79 / 155
79
しおりを挟む「出来た……っ、発動出来たのかしら……っ!」
メニアは興奮気味に声を上げると部屋の中を落ち着きなく歩き回る。
ロザンナから貰った魔石がメニアの手のひらの上にころん、と乗っていてその数個の魔石は魔法を封じ込めたからか、キラキラと眩く変化しておりその輝き方がネウスが耳にしているミリアベルから魔法を込めて貰った魔道具に酷似している。
メニアの手のひらの上にある魔石は数個で、メニアが座っていた作業机のような小さめの机の上にはロザンナから貰った他の魔石達がバラバラと散らばっている。
メニアが一人で達成感に喜んでいると、部屋の外からメニアの部屋に物凄い速度で近付いて来る足音が聞こえて来て、メニアはハッとして自分の唇をもう一方の空いている手のひらで覆った。
「──何事だ、メニア!」
バタン!と派手な音を立てて部屋へと突入して来たネウスが焦ったような表情を浮かべてメニアに駆け寄って来る。
手のひらを唇にあてているメニアを見て、ネウスは何があったのだ、と周囲を確認する。
誰か人が入って来たのか、とメニアの腕を掴み自分の方へと近寄せる。
「ネ、ネウスさんっ、ごめんなさいっ、違うんです!少し興奮して大声を出してしまったんです……!」
何事だ、とネウスの後から追い付いたマティアスやロザンナ、カーナとユリナもメニアの部屋の外に集まっていて、メニアは先程そんなに大きな声を出してしまったのか、と恥ずかしくなってしまう。
「興奮して、大声を……?何故そんな事を……?」
訝しげな表情で、メニアに声を掛けるネウスにメニアは慌てて先程成功した事を説明し始める。
「それが!やっと成功したんです、ネウスさん!やっと解呪の魔法構築式の細部まで理解する事が出来て、魔力制御が上手くいったんです!」
メニアは嬉しそうに自分の手のひらをネウスの視界に入るように掲げると、手のひらの上にある魔石をほら!と言うように笑顔で見せる。
メニアの手のひらに視線を落としたネウスは魔石が確かに強い光と輝きを放っているのを確認してメニアに視線を戻す。
メニアの言う通り、確かに解呪の魔法は成功したのだろう。
ネウスはちらり、とメニアの部屋にあった机の方へと視線をやると、そこにも魔石がいくつも乗っており、沢山の魔石に魔法を発動したのだろう、と言う事が伺える。
「──ああ、そうみたいだな。解呪の魔法が成功して良かった……。──ロザンナ」
「はい、ネウス様」
ネウスは優しくメニアに話し掛けた後、メニアの部屋の外に控えていたロザンナに声を掛ける。
「メニアの解呪の魔法が込められたこの魔石三つ、背後の机にある精神干渉を弾く魔法が込められた魔石を明日ハピュナー子爵邸に届けさせてくれ」
「あっ、精神干渉の方は右側のこっちです──」
ネウスの言葉にロザンナが魔石を集めるのを手伝おう、とメニアがネウスから離れてロザンナの方へ向かおうとした時、ネウスに腕を再度ガッチリと掴まれてしまい、メニアは不思議そうな表情を浮かべ、ネウスに視線を向ける。
「明日、カーナとユリナ二人で子爵邸に行けよ。キャラメル色の髪をしたいけすかねえ感じの男が居たらメニアの婚約者だから近付くな。解呪の魔法をメニアの両親に発動して貰え。理由は何か適当な事をでっちあげちまえ」
「りょーかいしました、ネウス様!」
ネウスの言葉に、カーナが元気に答え、ユリナは母親のロザンナと共に机の上にある魔石をせっせと集め、袋にしまっていっている。
存外、強い力で自分の腕を掴み離さないネウスにメニアは困惑してしまい、助けを求めるようにマティアスにちらりと視線を向けるがメニアの視線に気付いたマティアスは苦笑いを浮かべてメニアに小さく首を横に振った。
「え、え……?」
メニアの頭の中に「?」が沢山浮かんでは消える。
先程からネウスはメニアの腕を掴んでは居るが、ネウスは一切メニアに視線を向けてこない。
「子爵邸で解呪を発動したらそのまま精神干渉の継続にそっちの魔石も発動しちまえ」
「かしこまりました、ネウス様」
ネウスがユリナに指示を飛ばし、そしてユリナがぺこり、と一礼して答えるとネウスはふう、と溜息を深く吐き出して黙り込む。
ピリピリとした雰囲気がネウスから漂って来て、メニアは何だか嫌な予感を感じて自分の腕を掴んでいるネウスから、腕を引き抜こうとそっと動かしたがその瞬間ネウスの顔がメニアの方へと向き、メニアはその場でびくり、と体が跳ねてしまった。
「──よし。他は大丈夫そうだな……。解散」
ネウスの言葉に、ロザンナを筆頭に口々にネウスに返事を返すとメニアに「頑張れ」と言うような憐れむ視線を向けて部屋から離れて行ってしまった。
人の気配があっという間に無くなってしまい、メニアは戸惑いながら扉の方向と、ネウスとを交互に視線を向ける。
「──え、え?」
「……。メニア、俺は無理はして欲しくない、と言った筈だ……。だからメニアが魔石に魔法を発動する時は俺が側で見張る、と言ったがメニアは大丈夫だ、と断ったよな?」
「え、ええ。はい。そうですね……?」
メニアが躊躇いがちにそう答えると、ネウスはメニアの頬にそっと手のひらをあててメニアの瞳を覗き込む。
「──顔色がさっきより悪くなっている。また、無茶をしたんだろ」
「ええ……っ!?」
本当だろうか、とメニアはペタペタと自分の頬に手をあてる。
確かに、沢山魔法を放ったから多少体がだるく感じてはいるが、魔力を一時的に大量消費してしまえば体に不調が出るのはもう慣れたものだ。
以前のように頭痛を感じる事も、立っていられない程体から力が抜ける事も無い。
だからメニアは、ネウスにしっかりと自分は大丈夫だ、と。少し心配し過ぎだとネウスに笑って見せた。
57
お気に入りに追加
3,380
あなたにおすすめの小説
【完結】やり直しの人形姫、二度目は自由に生きていいですか?
綾雅(りょうが)祝!コミカライズ
ファンタジー
「俺の愛する女性を虐げたお前に、生きる道などない! 死んで贖え」
これが婚約者にもらった最後の言葉でした。
ジュベール国王太子アンドリューの婚約者、フォンテーヌ公爵令嬢コンスタンティナは冤罪で首を刎ねられた。
国王夫妻が知らぬ場で行われた断罪、王太子の浮気、公爵令嬢にかけられた冤罪。すべてが白日の元に晒されたとき、人々の祈りは女神に届いた。
やり直し――与えられた機会を最大限に活かすため、それぞれが独自に動き出す。
この場にいた王侯貴族すべてが記憶を持ったまま、時間を逆行した。人々はどんな未来を望むのか。互いの思惑と利害が入り混じる混沌の中、人形姫は幸せを掴む。
※ハッピーエンド確定
※多少、残酷なシーンがあります
2022/10/01 FUNGUILD、Webtoon原作シナリオ大賞、二次選考通過
2022/07/29 FUNGUILD、Webtoon原作シナリオ大賞、一次選考通過
2021/07/07 アルファポリス、HOT3位
2021/10/11 エブリスタ、ファンタジートレンド1位
2021/10/11 小説家になろう、ハイファンタジー日間28位
【表紙イラスト】伊藤知実さま(coconala.com/users/2630676)
【完結】2021/10/10
【同時掲載】小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ
【完結】真実の愛のキスで呪い解いたの私ですけど、婚約破棄の上断罪されて処刑されました。時間が戻ったので全力で逃げます。
かのん
恋愛
真実の愛のキスで、婚約者の王子の呪いを解いたエレナ。
けれど、何故か王子は別の女性が呪いを解いたと勘違い。そしてあれよあれよという間にエレナは見知らぬ罪を着せられて処刑されてしまう。
「ぎゃあぁぁぁぁ!」 これは。処刑台にて首チョンパされた瞬間、王子にキスした時間が巻き戻った少女が、全力で王子から逃げた物語。
ゆるふわ設定です。ご容赦ください。全16話。本日より毎日更新です。短めのお話ですので、気楽に頭ふわっと読んでもらえると嬉しいです。※王子とは結ばれません。 作者かのん
.+:。 ヾ(◎´∀`◎)ノ 。:+.ホットランキング8位→3位にあがりました!ひゃっほーー!!!ありがとうございます!
【本編完結】さようなら、そしてどうかお幸せに ~彼女の選んだ決断
Hinaki
ファンタジー
16歳の侯爵令嬢エルネスティーネには結婚目前に控えた婚約者がいる。
23歳の公爵家当主ジークヴァルト。
年上の婚約者には気付けば幼いエルネスティーネよりも年齢も近く、彼女よりも女性らしい色香を纏った女友達が常にジークヴァルトの傍にいた。
ただの女友達だと彼は言う。
だが偶然エルネスティーネは知ってしまった。
彼らが友人ではなく想い合う関係である事を……。
また政略目的で結ばれたエルネスティーネを疎ましく思っていると、ジークヴァルトは恋人へ告げていた。
エルネスティーネとジークヴァルトの婚姻は王命。
覆す事は出来ない。
溝が深まりつつも結婚二日前に侯爵邸へ呼び出されたエルネスティーネ。
そこで彼女は彼の私室……寝室より聞こえてくるのは悍ましい獣にも似た二人の声。
二人がいた場所は二日後には夫婦となるであろうエルネスティーネとジークヴァルトの為の寝室。
これ見よがしに少し開け放たれた扉より垣間見える寝台で絡み合う二人の姿と勝ち誇る彼女の艶笑。
エルネスティーネは限界だった。
一晩悩んだ結果彼女の選んだ道は翌日愛するジークヴァルトへ晴れやかな笑顔で挨拶すると共にバルコニーより身を投げる事。
初めて愛した男を憎らしく思う以上に彼を心から愛していた。
だから愛する男の前で死を選ぶ。
永遠に私を忘れないで、でも愛する貴方には幸せになって欲しい。
矛盾した想いを抱え彼女は今――――。
長い間スランプ状態でしたが自分の中の性と生、人間と神、ずっと前からもやもやしていたものが一応の答えを導き出し、この物語を始める事にしました。
センシティブな所へ触れるかもしれません。
これはあくまで私の考え、思想なのでそこの所はどうかご容赦して下さいませ。
悪女と言われ婚約破棄されたので、自由な生活を満喫します
水空 葵
ファンタジー
貧乏な伯爵家に生まれたレイラ・アルタイスは貴族の中でも珍しく、全部の魔法属性に適性があった。
けれども、嫉妬から悪女という噂を流され、婚約者からは「利用する価値が無くなった」と婚約破棄を告げられた。
おまけに、冤罪を着せられて王都からも追放されてしまう。
婚約者をモノとしか見ていない婚約者にも、自分の利益のためだけで動く令嬢達も関わりたくないわ。
そう決めたレイラは、公爵令息と形だけの結婚を結んで、全ての魔法属性を使えないと作ることが出来ない魔道具を作りながら気ままに過ごす。
けれども、どうやら魔道具は世界を恐怖に陥れる魔物の対策にもなるらしい。
その事を知ったレイラはみんなの助けにしようと魔道具を広めていって、領民達から聖女として崇められるように!?
魔法を神聖視する貴族のことなんて知りません! 私はたくさんの人を幸せにしたいのです!
☆8/27 ファンタジーの24hランキングで2位になりました。
読者の皆様、本当にありがとうございます!
☆10/31 第16回ファンタジー小説大賞で奨励賞を頂きました。
投票や応援、ありがとうございました!
妹に婚約者を取られましたが、辺境で楽しく暮らしています
今川幸乃
ファンタジー
おいしい物が大好きのオルロンド公爵家の長女エリサは次期国王と目されているケビン王子と婚約していた。
それを羨んだ妹のシシリーは悪い噂を流してエリサとケビンの婚約を破棄させ、自分がケビンの婚約者に収まる。
そしてエリサは田舎・偏屈・頑固と恐れられる辺境伯レリクスの元に厄介払い同然で嫁に出された。
当初は見向きもされないエリサだったが、次第に料理や作物の知識で周囲を驚かせていく。
一方、ケビンは極度のナルシストで、エリサはそれを知っていたからこそシシリーにケビンを譲らなかった。ケビンと結ばれたシシリーはすぐに彼の本性を知り、後悔することになる。
《勘違い》で婚約破棄された令嬢は失意のうちに自殺しました。
友坂 悠
ファンタジー
「婚約を考え直そう」
貴族院の卒業パーティーの会場で、婚約者フリードよりそう告げられたエルザ。
「それは、婚約を破棄されるとそういうことなのでしょうか?」
耳を疑いそう聞き返すも、
「君も、その方が良いのだろう?」
苦虫を噛み潰すように、そう吐き出すフリードに。
全てに絶望し、失意のうちに自死を選ぶエルザ。
絶景と評判の観光地でありながら、自殺の名所としても知られる断崖絶壁から飛び降りた彼女。
だったのですが。
断罪された商才令嬢は隣国を満喫中
水空 葵
ファンタジー
伯爵令嬢で王国一の商会の長でもあるルシアナ・アストライアはある日のパーティーで王太子の婚約者──聖女候補を虐めたという冤罪で国外追放を言い渡されてしまう。
そんな王太子と聖女候補はルシアナが絶望感する様子を楽しみにしている様子。
けれども、今いるグレール王国には未来が無いと考えていたルシアナは追放を喜んだ。
「国外追放になって悔しいか?」
「いいえ、感謝していますわ。国外追放に処してくださってありがとうございます!」
悔しがる王太子達とは違って、ルシアナは隣国での商人生活に期待を膨らませていて、隣国を拠点に人々の役に立つ魔道具を作って広めることを決意する。
その一方で、彼女が去った後の王国は破滅へと向かっていて……。
断罪された令嬢が皆から愛され、幸せになるお話。
※他サイトでも連載中です。
毎日18時頃の更新を予定しています。
元侯爵令嬢は冷遇を満喫する
cyaru
恋愛
第三王子の不貞による婚約解消で王様に拝み倒され、渋々嫁いだ侯爵令嬢のエレイン。
しかし教会で結婚式を挙げた後、夫の口から開口一番に出た言葉は
「王命だから君を娶っただけだ。愛してもらえるとは思わないでくれ」
夫となったパトリックの側には長年の恋人であるリリシア。
自分もだけど、向こうだってわたくしの事は見たくも無いはず!っと早々の別居宣言。
お互いで交わす契約書にほっとするパトリックとエレイン。ほくそ笑む愛人リリシア。
本宅からは屋根すら見えない別邸に引きこもりお1人様生活を満喫する予定が・・。
※専門用語は出来るだけ注釈をつけますが、作者が専門用語だと思ってない専門用語がある場合があります
※作者都合のご都合主義です。
※リアルで似たようなものが出てくると思いますが気のせいです。
※架空のお話です。現実世界の話ではありません。
※爵位や言葉使いなど現実世界、他の作者さんの作品とは異なります(似てるモノ、同じものもあります)
※誤字脱字結構多い作者です(ごめんなさい)コメント欄より教えて頂けると非常に助かります。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる