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しおりを挟むセリウス・レブナワンドには幼い頃から好きな女の子が居た。
その子と出会ったのは、セリウスがまだ七歳の頃で、その女の子も七歳。
その子との出会いは、セリウスの侯爵家で開かれたお茶会が切っ掛けだった。
侯爵家のお茶会に招待されたのは、伯爵家以上の子息や令嬢達で、セリウスと年齢の釣り合いが取れる五歳から七歳の子供達。
そして、レブナワンド侯爵家のお茶会にその女の子も招待されていた。
その女の子も、セリウスと同じ七歳で、同じ侯爵家の令嬢。
当時から飲み込みが早く、頭の回転が早かったセリウスにも、その女の子は対等に話す事が出来て、そのお茶会で意気投合したセリウスとその女の子は二人がもう少し大きくなったら正式に婚約を結ぶ予定だったのだと思う。
その女の子の名前は、シャロン・タナヒル。
タナヒル侯爵家の長女で、今現在セリウスの恋人である。
レブナワンド侯爵家も、タナヒル侯爵家も、婚約を結ぶ事に賛同はしていた。
だが、直ぐには婚約を結ぶ事は無く、婚約は二人が十歳の年になってから結ぼう、と両家で決めていたらしい。
だが、お互いの家では既に婚約は内定していた事から、七歳で出会ってからは頻繁にセリウスとシャロンは会うようになった。
僅か七歳とは言えども、自分達は将来結婚するのだろうと言う事は分かっていたし、もう少し大きくなったら婚約をするのだと理解していた。
だからこそ、セリウスもシャロンも「婚約者になったら」とか、「将来結婚したら」などと様々な事を話していた。
それが、突然崩れたのはセリウスとシャロンが十歳になった年だった。
セリウスの両親は、突然シャロンと会うのを止めさせ、セリウスに似合いの女の子が居ると他の令嬢を進めて来たのだ。
それが、メニア・ハピュナーで子爵家の三女。
爵位に差があれど、高位貴族の生まれであるセリウスは子爵家を蔑むような態度は見せなかったが、疑問は残った。
何故、同じ侯爵位のシャロンでは無く、子爵家のメニアと言う令嬢と突然婚約を結ぶのだろう、と。
そして、やはり自分はシャロンと婚約を結びたいと考えていたので父親にその事を話し、どうにかメニアと言う令嬢との婚約話を無しにして欲しいと懇願したが、父親は首を縦には振ってくれなかった。
何か、家の事情でもあるのだろうか。侯爵家とはいえ、子爵家の人間と政治的な観点から婚約を結ぶ必要があるのか、とセリウスは必死に自分を言い聞かせようとした。
貴族である自分達は、政略的な婚姻も必要なのだから、いくらシャロンを好きでも時には諦めないといけない事もある。
それならば、家の為にメニアと言う令嬢と婚約を結ぶ事も仕方ない、と考えていたセリウスは、メニアと婚約を結ぶ事になった理由を知って、愕然とした。
「光属性魔法の適正者だから」
ただ、それだけの理由で大好きなシャロンとの婚約の話が無くなり、ただ治癒魔法が使えるだけの令嬢が自分の婚約者になった。
そして、おどおどとして、全く嬉しそうにしていないメニアを見てセリウスは苛立ったのだ。
自分と、シャロンとの仲を引き裂いておきながら、高位貴族であるセリウスと婚約を結んだ事をちっとも喜んでいない。
寧ろ、少しだけ嫌そうにしているその態度を見てセリウスは憤りを感じた。
ただ、治癒魔法が少し使えるだけで。
ただ、光属性の適正者だと言うだけで。
それだけで、自分達を引き裂いて自分だけは幸運を掴み取ったメニアに憎しみを抱くのは早かった。
呑気に笑っている姿が憎らしくて、思い切り傷付けたくなった。
笑っているその裏で、苦しんでいる人がいる事を少しも考えないその姿に滅茶苦茶に傷付けたくなった。
メニアと婚約を結んで、数年。
セリウスは友人としてシャロンとも会い続けた。
両親はあまり良い顔をしなかったが、セリウスがメニアを婚約者としてちゃんと大事にしている事を知っていたからか、シャロンと会う事を止められる事は無かった。
シャロンに対するセリウスの対応が「友人」としての接し方だったのをしっかりと両親に見せていたからだろう。
だから、セリウスはシャロンとの逢瀬を変わらずに楽しみ、同時にメニアには会う度に「信用」の魔法を掛け始めた。
婚約者である自分の言動を疑わないように、信頼出来るように会う度、会う度にメニアに分かりにくいように信用を掛け続けた。
婚約者がいるのに、シャロンと会う事に不信感を抱かないように、友人関係だと信じ込ませるように掛け続けた。
そして、メニアの光属性適正者の権利を、恩恵を全部自分の物にして、今後もし聖女にでも任命されたら全てを搾り取ってから捨ててやろうか、と考えた。
シャロンも、その考えに同意してくれたのが実行するに決断した影響が大きい。
シャロンは、セリウス以上にメニアに怒りを抱き、憎んでいるようだった。
だから、メニアを傷付ける事にも躊躇いなど無いし、罪悪感など感じる事も無い。
そして、丁度そんな時だった。
セリウスと、シャロンが十四歳の時に魔の者に出会ったのだ。
その魔の者は、王になりたい、と口にした。
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