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しおりを挟むネウスの部屋へと向かう道中、廊下をメニアとマティアスは並んで歩きながら起きてこないネウスについて会話を行う。
「いつもネウスさんはこんなに起きてくるのが遅いのですか?」
「──そうですね……。朝は確かに弱いようです。けれど、昨日はメニアさんの部屋から戻った後、暫く部屋で何かを考え込んでいたみたいなので、眠るのが遅くなったんじゃないですかね?」
「なるほど……?」
二人で軽口を叩き合いながらネウスの部屋の前まで来ると、メニアがそっと部屋の扉をノックする。
「ネウスさん、起きてます……?」
ノックの後にメニアが扉に向かって声を掛けるが、室内からは人の動く気配が感じられない。
メニアは、自分よりも気配を察知するのに優れているであろうマティアスにちらり、と視線を向けるが、マティアスも眉を下げて首を横に振ると「起きていないみたいです」とメニアにとって嬉しくない言葉を口にする。
「本当に入らなければ駄目ですか?」
「ええ。母さんがああ言ってたので、ネウス様はメニアさんが起こしてあげてください」
「えぇ……」
メニアは嫌そうに表情を歪めると、そっとドアノブに触れて、カチャリ、と小さな音を立てながら扉を開けた。
メニアは、まだ自分には一応セリウスと言う婚約者が居るのに、何故婚約者以外の男性が眠る部屋へと起こしに入らなければいけないのだろう、と考える。
(倫理観が……倫理観がおかしいわ……)
今までであれば、こんな事絶対にしなかった。
(──私も、ネウスさんやマティアスさん達と一緒に居る事が多くて何だか、感覚が……普通って何だったかしら……)
淑女、とは何だったのだろうか。
はしたない、と言う言葉は何だったのだろうか。
メニアは遠い目をしながら開かれた扉から室内へと視線を向ける。
「──マティアスさんっ!絶対にここに居て下さいね!一歩くらい部屋に入ってもいいと思います……!」
「一歩……、一歩程度なら平気ですかね……?いや、駄目だ……、ネウス様に反射的に攻撃されたら嫌なのでここに居ます」
「は?攻撃……?攻撃って、どう言う事ですか?ネウスさんが無意識下で攻撃をするような人なら、私だって危ないじゃないですか……!」
慌てて部屋から出ようとするメニアに、マティアスは大丈夫だ!と慌てて唇を開く。
「女性には攻撃しないので……っ大丈夫です!男が寝室に入って来るのを嫌っているのでメニアさんなら大丈夫ですから!」
「──女性だったら、攻撃しないんですね……。へえ。ふうん……」
マティアスの言葉を聞いたメニアは、何故か「女性だったら」と強調された言葉に面白くなさそうな表情を浮かべると、これだけ騒いでいるのにぴくりとも動く気配の無いベッドの上の山に視線をやった。
「寝起き、本当に悪いんですね」
「ええ。本当に……最悪なんですよ。敵襲とかの場合はすぐに飛び起きるのですが、自分の邸ですし、今室内に居るのはメニアさんの魔力ですし、完全に安心しきってる状態なんだと思います」
「それも、それで……。ネウスさんの危機管理能力が心配になりますね……」
このままここで話していても埒が明かない、と諦めたように溜息を零したメニアは、なるようになれ、と覚悟を決めてネウスの眠るベッドへとスタスタと近付いて行く。
人の気配が近付いていると言うのに、未だにネウスは目覚める気配が無く、こんもりと山になった物体は規則正しい寝息を立てているようで、ネウスの胸辺りが呼吸に連動して小さく上下している。
体を揺すって起こした方がいいのか。それとも離れた場所から声を掛けた方がいいのか。
メニアは考えながら取り敢えず声を掛けてみる事にした。
「ネウスさん、起きて下さい」
やはり、直接触れて起こすのは、と考えたメニアは声掛けで起きてくれないかな、と僅かな希望を抱いたが全く起きる気配が無い。
「──もう、このままじゃあ外で待ってるマティアスさんにも迷惑が掛かっちゃう……」
一瞬、風魔法でもネウスに叩き込んでしまおうか、とも考えが過ぎったが、もしメニアの魔法を攻撃だと勘違いしたネウスが応戦した場合、こちらの命が危ない可能性がある。
直接強く揺さぶって起こすしかない、とメニアが諦めてネウスが眠っているであろう布の山に手を伸ばした。
瞬間。
「──へっ?」
物凄い早さで、布の山からネウスの腕が飛び出てきて、ネウスに触れようとしていたメニアの腕が掴まれた。
「わああっ!」
そして物凄い力で引き寄せられてメニアの視界が反転する。
「きゃああっ!マティアスさんっ!マティアスさんっ!」
「──……っ、失礼しますっ!」
メニアの叫び声に、一瞬何が起きたのか理解出来ていなかったマティアスは、はっとしてメニアを救出する為に室内へと踏み込んだ。
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