【完結】偽りの聖女、と罵られ捨てられたのでもう二度と助けません、戻りません

高瀬船

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すらすらとロザンナから語られる魔道具の説明に、メニアの父親は「な、なるほど?」と躊躇いながらも返事をするとロザンナから渡されて行く魔道具を次々と大事そうに受け取って行く。

そうして、ロザンナの進めるままメニアの父親は魔道具に自分の魔力を流し込むと、魔道具を発動させた。

──キンっ、と高い音を立てて防御結界がこの邸全体に張られた事を確認すると、邸の奥から様子を見に来たメニア本人が自分の父親と、その前に居るネウス達の姿を見て、驚いたように瞳を見開いた。

(──あら、想像していたよりも可愛らしいわね)

ミリアベルのように、綺麗めな容姿を想像していたロザンナは、実際姿を見せたメニアの姿が愛くるしい可愛い女性と言う事に驚く。

(綺麗、と言うよりも可愛らしい女性ね)

ロザンナはちらり、と少しだけ後ろに居るネウスに視線を向けるが、ロザンナからの視線を避けるようにネウスはごく自然に顔を逸らし、ロザンナから表情が見えないように隠している。

「えっと……?どうされましたか……?」
「──失礼致しましたっ。防御結界は無事お邸に張られたようですね。一安心です」

メニアの父親の戸惑ったような声音に、ロザンナははっとして視線を父親に戻すとにっこりと笑顔を浮かべて返事をする。
そうして、メニアの方へと視線を向けると優しい笑みを浮かべながらメニアに対して腰を折った。

「メニア・ハピュナー嬢、初めまして。私はロザンナ・アルハと申します。こちらのフォール卿に仕えております。どうぞお見知り置きを」
「──っ!メニア・ハピュナーです、どうぞ宜しくお願い致します」

ネウスに使えている、と言う言葉で全てを悟ったのだろう。
メニアははっと瞳を見開くと慌てて自らもドレスの裾を指先で摘み、軽く膝を折り挨拶を返す。

「──こちらの女性二人は私の娘です。ご挨拶なさい」
「はい、お母様。メニア様、お初にお目に掛かります。カーナ、と申します」
「メニア様、私はユリナ、と申します。どうぞ宜しくお願い致します」
「メニア・ハピュナーです、こちらこそどうぞ宜しくお願い致しますね」

ロザンナの娘二人から挨拶をされたメニアは、はにかみながら挨拶を返すと嬉しそうにカーナとユリナに笑顔を向ける。

メニアには、婚約者であるセリウスと、友人であるシャロン以外に同じ年頃の令嬢で友人と呼べる者が居なかった。
その為、見た目が自分と同じ年頃であるカーナとユリナに嬉しそうに笑いかけると薄らと頬を染めにこやかに笑っている。

カーナとユリナ、メニアの微笑ましい光景にロザンナを始め、メニアの父親である子爵も眩しそうに目を細めて自分の娘を愛おしそうに見詰めて居る。
その様子を観察しながら、ロザンナはメニアの父親に向き直ると唇を開いた。

「ハピュナー子爵。メニア嬢が参られたので、ご本人に事情をご説明させて頂いても?」
「ああ、はい!大丈夫ですよ。応接室をお使い下さい」

ロザンナの申し出に、メニアの父親は快く頷くと応接室に案内してくれたのであった。




ネウス達を応接室に案内し終わったメニアの父親は、「少しだけ席を外します」と声を掛けるとさそくさとその場を去った。だが、少し時間が経てば直ぐに戻って来るだろう事は分かる。
少ない時間内に、メニアに事情を説明しなければ、とロザンナはメニアに近付くと唇を開いた。

「ネウス様からお話は伺っていたけれど……、こうして顔を見るのは初めてだわ。私はロザンナ。ロザンナ・アルハランド。かつて、この国に居たノルトと同じ魔道士団の副団長を務めていた男を夫に持つ研究員よ。戦闘は苦手だけど、魔道具に関しては私に任せて頂戴」

ロザンナが笑顔を浮かべてメニアに向かって手のひらを差し出すと、メニアも笑顔でロザンナに自分の手のひらを差し出して唇を開いた。

「ネウスさんと、マティアスさんに沢山助けて頂いております。メニア・ハピュナーです。ロザンナさんの魔道具、とても助かりますありがとうございます」

きゅっ、とお互い力強く手を握るとふふふ、と笑顔で挨拶を交わす。
ロザンナはメニアをソファへと案内すると、自身はメニアの向かいへと腰を下ろし、ネウスは自然にメニアの隣に、マティアスはロザンナの隣へと腰掛けた。
その流れが「自然」と言うようなメニア達の様子に、ロザンナは僅かに唇の端を持ち上げ、ロザンナの娘達二人は驚いたようにメニアとネウスに視線を向けている。

(ネウス様をからかうのは後にして……、メニアの父親が戻って来るまでに説明しないとね)

ロザンナは僅かに湧いた悪戯心を抑え込むと、真剣な表情でメニアに今日、この場所に来た理由を説明し出した。

「メニア。私達は今日貴方の身をこちらで保護する為に子爵邸に赴いたの。貴方の父親には宰相であるラドの命令だ、と伝えてあって父親からメニアを保護する事についての許可は貰っているわ」
「保護、ですか……?私が子爵邸に居ると状況が良くない、と言う事ですね?」
「ええ、そうよ。貴方の婚約者の男が今後邸に訪ねて来て、貴方に対して危害を加える可能性もあるから、貴方の身は私達魔の者で保護するわ」
「──それは、大変有難いのですが……私以外の家族は、この邸に残る家族は大丈夫なのでしょうか?」
「それも一応は対策済よ。私の魔道具を貴方の父親に渡しておいたわ。物理的な攻撃から邸を守る結界に、魔法攻撃から邸や人を守る結界の魔道具は渡してあって、既に発動済ね。問題は、魔の者が使う闇魔法の魅了や信用なのだけれど……それはこれからメニアに魔石に魔法を発動してもらって、それを私の娘に邸に届けさせるわ」

ロザンナの娘達に魔石を託して届けさせる、なんて事をさせてしまっていいのだろうか、とメニアがギョッとするが、当の本人達は「任せて!」と誇らしげに表情を輝かせた。
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