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しおりを挟むメニアの言葉に、ホッとしたような表情を浮かべるネウスの顔をちらり、と見やってからロザンナは頃合いか、と判断して唇を開いた。
「──それで、メニアには申し訳無いけれど、この邸内で保護している間、魔石に魔法を発動して欲しいの」
「はい!私で出来る事であれば勿論です!ネウスさんやロザンナさん、マティアスさん達にご迷惑をお掛けしてしまいますから、何か聖属性魔法でご入用な魔法があればご協力致します!」
今からやればいいですか!?とばかりに、メニアは気合いを入れるように腕まくりをすると身を乗り出した。
メニアの隣に座っていたネウスは、メニアの言葉に慌てたように肩を掴み、前のめりになっていたメニアの体勢をもう一度ソファへと深く座らせると唇を開く。
「いや、違う違う。俺達用の魔法を発動するんじゃなくて、メニアの家族用にちっとばかし無茶をして欲しい」
「私の、家族ですか?」
きょとん、と瞳を大きく見開いてそう零すメニアに、ネウスがこくりと頷く。
「ああ。メニアがこの邸に居る間はあいつらの精神干渉の魔法に備える必要はねえからな。もし万が一、この場所があいつらに割れて訪問を受けてからでもメニアに魔法を発動して貰えば十分に間に合う。だが、メニアの家族はそうはいかねえだろ?」
「確かに、そうですね……。離れた場所に居る両親や姉達にはここからどんなに急いで向かっても間に合いません」
「そうだろう?だから、メニアには精神干渉を弾く魔法を夜会の日まででいい。両親と、そうだな……メニアの家族……姉とその子供達分の魔石に日数分魔法を発動してくれ。しっかりと魔法が収まったら、ロザンナの娘達にその魔石を邸に届けさせる。上手い事言って、毎日その魔石の魔法を発動させれば新たにあいつらに精神干渉を重ねがけされねえだろう?」
あっさりとカーナとユリナに邸まで届けさせる、と言う言葉を聞いてメニアは慌てたように口を挟んだ。
「ちょ、ちょっと待って下さい……!いくらなんでも、カーナさんとユリナさんをセリウス様達が訪れるかもしれない場所に行かせてしまうのは……!届けるのであれば、他にも誰か適した人を──!」
「いや、大丈夫だ。カーナとユリナも立派な成人している魔の者だ。マティアス程、カーティス──父親の魔法センスは受け継いではいないが、同種である奴らには簡単にはやられない」
「そうですよ、メニアさん。私達、こんな見た目ですけど結構戦えるんです!」
「母さんは戦闘が苦手ですが、私達は父さんや兄さん達に鍛えられているので大丈夫です!」
ネウスの言葉に続くようにカーナとユリナが自信満々にそう告げて来る。
だが、確かに彼女達の言う通りでもあるのだろう。
実際、メニアよりも戦闘経験はあるだろうし、メニアよりも攻撃魔法だって発動出来る種類は多いだろう。
心配な気持ちは未だ消えはしないが、メニアはそれ以上引き止めるような言葉を告げる事が出来ず、眉を下げたまま分かりました、と頷いた。
「……それでしたら、邸に向かう前にカーナさんとユリナさんは直前に聖属性魔法を掛けて行きましょう?あの日、セリウス様からの精神干渉魔法の多発に、最後まで私の弾く魔法は解けませんでしたから、ある程度の持久力はあります。……けれど、もしセリウス様やシャロン様の気配を感じたら直ぐに邸を後にして下さいね?」
「勿論です、メニアさん!」
「ありがとうございます、メニアさん」
にこやかに笑顔を浮かべながらお礼を告げてくる二人に、メニアは慌てて手を振ると遅れて自分も頭を下げる。
「いえいえ!寧ろこちらこそ、色々とご協力頂きありがとうございます」
メニア達の会話が終わると、ロザンナは懐に自分の手を差し入れると内ポケットから小さな布製の袋を取り出し、テーブルの上にぽん、と置く。
形が崩れた袋からは「ジャラリ」と石がぶつかり合うような音が聞こえて来て、メニアはその袋に視線を移した。
「──一先ず、うちの国で採れる良質の魔石を持ってきたわ。これなら、石が小さくても大きな魔法を保存しておく事が出来るから、メニアが魔法を発動する魔石はこれにしてちょうだい?」
テーブルの上に置かれた袋を、ネウスは自分の指先でひょい、とつまみ上げると中身を確認して苦笑する。
「これだけの魔石、持ち出すのにロンが文句を言ったんじゃねえの?」
「ロンならまあ、何とかしてくれます」
ロザンナはひょい、と肩を竦めると大した事は無いだろうとあっけらかんとしている。
新しい名前の登場に、メニアがきょとんとしていると向かいに座っていたマーティスが「一番上の兄です」と教えてくれる。
(な、なるほど……ロザンナさんにはお子様が四人いらっしゃるのね……でも、何だか一番上のロンさん、と言う方は大変な苦労性のような気がするわ……)
メニアが納得している間に、話は纏まったのだろう。
早速明日、メニアのハピュナー子爵邸にカーナとユリナが魔石を届けてくれる事になったので、メニアは早速自室に篭って魔法の発動作業を行う事にした。
無茶をしないか側で見張る、と言っていたネウスを何とか無理矢理その場に留め置いて、メニアは自室に戻ると魔力の微調整を行いながら精神干渉を弾く魔法を黙々と魔石に発動して行った。
そうして、メニアが魔石に魔法を発動し始めてから数時間後。
突如メニアの部屋から今までとは比べ物にもならない程の真っ白い光が輝き、次いでメニアの嬉しそうな歓喜の声が響いた。
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