【完結】偽りの聖女、と罵られ捨てられたのでもう二度と助けません、戻りません

高瀬船

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「ただいま戻りましたー!……何ですか、この空気?」
「どうかされました……?」

カーナが元気良く挨拶をし、ユリナは室内を不思議そうに見回すと、室内に流れる何とも言えない空気を感じ取ったのか、怪訝な表情を見せた。
二人の視線に、ネウスは一度咳払いをすると唇を開く。

「あー……、いや。何でもねえ。……メニア、この件は今度しっかりと確認するからな」
「えぇ……」

何故、自分が何か悪い事をしたかのような雰囲気になっているのだろう、とメニアは不本意そうな言葉を発するが、メニアの抗議じみた視線を無視して、ネウスはユリナが持っている手紙を視界に入れると「それは?」とユリナに話し掛ける。

「あっ!そうでした、これなのですが……!」

ユリナが急いでメニア達に駆け寄ると、ハピュナー子爵邸で起きた事を話してくれる。

「メニアさんのご両親には、無事魔石を発動してもらいました。メニアさんが発動した解呪の魔法もしっかりと発動してもらっているので、ご両親の精神干渉は解けてます。その後に、弾く魔法が込められた魔石も発動してもらっているので、今後はご両親への精神干渉は効かない状態になると思います」

ユリナからすらすらと語られる言葉達に、メニアは「良かった!」と喜色に満ちた声を上げると、ほっと胸を撫で下ろす。

「けれど……私達が邸を訪れる前にこの手紙が既に届いていたらしくて、メニアさんのご両親は申し訳ない、とメニアさんに伝えてくれ、と仰ってこちらを手渡して来ました」
「申し訳、ない……?何か不測の事態でも起きたのでしょうか?」

ユリナの言葉に、メニアが心配そうに聞くが、ユリナにも詳細は分からないのだろう。
首を傾げながらメニアに向かって言葉を続ける。

「ご両親は、頼りにならない両親ですまない、と頻りに謝っておいででした……。若干、この手紙の送り主に憤り?怒り?を覚えているような雰囲気でしたが……こちらではどうする事も出来ない、と……何だかお辛そうでしたよ……」
「──え」
「メニア、手紙の確認をしてみろ」
「分かりました……!」

ユリナが語った、両親が手紙の送り主に憤りや怒りを感じているような表情をしていたのであれば、しっかりとセリウスから掛けられていた精神干渉魔法は解呪されているのだろう。
そして、その両親がメニアに申し訳ない、と謝るような何かが起きた、と言う事だ。

ネウスに急かされて、メニアは急いでセリウスからの手紙を開封すると中身に目を通す。

「──あー……」
「何て書かれてたんだ?」

メニアの呟きに、隣に座っていたネウスがチラチラとメニアの様子を心配そうに伺っているので、メニアは手の中にあった手紙をネウスに手渡した。
メニアから渡された手紙を反射的に受け取ったネウスは、「いいのか?」と問うような視線をメニアに向けて来るが、特に中身を読まれても何の問題も無い、と考えたメニアはこくりと頷いてから唇を開く。

「書かれていたのは簡潔な文章でしたし、こうなるだろうな、と予想は出来てました。──夜会は、シャロン様と参加されるそうです」

あっさりとそう告げるメニアに、ネウスもロザンナもマティアスも瞳を見開く。

自分の婚約者を放って、どこの誰が他の女性をエスコートすると言うのだろうか。
人間は、そんな事を常日頃から行っているのか、と魔の者であるネウス達はついつい考えてしまうが、恐らくメニアの婚約者と相手の女がおかしいのだろう、と結論に至る。

「さも当然、とばかりに悪びれもない文章だな……」

ネウスの何処か怒りを孕んだかのような低く重たい声音にメニアは驚くと、「気にしてません」と口にする。

「──以前も、エスコートが必要な場面でセリウス様はシャロン様をエスコートする事もありましたので、今更驚きませんよ」
「けれど、それが罷り通っていた以前が本当に異常ね……?」
「今考えれば、そうですね。それに思い至らなかったのが本当に情けないです」

ロザンナの言葉に、メニアは情けない、と言うように眉を下げて笑うと務めて明るく笑顔を浮かべる。

「それに、セリウス様が居なければネウス様達の護衛がし易くなりますし!今回ばかりはセリウス様がシャロン様をエスコートしてくれて良かったです」
「──だが、メニアは聖女に任命された人間だぞ……?その聖女を蔑ろにする行為は──……。ああ、そうか。メニアをこの夜会で偽りの聖女だ、と周囲に吹聴するからこその対応、か」

ネウスは舌打ちすると、「胸糞悪いやつだな」と毒付くと、「よし」と声を出してメニアに視線を向ける。

「どうせ夜会に着て行くドレスも、装飾品も何も贈られてねえんだろ?それなら、うちの針子の奴らを呼び付けて作らせる。二日後の夜会には作らせたドレスをメニアは着ていけばいい」
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