【完結】偽りの聖女、と罵られ捨てられたのでもう二度と助けません、戻りません

高瀬船

文字の大きさ
上 下
76 / 155

76

しおりを挟む

「──ロザンナ。メニアは魔力の総量が少ない。そんなに複数の魔石に魔法を発動する事は出来ねえぞ」

メニアとロザンナの会話を黙って聞いていたネウスが、メニアの身を案じて口を挟む。

メニアには元々十近くの魔石に魔法を発動してもらうつもりだったのだ。
それに加えて、解呪の魔法の発動を行わせて、更に追加で魔石に魔法を発動させる。
魔力を大量消費してしまえば、メニアの体調は悪くなる。
メニアの体調を心配してネウスは口を挟んだが、ロザンナに一蹴されてしまう。

「身を切らねばならない時もあります。安全性を求めて、死ぬ気にもならずに無難な結果だけを求めていれれば楽ですが、今回の件はメニアにも身を切って貰わねばいけません。聖属性魔法を発動出来るのはメニアだけなのですから、メニアの家族も守ると言うのであれば多少の無茶や、自身の犠牲も伴わなければいけませんよ」
「それ、は……そうだが……」

ロザンナの尤もな意見に、ネウスはぐぅっ、と押し黙る。

「ネウスさん、私は大丈夫です!毎日練習して、魔力制御も以前より出来るようになりましたし、意識を失う程魔力を消費はしませんし、なにより……家族に掛けられた魔法を解呪したいですから」
「……っ、分かった──。けど、メニアが魔石に魔法を発動する時は俺達も同席するぞ。魔力が枯渇しそうになる手前に止めるからな?」

心配そうな表情を浮かべてそう言い募るネウスに、メニアはついつい苦笑してしまう。
家族以外に、こんなにも自分自身の身を心配してくれる人が居なかったメニアはネウスやマティアスから心配される事が嬉しいと感じるのと同時に何だか擽ったい。

メニアがこくり、と頷いたのを確認するとネウスは長い溜息を吐いてからぴくり、と片眉を跳ねさせるとその場に立ち上がりメニアの後方に回った。

「──ネウスさん?」
「もうすぐメニアの父親が戻って来る。"聖女様"の護衛騎士が隣でぼさっと座ってる訳には行かねえだろ」

ネウスの行動にメニアが話し掛けると、ネウスが淡々とそう言葉を返す。
ネウスの言葉に、マティアスも慌てたようにロザンナの隣から立ち上がるとメニアの後方に控えた。

「──いいか、メニア。詳細は戻ってから話すが、メニアに取っては身体的にも、精神的にもキツい事がこの先起きると思う。だが、"それ"は一時の極僅かな時間で、辛い時は家族や俺達を頼ればいいから」
「辛い、事が……。──分かりました。その時は家族やネウスさん達に遠慮なく頼らせて頂きますね!」

メニアがそう言葉を返すと、応接室の扉が開きメニアの父親が戻って来た。







メニアの父親が戻って来てからは、ロザンナがトントン拍子に話を進め、メニアの保護の期間や、自分の娘達が定期的に子爵邸に報告に上がる、と言う事を説明し、メニアを今日すぐにでも保護の為に邸から連れ出す事について許可を得る。

使用人達にメニアの必要最低限の荷物を用意して貰っている間、メニアは甥と姪、そして親族達に挨拶をして来ると言ってネウスを伴い応接室を離れている。
二人に着いて行く形でメニアの父親も席を外しているので、応接室にはロザンナとマティアス、そして娘のカーナとユリナの四人だけになっている。


先程までのネウスの態度を見て、ロザンナは自分の隣にいるマティアスに向けてぽつりと言葉を零した。

「──随分とメニアにご執心ね?」
「……やっぱり、母さんもそう思います?」
「当たり前じゃない。ネウス様がミリアベルから貰った耳飾りの魔道具を人間に使用したのよ?それに、昨夜のネウス様の態度、今日ここに来てからメニアを見るネウス様の視線でハッキリと分かるわよ」
「あー……。そうですよね、そうなんですよね……」

マティアスの煮え切らない態度に、ロザンナは片眉を上げると訝しげに言葉を続ける。

「なあに?何か問題でもあるの?」
「──いや、ネウス様も、メニアさんも多分無自覚ですし……。メニアさんに至ってはネウス様は自分の事をぬいぐるみか何かのように可愛がっている、と思っているみたいで……」
「──は?無自覚と鈍感とでも言うの?」

だが、ネウスの猫っ可愛がり方は傍から見ていてもあからさまだ。
ネウスからそのような態度を受け続けていて、気付かない方がおかしい。

「……じゃあ……、自覚したくない、とでも考えているのかしらね……」
「へ?ネウス様がですか?」
「違うわよ、馬鹿」

マティアスの見当違いの言葉に、ロザンナは冷たくきっぱりと言い放つとショックを受けているマティアスを放置して、ロザンナは頭を抱えた。

──厄介な事が更に一つ増えてしまった。

「──いえ、今はそれ所じゃないわよね……。メニア達が戻ったら取り敢えずネウス様の邸に戻って夜会の事を話し合いましょう……」

やらなければならない事は沢山あるのだ。
同時進行で様々な事を捌いて行かなければならない。

ネウスとメニア二人の関係性は一先ず置いておき、メニアには夜会の日にセリウスが恐らくメニアに対して広域治癒魔法の使い手では無い事、偽の聖女として聖女の権利を悪用しようとした、と難癖を付けてくる筈である。

そうして、裏切り者の魔の者。

「──早く魔の者達を捕縛して、ネウス様に処理をして頂かないとね」

ロザンナは、瞳を細めて睨むように応接室の扉をひたり、と見詰めた。
しおりを挟む
感想 195

あなたにおすすめの小説

こんなに遠くまできてしまいました

ナツ
恋愛
ツイてない人生を細々と送る主人公が、ある日突然異世界にトリップ。 親切な鳥人に拾われてほのぼのスローライフが始まった!と思いきや、こちらの世界もなかなかハードなようで……。 可愛いがってた少年が実は見た目通りの歳じゃなかったり、頼れる魔法使いが実は食えない嘘つきだったり、恋が成就したと思ったら死にかけたりするお話。 (以前小説家になろうで掲載していたものと同じお話です) ※完結まで毎日更新します

居場所を奪われ続けた私はどこに行けばいいのでしょうか?

gacchi
恋愛
桃色の髪と赤い目を持って生まれたリゼットは、なぜか母親から嫌われている。 みっともない色だと叱られないように、五歳からは黒いカツラと目の色を隠す眼鏡をして、なるべく会わないようにして過ごしていた。 黒髪黒目は闇属性だと誤解され、そのせいで妹たちにも見下されていたが、母親に怒鳴られるよりはましだと思っていた。 十歳になった頃、三姉妹しかいない伯爵家を継ぐのは長女のリゼットだと父親から言われ、王都で勉強することになる。 家族から必要だと認められたいリゼットは領地を継ぐための仕事を覚え、伯爵令息のダミアンと婚約もしたのだが…。 奪われ続けても負けないリゼットを認めてくれる人が現れた一方で、奪うことしかしてこなかった者にはそれ相当の未来が待っていた。

【完結】もう結構ですわ!

綾雅(ヤンデレ攻略対象、電子書籍化)
恋愛
 どこぞの物語のように、夜会で婚約破棄を告げられる。結構ですわ、お受けしますと返答し、私シャルリーヌ・リン・ル・フォールは微笑み返した。  愚かな王子を擁するヴァロワ王家は、あっという間に追い詰められていく。逆に、ル・フォール公国は独立し、豊かさを享受し始めた。シャルリーヌは、豊かな国と愛する人、両方を手に入れられるのか!  ハッピーエンド確定 【同時掲載】小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ 2024/11/29……完結 2024/09/12……小説家になろう 異世界日間連載 7位 恋愛日間連載 11位 2024/09/12……エブリスタ、恋愛ファンタジー 1位 2024/09/12……カクヨム恋愛日間 4位、週間 65位 2024/09/12……アルファポリス、女性向けHOT 42位 2024/09/11……連載開始

初夜に大暴言を吐かれた伯爵夫人は、微笑みと共に我が道を行く ―旦那様、今更擦り寄られても困ります―

望月 或
恋愛
「お前の噂を聞いたぞ。毎夜町に出て男を求め、毎回違う男と朝までふしだらな行為に明け暮れているそうだな? その上糸目を付けず服や装飾品を買い漁り、多大な借金を背負っているとか……。そんな醜悪な女が俺の妻だとは非常に不愉快極まりない! 今後俺に話し掛けるな! 俺に一切関与するな! 同じ空気を吸ってるだけでとんでもなく不快だ……!!」 【王命】で決められた婚姻をし、ハイド・ランジニカ伯爵とオリービア・フレイグラント子爵令嬢の初夜は、彼のその暴言で始まった。 そして、それに返したオリービアの一言は、 「あらあら、まぁ」 の六文字だった。  屋敷に住まわせている、ハイドの愛人と噂されるユーカリや、その取巻きの使用人達の嫌がらせも何のその、オリービアは微笑みを絶やさず自分の道を突き進んでいく。 ユーカリだけを信じ心酔していたハイドだったが、オリービアが屋敷に来てから徐々に変化が表れ始めて…… ※作者独自の世界観満載です。違和感を感じたら、「あぁ、こういう世界なんだな」と思って頂けたら有難いです……。

どうも、死んだはずの悪役令嬢です。

西藤島 みや
ファンタジー
ある夏の夜。公爵令嬢のアシュレイは王宮殿の舞踏会で、婚約者のルディ皇子にいつも通り罵声を浴びせられていた。 皇子の罵声のせいで、男にだらしなく浪費家と思われて王宮殿の使用人どころか通っている学園でも遠巻きにされているアシュレイ。 アシュレイの誕生日だというのに、エスコートすら放棄して、皇子づきのメイドのミュシャに気を遣うよう求めてくる皇子と取り巻き達に、呆れるばかり。 「幼馴染みだかなんだかしらないけれど、もう限界だわ。あの人達に罰があたればいいのに」 こっそり呟いた瞬間、 《願いを聞き届けてあげるよ!》 何故か全くの別人になってしまっていたアシュレイ。目の前で、アシュレイが倒れて意識不明になるのを見ることになる。 「よくも、義妹にこんなことを!皇子、婚約はなかったことにしてもらいます!」 義父と義兄はアシュレイが状況を理解する前に、アシュレイの体を持ち去ってしまう。 今までミュシャを崇めてアシュレイを冷遇してきた取り巻き達は、次々と不幸に巻き込まれてゆき…ついには、ミュシャや皇子まで… ひたすら一人づつざまあされていくのを、呆然と見守ることになってしまった公爵令嬢と、怒り心頭の義父と義兄の物語。 はたしてアシュレイは元に戻れるのか? 剣と魔法と妖精の住む世界の、まあまあよくあるざまあメインの物語です。 ざまあが書きたかった。それだけです。

毒を盛られて生死を彷徨い前世の記憶を取り戻しました。小説の悪役令嬢などやってられません。

克全
ファンタジー
公爵令嬢エマは、アバコーン王国の王太子チャーリーの婚約者だった。だがステュワート教団の孤児院で性技を仕込まれたイザベラに籠絡されていた。王太子達に無実の罪をなすりつけられエマは、修道院に送られた。王太子達は執拗で、本来なら侯爵一族とは認められない妾腹の叔父を操り、父親と母嫌を殺させ公爵家を乗っ取ってしまった。母の父親であるブラウン侯爵が最後まで護ろうとしてくれるも、王国とステュワート教団が協力し、イザベラが直接新種の空気感染する毒薬まで使った事で、毒殺されそうになった。だがこれをきっかけに、異世界で暴漢に腹を刺された女性、美咲の魂が憑依同居する事になった。その女性の話しでは、自分の住んでいる世界の話が、異世界では小説になって多くの人が知っているという。エマと美咲は協力して王国と教団に復讐する事にした。

悪役令嬢に仕立て上げたいのならば、悪役令嬢になってあげましょう。ただし。

三谷朱花
恋愛
私、クリスティアーヌは、ゼビア王国の皇太子の婚約者だ。だけど、学院の卒業を祝うべきパーティーで、婚約者であるファビアンに悪事を突き付けられることになった。その横にはおびえた様子でファビアンに縋り付き私を見る男爵令嬢ノエリアがいる。うつむきわなわな震える私は、顔を二人に向けた。悪役令嬢になるために。

【完結】捨てられた双子のセカンドライフ

mazecco
ファンタジー
【第14回ファンタジー小説大賞 奨励賞受賞作】 王家の血を引きながらも、不吉の象徴とされる双子に生まれてしまったアーサーとモニカ。 父王から疎まれ、幼くして森に捨てられた二人だったが、身体能力が高いアーサーと魔法に適性のあるモニカは、力を合わせて厳しい環境を生き延びる。 やがて成長した二人は森を出て街で生活することを決意。 これはしあわせな第二の人生を送りたいと夢見た双子の物語。 冒険あり商売あり。 さまざまなことに挑戦しながら双子が日常生活?を楽しみます。 (話の流れは基本まったりしてますが、内容がハードな時もあります)

処理中です...