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しおりを挟むこの国の宰相──ラド・メランドから直接聖女を、メニアを守れと言われている。と、キッパリと言い切ったネウスに、周囲の反応はまちまちだ。
聖女に対して、失礼な物言いを避難する視線。反対に、それくらいはいいんじゃないか、とシャロン達の肩を持つ視線。
様々な人々から多くの視線を受けている事に気付いたセリウスは、居心地が悪そうに身動ぎするとネウスとマティアスの背中に隠れてしまった状態のメニアに向かって話し掛ける。
「と、取り敢えずメニア……。ここだと人の目が多いし、疲れるだろう?何処か休憩出来る部屋に入って話そうよ」
ここには、学院の生徒達以外にも人間は居る。
寧ろ、生徒達よりも一般の貴族の方が人数が多い。その為、先程からメニア達に注目している貴族達の中からぽつりぽつりとメニアとセリウスが婚約者同士だと知っている者達の声が密やかに上がっているのだ。
その内容はどれもセリウスを非難するような言葉ばかりで、何故この夜会に婚約者であるメニアでは無く、シャロンをパートナーとして連れて来ているのだとか、この国の聖女に任命された人間を蔑ろにしている、だとかセリウスに取ってはマイナスのイメージの言葉達が囁かれている。
だが、表立って大きく声を上げる貴族達は周辺には居らず、セリウスのレブナワンド侯爵家に睨まれるのを恐れているのだろう。
セリウスがチラリ、と周囲に視線を向けるとそのような声はピタリ、と止む。
(──くそ……っ。早くメニアの護衛を黙らせて、別室で魅了と信用を掛けてしまわなければ……っ)
「いえ……。特に移動する必要性もございませんので……」
「──メニアっ」
今までであれば、セリウスの言葉にメニアが背いた事など無い。
長年、そうやってずっとメニアを信用の魔法で信じ込ませ、数年前からは魔の者から貰った魔石に閉じ込めてあった闇属性魔法の魅了も混合して掛けて来ていた。
二種類の精神干渉の魔法を掛けられていれば、セリウスの言葉に疑問など抱く筈が無く、今回もメニアはすんなりとセリウスの言葉に頷くと、セリウス自身はそう信じていたのだが。
(何故だ……!この間からメニアからしっかりとした意思を感じる……っ。やっぱり、メニアはもう既に精神干渉の魔法が解かれているのか……?)
セリウスの言葉に素直に頷かないメニアに、シャロンも苛立ちを感じているのだろう。
学院ではメニアの「良き友人役」を演じていたのに、自分達の思い通りに動かないメニアに焦れてきている。
「──いいから……っ!一先ず場所を変えましょう!」
シャロンが苛立たしさを滲ませた声音でメニアに近付くと、シャロンの接近を察したマティアスが素早くシャロンの腕を掴み、捻り上げる。
「──きゃあっ」
「これ以上、聖女様に近付かないで下さい」
ギリギリとマティアスの強い力で捻り上げられたシャロンは小さく悲鳴を上げると、痛みに顔を歪める。
「マ、マティアスさん……っ!」
焦ったメニアが、マティアスに声を掛けるが、「聖女の護衛」としてこの場に居るマティアスは正しい行動をしている。
その証拠に、周囲からは止めに入る者や、解放を願う声は聞こえない。
シャロンをマティアスに拘束されたセリウスは焦って謝罪を口にすると、シャロンを解放して欲しいと口にした。
「──近付かないし、メニアを無理に連れてもいかない……!だからシャロンを解放してくれ!」
セリウスの言葉に、マティアスはネウスに視線をやった後、メニアに視線を向ける。
メニアはネウスが正面に立ち、万が一逆上したセリウスがメニアを攻撃してこないよう、その攻撃に対応出来るように注視している。
「その、私は大丈夫ですから、解放してあげてください」
「──分かりました」
メニアの言葉に、マティアスは恭しく一礼するとシャロンの腕を掴んでいた手を離し、セリウスの方へとシャロンの体を解放した。
「なん、でっ!私がこんな目に合わなきゃいけないのよ……っ!」
「シャロン、大丈夫か?痛みは?」
シャロンは憎悪の籠った瞳でメニアを鋭く睨み付けると、毒付く。
シャロンの体を支えたセリウスは、心配そうにシャロンに声を掛けるが、その態度を見ていた周囲の者達はさらに困惑を深める。
セリウスは、このままこの場で話をしていても、自分達に分が悪いと判断したのだろう。
一度床に視線を落とすと、小さく溜息を吐き出した。
「──くそっこのタイミングでけしかけたくなかったのに……っ」
セリウスの言葉の意味が分からなくて、メニアが眉を顰めた瞬間、夜会会場の入口の方から悲鳴が上がった。
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