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「出来た……っ、発動出来たのかしら……っ!」

メニアは興奮気味に声を上げると部屋の中を落ち着きなく歩き回る。

ロザンナから貰った魔石がメニアの手のひらの上にころん、と乗っていてその数個の魔石は魔法を封じ込めたからか、キラキラと眩く変化しておりその輝き方がネウスが耳にしているミリアベルから魔法を込めて貰った魔道具に酷似している。

メニアの手のひらの上にある魔石は数個で、メニアが座っていた作業机のような小さめの机の上にはロザンナから貰った他の魔石達がバラバラと散らばっている。

メニアが一人で達成感に喜んでいると、部屋の外からメニアの部屋に物凄い速度で近付いて来る足音が聞こえて来て、メニアはハッとして自分の唇をもう一方の空いている手のひらで覆った。



「──何事だ、メニア!」

バタン!と派手な音を立てて部屋へと突入して来たネウスが焦ったような表情を浮かべてメニアに駆け寄って来る。

手のひらを唇にあてているメニアを見て、ネウスは何があったのだ、と周囲を確認する。
誰か人が入って来たのか、とメニアの腕を掴み自分の方へと近寄せる。

「ネ、ネウスさんっ、ごめんなさいっ、違うんです!少し興奮して大声を出してしまったんです……!」

何事だ、とネウスの後から追い付いたマティアスやロザンナ、カーナとユリナもメニアの部屋の外に集まっていて、メニアは先程そんなに大きな声を出してしまったのか、と恥ずかしくなってしまう。

「興奮して、大声を……?何故そんな事を……?」

訝しげな表情で、メニアに声を掛けるネウスにメニアは慌てて先程成功した事を説明し始める。

「それが!やっと成功したんです、ネウスさん!やっと解呪の魔法構築式の細部まで理解する事が出来て、魔力制御が上手くいったんです!」

メニアは嬉しそうに自分の手のひらをネウスの視界に入るように掲げると、手のひらの上にある魔石をほら!と言うように笑顔で見せる。

メニアの手のひらに視線を落としたネウスは魔石が確かに強い光と輝きを放っているのを確認してメニアに視線を戻す。
メニアの言う通り、確かに解呪の魔法は成功したのだろう。
ネウスはちらり、とメニアの部屋にあった机の方へと視線をやると、そこにも魔石がいくつも乗っており、沢山の魔石に魔法を発動したのだろう、と言う事が伺える。

「──ああ、そうみたいだな。解呪の魔法が成功して良かった……。──ロザンナ」
「はい、ネウス様」

ネウスは優しくメニアに話し掛けた後、メニアの部屋の外に控えていたロザンナに声を掛ける。

「メニアの解呪の魔法が込められたこの魔石三つ、背後の机にある精神干渉を弾く魔法が込められた魔石を明日ハピュナー子爵邸に届けさせてくれ」
「あっ、精神干渉の方は右側のこっちです──」

ネウスの言葉にロザンナが魔石を集めるのを手伝おう、とメニアがネウスから離れてロザンナの方へ向かおうとした時、ネウスに腕を再度ガッチリと掴まれてしまい、メニアは不思議そうな表情を浮かべ、ネウスに視線を向ける。

「明日、カーナとユリナ二人で子爵邸に行けよ。キャラメル色の髪をしたいけすかねえ感じの男が居たらメニアの婚約者だから近付くな。解呪の魔法をメニアの両親に発動して貰え。理由は何か適当な事をでっちあげちまえ」
「りょーかいしました、ネウス様!」

ネウスの言葉に、カーナが元気に答え、ユリナは母親のロザンナと共に机の上にある魔石をせっせと集め、袋にしまっていっている。

存外、強い力で自分の腕を掴み離さないネウスにメニアは困惑してしまい、助けを求めるようにマティアスにちらりと視線を向けるがメニアの視線に気付いたマティアスは苦笑いを浮かべてメニアに小さく首を横に振った。

「え、え……?」

メニアの頭の中に「?」が沢山浮かんでは消える。
先程からネウスはメニアの腕を掴んでは居るが、ネウスは一切メニアに視線を向けてこない。

「子爵邸で解呪を発動したらそのまま精神干渉の継続にそっちの魔石も発動しちまえ」
「かしこまりました、ネウス様」

ネウスがユリナに指示を飛ばし、そしてユリナがぺこり、と一礼して答えるとネウスはふう、と溜息を深く吐き出して黙り込む。

ピリピリとした雰囲気がネウスから漂って来て、メニアは何だか嫌な予感を感じて自分の腕を掴んでいるネウスから、腕を引き抜こうとそっと動かしたがその瞬間ネウスの顔がメニアの方へと向き、メニアはその場でびくり、と体が跳ねてしまった。

「──よし。他は大丈夫そうだな……。解散」

ネウスの言葉に、ロザンナを筆頭に口々にネウスに返事を返すとメニアに「頑張れ」と言うような憐れむ視線を向けて部屋から離れて行ってしまった。

人の気配があっという間に無くなってしまい、メニアは戸惑いながら扉の方向と、ネウスとを交互に視線を向ける。

「──え、え?」
「……。メニア、俺は無理はして欲しくない、と言った筈だ……。だからメニアが魔石に魔法を発動する時は俺が側で見張る、と言ったがメニアは大丈夫だ、と断ったよな?」
「え、ええ。はい。そうですね……?」

メニアが躊躇いがちにそう答えると、ネウスはメニアの頬にそっと手のひらをあててメニアの瞳を覗き込む。

「──顔色がさっきより悪くなっている。また、無茶をしたんだろ」
「ええ……っ!?」

本当だろうか、とメニアはペタペタと自分の頬に手をあてる。

確かに、沢山魔法を放ったから多少体がだるく感じてはいるが、魔力を一時的に大量消費してしまえば体に不調が出るのはもう慣れたものだ。
以前のように頭痛を感じる事も、立っていられない程体から力が抜ける事も無い。

だからメニアは、ネウスにしっかりと自分は大丈夫だ、と。少し心配し過ぎだとネウスに笑って見せた。
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