【完結】偽りの聖女、と罵られ捨てられたのでもう二度と助けません、戻りません

高瀬船

文字の大きさ
上 下
74 / 155

74

しおりを挟む

ロザンナは、キラキラと輝きを放つネウスの耳に付けられている魔道具のイヤリングを視界に止めながらネウスに向かって唇を開いた。

「──ネウス様?ネウス様はメニアと言う女の子が害されそうになって感情を揺るがせたのですよね?それは、間違い無いのですよね?」
「……そりゃあっ、気に入っている人間が害されそうになったら腹が立つのは当たり前だろう……きっと俺はノルトやカーティスが害されそうになったとしても同じ状態になってた」
「それ程、久々に人間に対して心が動かされたと言う事ですよね……?それだけでも分かれば結構です。マティアス、現状と今後の予定を話して」

ロザンナはネウスにそう話し掛けると、隣に座る自分の息子に体の向きを変えて説明を求めた。
まだ何かを言いたそうなネウスが視界の端にちらちらと映るが、それには一切反応しない。

(──ネウス様が久しぶりに心を動かされた人間、しかも、女の子。伴侶候補なのだからしっかりとこちらで守らなくては……!)

ロザンナは、マティアスの説明を聞きながら自分の頭の中で今後の予定と、自分の動き方をどんどんと組み立てて行った。





全ての話をマティアスから聞き終わったロザンナは、自分が考えていたよりも状況が芳しくない事に頭を抱える。

ネウスよりも序列が上の存在、メニアの婚約者である男の暴走、婚約者と手を組んでいる女が共謀してメニアを害そうとしている状況、国へのこちら側の事情などなどが分かり、ロザンナは早急にメニアの身柄を保護した方がいいだろう、と言う結論に至った。

「そう、……そうね。今がその状況なら、メニアと言う女の子をこっちで保護した方が良さそうだわ。夜会の時まで、相手からの接触を絶った方が良さそう」
「ですが、母さん。メニアさんを保護すると言っても、どんな名目で……?彼女の両親は婚約者の男に精神干渉を受けていて、まだ解呪に至ってないんです。メニアさんが聖属性魔法の弾く魔法を掛けたから、重ねがけされる心配は無くなりましたが保護するのに最もな理由でもないと怪しまれません?」

ロザンナのメニアを保護する、と言う言葉にマティアスが慌てたように言葉を紡ぐと、ロザンナは呆れたように溜息を吐いて唇を開いた。

「そんなのんびりしていたらメニアって子の身に危険があるかもしれないじゃない。理由なんて何でも良いのよ。無ければでっち上げればいいの。ぐだぐだしててもしょうがないわ。明日、早速メニアを保護しましょう。──いいですよね、ネウス様!?」
「え、あ、ああ。分かった……」

ロザンナの気迫に押されたようにネウスが思わずこくり、と頷くとロザンナは満足気に笑顔を浮かべて腰掛けていたソファから立ち上がった。

「それならば、持ってきた魔道具で役立ちそうな物をいくつか選んでおきます。メニアを保護した後、メニアの家族を守れるような物を用意しておきますね」

ロザンナはそう言うと、もう話は終わったとばかりにいそいそと部屋を退出して、娘達の元へと向かった。

ロザンナの気迫に押されたネウスとマティアスはぽかん、とロザンナの出て行った方向に視線を向けた。

「──メニアを、どう守るかと話し合いたかったが……あっさりと決まったな……」
「ええ、はい……。確かに母さんの言う通り、メニアさんを俺達の手で守る方が確実ですね……」






翌日。
早朝からロザンナに叩き起されたネウスとマティアスは、急かされながら身支度を行い、ロザンナの娘も含めて五人でメニアのハピュナー子爵邸に向かった。

いつものようにこっそりとメニアの部屋へと転移するのでは無く、この国の宰相であるラドから正式に依頼を受けたメニアの護衛として正式に子爵邸へと訪問したのだった。

「これは、これは……フォール卿……本日はどうなさいましたか?」

突然の訪問に、出迎えたメニアの父親が驚いた表情を隠す事無くネウスに話し掛ける。
すると、ネウスの隣に居たロザンナが一歩足を踏み出しメニアの父親の前に進みでると挨拶を行う為に腰を折る。

「始めまして、ハピュナー子爵。私は王立魔道具研究所の研究員、ロザンナ・アルハと申します。聖女様に任命されたメニア嬢の保護に本日は参りました」

ロザンナが家名を若干隠しながらそう告げると、メニアの父親はロザンナの言葉に呆気に取られたような表情を浮かべる。

「──保護……!?メニアは、何か危険な状態なのですか……!?」
「ええ……実はまだ機密情報なのですが……聖女様達を狙う輩の情報が宰相閣下の元に入りました。その為、聖女様の御身を保護する為に近衛騎士の元で、聖女様をお守りする事になったのです。それと……、聖女様のご実家であり、ご家族も保護の対象となっておりますのでお邸を守るこちらの魔道具をお届けに参りました」

すらすらとロザンナは真実と嘘を上手に織り交ぜながらメニアの父親に事情を説明する。
聖女の身が狙われるのは確かに無いとは言い難い。
その危険性をしっかりと理解しているのだろう、メニアの父親はごくり、と喉を鳴らすとロザンナが取り出した魔道具を震える指先で慎重に、大事そうに受け取る。

「わ、私達もその……狙われる対象になっているのですか……」
「それは勿論でございます。聖女様方のお身内も、しっかりと我々がお守り致しますのでご安心下さいね。──こちらの魔道具は、悪しき魔力に反応して、侵入を拒む魔道具となっておりまして、発動はご自身の魔力を流して頂くだけと言う簡単な装置です。一度魔道具が魔法を発動致しましたら、ひと月程は効果が持続致しますのでご安心下さい」
「ひと月も……」
「はい、続いてこちらは、悪しき魔力や敵意を持った者から逃れる事の出来る防御結界がはられます。こちらも発動は魔力を流して頂ければすぐさま効力を発揮致します。こちらも持続期間はひと月ございます」
しおりを挟む
感想 195

あなたにおすすめの小説

こんなに遠くまできてしまいました

ナツ
恋愛
ツイてない人生を細々と送る主人公が、ある日突然異世界にトリップ。 親切な鳥人に拾われてほのぼのスローライフが始まった!と思いきや、こちらの世界もなかなかハードなようで……。 可愛いがってた少年が実は見た目通りの歳じゃなかったり、頼れる魔法使いが実は食えない嘘つきだったり、恋が成就したと思ったら死にかけたりするお話。 (以前小説家になろうで掲載していたものと同じお話です) ※完結まで毎日更新します

居場所を奪われ続けた私はどこに行けばいいのでしょうか?

gacchi
恋愛
桃色の髪と赤い目を持って生まれたリゼットは、なぜか母親から嫌われている。 みっともない色だと叱られないように、五歳からは黒いカツラと目の色を隠す眼鏡をして、なるべく会わないようにして過ごしていた。 黒髪黒目は闇属性だと誤解され、そのせいで妹たちにも見下されていたが、母親に怒鳴られるよりはましだと思っていた。 十歳になった頃、三姉妹しかいない伯爵家を継ぐのは長女のリゼットだと父親から言われ、王都で勉強することになる。 家族から必要だと認められたいリゼットは領地を継ぐための仕事を覚え、伯爵令息のダミアンと婚約もしたのだが…。 奪われ続けても負けないリゼットを認めてくれる人が現れた一方で、奪うことしかしてこなかった者にはそれ相当の未来が待っていた。

誰もがその聖女はニセモノだと気づいたが、これでも本人はうまく騙せているつもり。

幌あきら
恋愛
【異世界恋愛・クズ聖女・ざまぁ系・溺愛系・ハピエン】 グルーバー公爵家のリーアンナは王太子の元婚約者。 「元」というのは、いきなり「聖女」が現れて王太子の婚約者が変更になったからだ。 リーアンナは絶望したけれど、しかしすぐに受け入れた。 気になる男性が現れたので。 そんなリーアンナが慎ましやかな日々を送っていたある日、リーアンナの気になる男性が王宮で刺されてしまう。 命は取り留めたものの、どうやらこの傷害事件には「聖女」が関わっているもよう。 できるだけ「聖女」とは関わりたくなかったリーアンナだったが、刺された彼が心配で居ても立っても居られない。 リーアンナは、これまで隠していた能力を使って事件を明らかにしていく。 しかし、事件に首を突っ込んだリーアンナは、事件解決のために幼馴染の公爵令息にむりやり婚約を結ばされてしまい――? クズ聖女を書きたくて、こんな話になりました(笑) いろいろゆるゆるかとは思いますが、よろしくお願いいたします! 他サイト様にも投稿しています。

【完結】もう結構ですわ!

綾雅(ヤンデレ攻略対象、電子書籍化)
恋愛
 どこぞの物語のように、夜会で婚約破棄を告げられる。結構ですわ、お受けしますと返答し、私シャルリーヌ・リン・ル・フォールは微笑み返した。  愚かな王子を擁するヴァロワ王家は、あっという間に追い詰められていく。逆に、ル・フォール公国は独立し、豊かさを享受し始めた。シャルリーヌは、豊かな国と愛する人、両方を手に入れられるのか!  ハッピーエンド確定 【同時掲載】小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ 2024/11/29……完結 2024/09/12……小説家になろう 異世界日間連載 7位 恋愛日間連載 11位 2024/09/12……エブリスタ、恋愛ファンタジー 1位 2024/09/12……カクヨム恋愛日間 4位、週間 65位 2024/09/12……アルファポリス、女性向けHOT 42位 2024/09/11……連載開始

初夜に大暴言を吐かれた伯爵夫人は、微笑みと共に我が道を行く ―旦那様、今更擦り寄られても困ります―

望月 或
恋愛
「お前の噂を聞いたぞ。毎夜町に出て男を求め、毎回違う男と朝までふしだらな行為に明け暮れているそうだな? その上糸目を付けず服や装飾品を買い漁り、多大な借金を背負っているとか……。そんな醜悪な女が俺の妻だとは非常に不愉快極まりない! 今後俺に話し掛けるな! 俺に一切関与するな! 同じ空気を吸ってるだけでとんでもなく不快だ……!!」 【王命】で決められた婚姻をし、ハイド・ランジニカ伯爵とオリービア・フレイグラント子爵令嬢の初夜は、彼のその暴言で始まった。 そして、それに返したオリービアの一言は、 「あらあら、まぁ」 の六文字だった。  屋敷に住まわせている、ハイドの愛人と噂されるユーカリや、その取巻きの使用人達の嫌がらせも何のその、オリービアは微笑みを絶やさず自分の道を突き進んでいく。 ユーカリだけを信じ心酔していたハイドだったが、オリービアが屋敷に来てから徐々に変化が表れ始めて…… ※作者独自の世界観満載です。違和感を感じたら、「あぁ、こういう世界なんだな」と思って頂けたら有難いです……。

どうも、死んだはずの悪役令嬢です。

西藤島 みや
ファンタジー
ある夏の夜。公爵令嬢のアシュレイは王宮殿の舞踏会で、婚約者のルディ皇子にいつも通り罵声を浴びせられていた。 皇子の罵声のせいで、男にだらしなく浪費家と思われて王宮殿の使用人どころか通っている学園でも遠巻きにされているアシュレイ。 アシュレイの誕生日だというのに、エスコートすら放棄して、皇子づきのメイドのミュシャに気を遣うよう求めてくる皇子と取り巻き達に、呆れるばかり。 「幼馴染みだかなんだかしらないけれど、もう限界だわ。あの人達に罰があたればいいのに」 こっそり呟いた瞬間、 《願いを聞き届けてあげるよ!》 何故か全くの別人になってしまっていたアシュレイ。目の前で、アシュレイが倒れて意識不明になるのを見ることになる。 「よくも、義妹にこんなことを!皇子、婚約はなかったことにしてもらいます!」 義父と義兄はアシュレイが状況を理解する前に、アシュレイの体を持ち去ってしまう。 今までミュシャを崇めてアシュレイを冷遇してきた取り巻き達は、次々と不幸に巻き込まれてゆき…ついには、ミュシャや皇子まで… ひたすら一人づつざまあされていくのを、呆然と見守ることになってしまった公爵令嬢と、怒り心頭の義父と義兄の物語。 はたしてアシュレイは元に戻れるのか? 剣と魔法と妖精の住む世界の、まあまあよくあるざまあメインの物語です。 ざまあが書きたかった。それだけです。

毒を盛られて生死を彷徨い前世の記憶を取り戻しました。小説の悪役令嬢などやってられません。

克全
ファンタジー
公爵令嬢エマは、アバコーン王国の王太子チャーリーの婚約者だった。だがステュワート教団の孤児院で性技を仕込まれたイザベラに籠絡されていた。王太子達に無実の罪をなすりつけられエマは、修道院に送られた。王太子達は執拗で、本来なら侯爵一族とは認められない妾腹の叔父を操り、父親と母嫌を殺させ公爵家を乗っ取ってしまった。母の父親であるブラウン侯爵が最後まで護ろうとしてくれるも、王国とステュワート教団が協力し、イザベラが直接新種の空気感染する毒薬まで使った事で、毒殺されそうになった。だがこれをきっかけに、異世界で暴漢に腹を刺された女性、美咲の魂が憑依同居する事になった。その女性の話しでは、自分の住んでいる世界の話が、異世界では小説になって多くの人が知っているという。エマと美咲は協力して王国と教団に復讐する事にした。

悪役令嬢に仕立て上げたいのならば、悪役令嬢になってあげましょう。ただし。

三谷朱花
恋愛
私、クリスティアーヌは、ゼビア王国の皇太子の婚約者だ。だけど、学院の卒業を祝うべきパーティーで、婚約者であるファビアンに悪事を突き付けられることになった。その横にはおびえた様子でファビアンに縋り付き私を見る男爵令嬢ノエリアがいる。うつむきわなわな震える私は、顔を二人に向けた。悪役令嬢になるために。

処理中です...