【完結】偽りの聖女、と罵られ捨てられたのでもう二度と助けません、戻りません

高瀬船

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突然後方から上がった悲鳴に、ネウスとマティアスは素早くそちらの方向に視線を向けるとメニアを庇うように腕を掴み、ネウスとマティアスの間に立たせる。

「──何の騒ぎだ……っ」
「……セリウス・レブナワンド……お前、何をした……?」

ネウスとマティアスは、いつでも攻撃に転じれるよう、腰の剣を抜き放つとネウスは鋭い視線でセリウスを射抜く。

ネウスの言葉に、怯むようにびくりと肩を揺らしたセリウスは夜会会場の入口付近の方向へ視線を向け、ネウスから視線を逸らす。

入口の騒ぎは段々とフロア奥にまで伝わって来ており、メニア達の周囲に居た人達にも戸惑いが広がって来ている。
この場に居続けてもいいものだろうか、と悩んでいる者もいるが、会場の入口は今正に騒ぎが怒っている中心地で、その場に向かうのを周囲の者達は躊躇い、そして徐々に緊張感が漂い始めている。
入口方面から人々がフロア奥、メニア達が居る場所へと逃げて来ているようでこの状況で流れに逆らい、入口方面に行く事は出来ないだろう。

ネウスは、逃げ惑う人々の隙間からちらり、と姿を表したその存在に瞳を見開くと、「魔獣だ」と小さく口にした。

「──え」
「何故こんな場所に魔獣が出現したんだ……?」

ネウスが小さく口にした言葉が周囲の人間に届いてしまったのだろう。
その場が瞬時に緊迫した雰囲気に包まれる。

そして、次の瞬間にメニア達の周囲に居た者達が大きく悲鳴を上げて、入口から距離を取る為にフロアの奥へ奥へと逃げ始めた。

元々、今回の夜会は大きな物だ。
その為に会場警備には多数の人員が割かれており、入口から微かに戦闘の気配はする。
だが、この国の人間達は長い間魔獣や魔物とは争っていない。
軽微な戦闘は経験した事はあるだろうが、人間を「捕食」するような魔獣や魔物との戦闘には不慣れな者ばかりだ。

「魔獣が出たのであれば……っ、」



メニアが小さく口にし、魔法を放とうと魔力を練り上げる気配を察知したのだろう。

「──メニア……!今は聖属性魔法を使うな……!」

ぱしり、とネウスに腕を掴まれて小声で囁かれる。

「ですが……っ、このままでは魔獣達が人々を襲ってしまいます……っ」
「メニアが聖属性魔法の使い手だと言う事を知っているのは両親と宰相、国王だけだろう?婚約者の前で自分の属性をバラしちまうのは得策とは言えねえ!」
「それでは……っ、どうすれば……!」

焦ったようにヒソヒソと会話を続けるメニアとネウスだが、二人が会話を続けている内に騒ぎの元は段々と近付いて来る。

「ここで、メニアの婚約者が何をしでかそうとしていたのか把握する為だ。それと、ここでメニアの属性を明かしちまって、あの女の中にいる存在を還す事に支障を起こす事の方が不味い」
「──っ、」

ネウスの言葉にも一理ある。
それならば、とメニアがこの事態の発生の原因であるセリウスに事態の収束を願おうと振り向いた所で、先程までその場に居たセリウスとシャロンは忽然と姿を消しており、メニアは驚きに目を見開いた。

「──えっ、え!?セリウス様も、シャロン様も居ません……!」
「くそっ。目を離して失敗した……」
「どうしますか、ネウス様。我々が出て、魔獣達を鎮圧しますか?」

逃げ惑う者達の流れに逆らい、メニア達三人はその場に留まり続けていると、入口方面の人影が少なくなって来ている。
未だに戦闘をしている警備の者達に混ざり、風が空を切るような音が耳に届く。

入口方面を凝視していたネウスは、その方向で動き回る二つの影を見付けると、口元に笑みを乗せた。

「──いや。あっちは、カーナとユリナに任せる。……俺達もフロアの奥へと避難する形を取るぞ。あの婚約者達から距離を取って、何をするつもりか様子を確認しとく」
「分かりました。追い付いて来た魔獣はどうしましょうか?」
「あー……俺を見ても止まらないようなら、洗脳されているだろう。処理しろ」

ネウスはマティアスの言葉に言葉を返すと、隣で成り行きを見守っていたメニアをひょいっと抱き上げるとそのまま足早に歩き出す。

「騒ぎを起こして、何をしたいのか。何をするつもりかは分からねえが……この騒ぎの結果、あの女の願いが叶うのであれば、さっさと叶えるに限る」

メニアも、それでいいか?とネウスに聞かれ、メニアは未だ状況を飲み込み切れていないが、「分かりました」とネウスに頷いた。











「──セリウスっ、魔獣の襲撃が早いんじゃなくて……!?」
「仕方ないだろう……!メニアが俺達の話に従わなかったから時間がずれた……!」
「このままこの場に居たら、私達まで怪我をする可能性があるわ……っ、もう……!だから安全な場所に避難したかったのに……っ」

セリウスに手を引かれながら、シャロンはぷりぷりと怒り、不満を口にし続けている。

当初予定していた襲撃の時間までに、メニアを連れてフロアを離れる予定だったのに、思ったよりもメニアが自分達の言う事を聞かなかったせいで計画がズレてしまった。

「魔の者に、連絡出来ないの!?私達の安全が確保出来るまで一旦襲撃を解いてもらいましょうよ!?」
「いや、それは出来ない……!魔の者自体はこの場に姿を表していないし、あの魔獣達は一定期間暴れるように操縦の魔法が掛けられているらしい……!今はとにかくこの場から、あの魔獣達から距離を取るぞ……!」

ぐいぐいとシャロンの手を引き、安全な場所へ安全な場所へ、と奥へと進みながらセリウスは「こんなつもりじゃなかったのに」と舌打ちをした。
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