【完結】偽りの聖女、と罵られ捨てられたのでもう二度と助けません、戻りません

高瀬船

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ネウスの部屋内で一悶着あった後、メニアとやっと目が覚めたネウス、そして若干ボロボロになったマティアスの三人はロザンナが待つサロンへとやって来た。 

「──あれ、ネウスさん朝食は食べないのですか?」
「ああ。サロンで食うわ。ロザンナが待ってんだろ?明後日の夜会の事を決めなきゃなんねえから、サロンで食うわ」

メニアとネウスが姿を表した事に気付いたロザンナは、二人の後ろに居るマティアスの姿を見て面白そうに笑みを浮かべた。

「おはようございます、ネウス様。一悶着あったみたいですね?」
「あー……悪いな、ロザンナ。室内に男の気配を感じてつい攻撃した」
「あらまあ……。それは、防御出来なかったマティアスが悪いですからお気になさらず」

ネウスの言葉に、ロザンナはにっこりと笑顔を浮かべると三人に座るように促した。





少し前の事。
ネウスの部屋に突入したマティアスは、ネウスによって引き摺り込まれたメニアを救出する為に駆け寄ろうとしたが、男性の気配に瞬時に反応したネウスが無意識の内にマティアスに向かって攻撃魔法を繰り出した為、マティアスはその魔法の防戦に手一杯になった。
それでもその防御を掻い潜りマティアス自身に攻撃が届いてしまうので所々怪我をしている。

その間、藻掻いていたメニアはネウスの覚醒を待って、ネウスがメニアの存在に気付き慌てた所で我武者羅にネウスを蹴り飛ばしてメニアはネウスの拘束から脱出したのだ。

メニアが脱出すると、そこでやっと現状を理解してネウスがマティアスへの攻撃を辞めたのだが、ネウスが寝惚けていた期間は数分間あった為、既にマティアスはボロボロの出で立ちとなってしまっていた。

そうして防戦一方だったマティアスを何とか励ましつつロザンナの待つサロンへとやって来た頃にはネウスもマティアスも普段通りに戻っていた。





メニア達三人がソファへと座り、メニアとマティアス、ロザンナの前にはお茶が置かれ、ネウスの前には軽食が置かれる。
ネウスが食事に手を付けて、夜会の日についてロザンナが唇を開いた。

「夜会の日は、メニアの護衛としてネウス様とマティアスを共に行かせる事にして、私と娘達はどうしましょうかね?」
「──あー……、護衛や、性別が違うから常にメニアと共に居れるとは限らねえから、カーナとユリナを令嬢として潜り込ませた方がいいかもしれねえな」
「分かりました。娘達はまだこの国で顔を知られていない筈なので、潜り込ませるには丁度いいですね」
「ああ。だが、ロザンナの容姿についてはカーティスの家の者が知っているだろうし、この国の主要な人物達にも名前と容姿は割れてるかもしれねえから会場の外で待機だな」
「分かりました。その通りに動きます」

すらすらとネウスとロザンナの会話が進み、メニアは二人の会話にただ頷いて意見に賛同する。

「後は……、メニアの婚約者の男がどう動くかだな。メニアをパートナーとして迎えに来て、当日も行動を共にするなら監視はし易いが、あの女と共に動くのであればメニアから離れられない俺とマティアスは婚約者と、その女の行動を監視し続ける事は出来ねえ」
「──それでしたら、カーナかユリナに見させましょう」
「そうだな。そうしたら……カーナはカーティスに似て適当な部分があるが戦闘面は強い。カーナを監視に付けた方がいいか?それとも、地頭の良いユリナを付けた方がいいか……だがユリナはロザンナに似て戦闘が苦手だよな?」
「ええ、そうなんです……機転の効くユリナを監視に付けたいのですが、戦闘面は夫に似なくて私似ですので……何かあった際にユリナでは少々頼りない部分が……」

うーん、と悩む二人にメニアは「あっ」と良いアイデアを思い付いたとばかりに声を出すと、二人に視線を向ける。
メニアの声に、ネウスとロザンナも不思議そうな表情をメニアに向けたが、メニアは明るい声で二人に今思い付いた事を告げた。

「それならば、ユリナさんに私が魔法を込めた魔石をお渡しするのはどうでしょうか?昨夜、禁書の中に、一つだけ解読出来ない魔法があったのですが、それが解読出来て発動したんです!」

メニアは自分のドレスのポケットに手を入れてごそごそと中身を探ると、指先に当たった魔石を掴み、ポケットから出して三人に見えるように手のひらの上に乗せる。

「聖属性魔法には、魔法攻撃と物理攻撃を一度だけ完全に防ぐ魔法があるみたいで、これがあれば安心だと思います!」
「──は?」

なんて事の無いようにそう告げたメニアに、ネウスを始め、ロザンナもマティアスも呆気に取られたような表情を浮かべる。

「待て待て待て。そんな反則級の魔法があるのか……!?そんな物が禁書に載ってたのか!?」
「え、?ええ。そうです……ただ、魔力制御と構築式がとても複雑で、実践で実際に発動するのはとても難しいと思うのですが、室内で集中して取り掛かれるので……魔法の効果を留めておけるこの魔石って凄いですね」

確かに、魔法の効果は一度しか無く、発動されてしまえばそれまでだが、メニアがあっさりと「発動した」と言った魔法は悪い心を持った者が悪用しようとしたら、とんでもない事を引き起こす程、貴重な魔法だ。

今は、魔の者の国で採れる魔石がある。
その魔石に、この魔法を発動して効果を留め、魔石を量産してしまえば相手の攻撃など何一つ受ける事無く、相手を屈服させてしまう事が可能な魔法だ。

「──争いの元になるから、ミリアベルは誰にもこの魔法の存在を話さなかったのか……」
「でしょうね……ノルトにくらいは告げていたかもしれませんが、他の人間には流石に……」

三人が呆気に取られていると、サロンの扉が開きメニアの邸に魔石を届けに行っていたカーナとユリナが戻ってきた。

戻ってきた二人、ユリナの手には手紙が一通握られており、その手紙にはメニアの婚約者、セリウス・レブナワンド侯爵家の封蝋が押されていた。
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