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別室で採寸が終わったメニアと、カーナ、ユリナがネウス達の待つサロンへと戻って来る。
メニアの表情は困惑顔のまま、本当にいいのだろうかと未だに考えているらしいがカーナが父親譲りの楽観的な性格でメニアに「全身フルデザイン!いいじゃないですか!」とメニアに声を掛けている。
メニア達に続いて、デザイナーのフィオレットもサロンへと入室しネウスとロザンナが視線を落としているデザイン画に気付くと「ある程度決まりました?」と話し掛けた。
「ああ。メニアにはここら辺のデザインを頼みたい」
「娘達にはこう言ったデザインかしら?」
ネウスとロザンナの言葉に、フィオレットを先頭に当の本人達もそわそわとした表情でネウス達に近付く。
だが、そのデザイン画を見たメニア達それぞれの反応はバラバラで、メニアはこんなの着れません!と叫び、カーナは喜び、ユリナは似合うかしら?と不安そうだ。
メニアが必死に拒否をするのを、何とか総勢で宥め、説得し、何とかメニアが納得出来る程度の妥協点までお互い譲歩すると早速ドレスの縫製に入ったのであった。
──別室でドレスの縫製が始まり、メニアが別室に入るとロザンナも後から入室し針子達が忙しなく動く傍ら、メニアに話し掛ける。
「メニアは、そんなにあのデザインが嫌だったの?とても素敵だと思うのだけど……」
「いえ……確かにとても素敵なデザインで、あのドレスを着れたらとても嬉しいのですが……まだ私はセリウス様の婚約者ですから……」
「──ああ。全身ネウス様色だからかしら?」
ドレスの縫製作業に必要な道具達をロザンナは物珍しく眺めながら、なんて事ないようにメニアに話し掛ける。
全身ネウスの色、とはっきりと口にされたメニアはぶわり、と自分の頬を真っ赤にさせると自分の両手で顔を覆った。
「そう、です……っ!ブラックカラーと緋色では、完全にネウスさんの色ですもの!当日、ネウスさんは私の護衛として同じ夜会会場に行くのに、あのドレスでは周囲に誤解されてしまいます……っ」
「あら。別にいいんじゃない?婚約者が居るとは言っても、名だけの婚約者でしょう?それに、メニアは婚約を解消したがっていたし、相手も夜会にメニアでは無く、他の女性をエスコートするのでしょう?あちらが好きにするのであれば、メニアも好きにしちゃえばいいのよ」
「うぐっ」
ロザンナが言う言葉達は尤もな言葉で。
婚約者から蔑ろにされ、ドレスも贈られず、エスコートもしない婚約者等を気にする事は無いのは分かっている。
セリウスとシャロンに掛けられていた精神干渉の魔法も、両親は解呪されているので両親はメニアを止める事は無いだろう。
寧ろ、ユリナの報告から両親はセリウスとシャロンに不信感を抱き、婚約破棄の手続きをどうにか出来ないだろうか、と動き出しているらしい。
「いいじゃない。メニアだって、散々あの婚約者とその相手の女には利用されたんでしょう?それに、散々メニアの"光属性魔法の使用者"の婚約者として良い思いもしてきたんじゃないの?やられっぱなしでいるのは悔しいじゃないの。盛大にやり返してやりましょうよ」
「悔しい……、そうですよね……沢山悔しい思いもしましたし……悲しい思いもしました……」
「そうでしょう?しかも、懲りずにその婚約者は夜会で何か騒ぎを起こして、メニアを陥れようとしているんだから。手心を加える道理も無いわよ」
「──……」
ロザンナの言葉に、だがそれでもメニアは何処か不安気な──戸惑い気味の表情を浮かべていて、ロザンナは眉を顰めるとメニアに向き直る。
「──なあに?まさか……、本当は婚約者の事が諦めきれないの?」
ロザンナが若干焦りながらメニアに問い掛けると、メニアはぶんぶんと勢い良く首を横に振る。
「とんでもないです……!婚約者であるセリウス様の事はどうでも良いんです!」
「えぇ……?じゃあ、何をそんなに不安そうな──……」
ロザンナはそこまで呟いて、メニアの浮かない表情にピン、と来ると「ネウス様?」と声を出した。
「……っ、えっ!?」
ロザンナの口から語られたネウスの名前に、メニアは大袈裟に体を揺らして反応し、動揺してしまう。
その様子を見てロザンナは納得すると、「なるほどね」と小さく呟いた。
「ネウス様ね。……メニアは何が不安なの?婚約者から裏切られていたから自信を無くしてしまった?それとも、自分で認めるのが怖いのかしら?」
ロザンナは、自分の顎に指先を当てて虚空を見るように視線を上に向けると考えながらゆっくりと話す。
「ネウス様、分かりやすいと思うけれど……もしかして決定的な言葉は貰っていないのかしら?あれだけ独占欲丸出しなのに……?それで、メニアも自分の気持ちを認めるのが怖いの?でも、それは何故なのかしら……?」
ぶつぶつと呟いているロザンナの言葉は、だがしっかりとメニアの耳に入って来てしまっており、メニアは耳まで真っ赤にするとロザンナからそっと視線を逸らし、小さく呟いた。
「──確かに、怖いのかもしれません……。セリウス様を好きだと思っていた気持ちは、全部魔法で操られていたせいで……その気持ちは全部錯覚だったんですから……。確かに、ネウスさんからは大事に守って頂いてますが……それが、もしかしたら身内等に抱くような"親愛"だったら──……」
「ええ?でも自分の色で全身染め上げてるのよ?完全に自分の女扱いじゃない?」
まあ、でも……。とロザンナは考え込む。
メニアの方は問題無い。自覚したくないだけで、自分の感情にはしっかりと気付いている。
ただ、また傷付くのが嫌でその感情を見て見ぬふりをしているだけなのだ。
(私達、魔の者は伴侶を得たら死ぬまで伴侶以外を愛さないから……まあ、愛情は重いからネウス様がさっさと自覚してメニアに気持ちを伝えれば済む話ね)
メニアが抱く不安など、あっさりと、あっという間に解消されるだろう。
それ程に、魔の者が愛する伴侶を得ると一途に相手を死ぬまで愛し続ける。
魂までもを逃がしたくない、と考えてしまう程に。
(だけど──多分ネウス様も無意識に逃げてるのよね……。魔の者と人間は寿命が違うから、無意識の内にメニアに気持ちを告げるのを躊躇っている……)
ロザンナはどっちも臆病者ね、と心の中で呟いた。
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