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しおりを挟む「お、俺の女……」
先程ロザンナが口にした言葉に、メニアは大袈裟に反応すると羞恥からか、首まで真っ赤に染め上げている。
「──あら?だってそうじゃない?自分の色で相手を飾り立てたいと感じるのは魔の者でも、人間でも感覚は同じだと思うけど?」
しかも、ドレスを相手に贈る事など、時代によっては求婚の意味がある。
長い時間を生きてきた魔の者である自分達は、当然そう言った意図があり、ドレスを贈る意味を知っている。
(まあ、この時代では求婚の意味がある、とは考えられていないけど)
「ど、どうしたら……っ。私、やっぱりこのドレスじゃなくて既製品でも──!」
慌てふためいたメニアは、何を思ってかやっぱりこのドレスでは無くて既製品を、と口にするがロザンナはきっぱりと言い放つ。
「そんな事をしたらネウス様、手を付けられない程怒り狂って暴れると思うけど……それでもいいの?」
「──それは、嫌です……」
ロザンナの言葉に、メニアは大人しくなった。
ドレスを三着一から作り上げる為、メニアやカーナ、ユリナは夜会の日までに忙しくドレスを作り上げてくれる針子達に協力をする為に、殆ど針子達が仕事をする別室で時間を過ごした。
時々、時間が出来た際はサロンでネウス達と夜会の打ち合わせを行い、夜は自室で魔石に魔法を発動する。
夜会に参加する前に一度ネウスが王城の宰相──ラドの元へ行くと言っていたので、その時に魔石を渡す予定なのだろう。
メニアがある程度魔石に魔法を発動すると、無理をして体調を崩さないように、ネウスがメニアの部屋へと尋ねてくる。
昼間に話す事があまり出来ない為、夜にメニアの部屋で世間話をして、暖かい紅茶で体がポカポカと温まって来た頃にネウスはメニアに就寝の挨拶をして退出する。
メニアは、昨日にロザンナについつい自分の気持ちを吐露してしまったのだが、あれからネウスの態度が明らかに甘くなったような気がする。
視線や、声音が甘ったるく感じるようになってしまって、メニアはネウスが出て行った扉を閉めた後、扉にそのままゴツリと額を押し付ける。
「──ロザンナさん、ネウスさんに何か言ったのかしら……?」
そうだとしか思えない。
これは、自分の心情の変化だけだとはとても思えない、とメニアは真っ赤になった顔で瞳を閉じて扉に額をぐりぐりと押し付ける。
「うぅ……っ。あの顔で愛おしげに見ないで欲しい……っ」
明日は、夜会当日だ。
夜会での事で頭を悩ませねばいけないのだ。
メニアは気持ちを切り替えるように一度自分の頬を挟み込むようにぺしん!と叩いた。
夜会当日の朝。
ドレスが出来上がった、と言う報告にメニアとカーナ、ユリナは完成したドレスを見て感嘆の吐息を漏らした。
フィオレットがデザインをしたドレスは、流石他国からも引っ張りだこのデザイナーだけあって美しく華美ではあるが、繊細で細部まで拘って作られた事が一目で分かる程だ。
ゴテゴテとした、ただ派手なだけのドレス、と言うのでは無く上品な美しさで、使われているドレスの生地も上等な物が使用されているのだろう。
「メニアさんのドレス、力入れすぎでヤバいですね」
「本当ね……。私達のドレスも上等な物だけど……足元にも及ばないわ。ネウス様が何度も確認しに来られただけあるわ」
カーナとユリナから素直な感想が漏れ、メニアは再び頬を染める。
今までの自分の身分では、到底着ることなど出来なかったであろう上等なドレスに、メニアは些か気後れしてしまう。
これだけの美しいドレスを身に纏うのが、自分で本当にいいのだろうか、と心配になってしまったメニアだが、針子から最終確認だ、と言われドレスを身に付け、微調整を行って行く。
(本当に、とても綺麗なドレスだわ……)
自分の首元からデコルテ部分を覆う黒いレース生地にそっと指を滑らせる。
さらり、とした感触に触れる。触れなければまるでそこに生地があるとは思えないような肌触りで、レース生地が肌にぺったりと接触してしまわないように体に合った絶妙なバランスで作られている。
ネウスが連れて来た針子達も、皆相当な腕の持ち主なのだろうと言う事がドレスを身に纏い、改めて実感する。
そうでなければ、こんな短期間で無茶な要求には答えられないだろう。
メニアの最終調整が終わり、ドレスを脱ぐといつものように少し遅い朝食を取りに食堂へと向かう。
今日は、朝食が済んだ後、夕方頃に王城へと向かい、その足で夜会へと向かう。
王城から近い邸で行われる為、ネウスの見解では恐らく国の上層部達も夜会に紛れ、事の発生と成り行きを確認するつもりだろう、との事だ。
そうして、国を危機に陥れようとする人物をしっかりと把握し、手助けしようとする者も同時に把握するのだろう。
全てをこの夜会で把握する事は不可能ではあるだろうが、この先芽吹く危険のあるこの国を陥れようとする者達を把握するつもりだ。
それぞれが何処か落ち着かないような雰囲気で時間を過ごしていると、時間はあっという間に流れ過ぎて行った。
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