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しおりを挟むネウスの言葉にメニアはぎょっとして断ろうと唇を開こうとしたが、メニアが何か言葉を発する前にカーナとユリナが声を上げた。
「はいはい!ネウス様!私達もドレス作りたいですっ!」
「人間達の夜会に私達も参加するのですよね?それならば私達も人間達の趣向に寄せたドレスを新調すべきです」
カーナとユリナも魔の者としてはまだ若い部類なのだろう。
そして、女性がドレスや綺麗な装飾品に心躍るのは人間も、魔の者も変わらないのかもしれない。
きらきらと期待に満ちた瞳で自分達もドレスや装飾品が欲しい!とネウスにお願いをするカーナとユリナの勢いに押されて、メニアが口を挟めずおろおろとしていると、ネウスがあっさりと許可をした。
「そうだな。カーナとユリナにもドレスが必要なのは本当だ。ロザンナ、二人のドレスデザインを一緒に考えてやれ」
「かしこまりました、ネウス様」
「そんで、メニアは俺と一緒にな。この際だ、今まで着てたようなデザインじゃなく、メニアがあまり着たことのないデザインでドレスを仕立てさせるぞ」
「──えっ!?ちょ、ちょっと待って下さいネウスさん……っ!」
楽しそうに夜会に着ていくドレスの事を相談し始めるネウスやロザンナ達にメニアは必死に考え直してくれ!と声を上げるがメニアの声はあっさりと却下されてしまった。
ネウスが「針子と職人を呼んでくる」とその場で言葉を残すと、瞬時に姿を消してしまいメニアはポカン、と口を開けて唖然としてしまう。
「──メニア。もうああなってしまったネウス様は止められないから大人しくドレスを贈られたらいいわ」
「ロザンナさん……」
困ったように眉を下げるメニアに、その様子を見ていたマティアスはメニアを不憫そうに見詰めた後、そっと視線を逸らした。
ネウスが姿を消した後。
暫くして戻って来たネウスは、数人の魔の者を連れていた。
「すぐにメニアの採寸に入ってくれ。二日後の夜会に間に合うように何が何でも作れよ」
さも当然、と言うようにネウスは魔の者達にそう告げるとネウスに連れられて来た者達は了承の言葉を口にするなり、ドレス作成用の部屋へと急いで移動して行く。
「さ、メニア様。採寸致しますのでこちらにどうぞ」
「え……っ、あっ、はい……?」
ロザンナと同じ年頃の女性がメニアに笑顔で声を掛け、戸惑うメニアを連れて隣室の部屋へと連れて行く。
わたわたとしてしまっているメニアにカーナとユリナも楽しげに着いて行く。私達はどんなドレスにしようかしら、と些か興奮しながら会話を続ける二人もメニアと共に部屋を後にして、室内に残ったネウス、ロザンナ、マティアスはしん、と静まり返った室内でゆったりと寛ぎ、談笑しながら三人の採寸が終わるのを待つ。
「それにしても……ネウス様は随分無茶をしましたね……?どんなデザイナーを連れて来るのかと思えば、彼女は他国にも名前が通っているフィオレット夫人じゃないですか。良く引っ張って来ましたね?」
「ああ。昔、フィオレットの旦那が俺に貸しを作ってるからな。それを今回の件で精算してやるって言ったら喜んで協力してくれたぜ?」
「まあ、そうだったのですね。てっきりいつもの様に力ずくで連れてきたのかと思いました」
「そんな事しちまったらメニアのドレスを無理矢理作らされてる、と考えて良いのが作られねえだろ?自分から進んで作らせねえと良いのは出来ない」
楽しげにそう話すネウスに、ロザンナもマティアスも「確かに」と頷く。
メニアの事になると暴走しがちな自分達の王ではあるが、きちんと頭が働いている時もあるらしい。
「──デザインが出来たら、針子達は不眠不休ですね?」
「そりゃ当然だ。だから人数を連れて来た。あれだけ居れば三人分くらいいけんだろ」
「──妹達は、既製品でも良かったのではないですか……?」
マティアスが自分の眉間を親指でぐりぐりと押しながら弱々しく言葉を挟むが、ロザンナはふるふると首を横に振るとにんまりと唇を笑みの形に変化させた。
「せっかくネウス様が許可を出して下さったのだもの。普段の我が家では手を出す事が出来ない程の物を着れる好機でしょう?」
「──それで、宝石商も呼んだんですね……」
いいんですか、それで。
と言う意味を込めた視線でマティアスはネウスを見やるが、既にネウスの関心はドレスのデザインや色に移動しているらしく、フィオレットから渡されたデザイン集に視線を落としている。
そのネウスの横に移動しながら、ロザンナは楽しそうにメニアに似合いそうな色やデザインをネウスに助言し始めた。
「ネウス様の髪色に合わせた全身がブラックカラーが良いと思います。緋色の瞳の色を差し色で使用したら高級感が増しますしね。デコルテを開けて、レースで首元まで覆ってもいいですね。薄らと透けて見える肌の色が少女っぽさを薄めて女性の色気と妖艶さを醸し出して良いと思います!」
「あー、確かに。薄ら肌が透けてるのは確かに良い。あとは俺、ガッツリ背中が空いてるのも好きなんだよな……ああ、デザイン画だとこんな感じか……」
「あら。良いじゃないですか。腰の辺りに沢山の生地でボリュームを乗せているから、女性らしい曲線美が出ますね。緋色の宝石をあしらったイヤリングやネックレスでもって首元と耳元を飾りましょうか」
熱心にデザイン画に視線を落とし、あれこれと話し合うネウスとロザンナの姿に、マティアスは当日の警備の事などを考えるのが先じゃなくて大丈夫なのだろうか。と些か心配になった。
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