった。
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