【完結】偽りの聖女、と罵られ捨てられたのでもう二度と助けません、戻りません

高瀬船

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ロザンナの言葉に促されて、ネウスの邸に到着した面々は、ロザンナの娘二人をさっさと休ませ、ネウスとマティアス、ロザンナは談話室へと移動して来ていた。


使用人に用意されたアルコールを三人は楽しみながら、ロザンナが口火を切る。

「──で、ネウス様。何があったのか伺っても?ある程度の事情は伺ってますが、ネウス様があんな状態になる程の何かがあったのですか?」

グラスの中身を一口飲み込んだロザンナが、責めるような視線を向けてくる。

ロザンナ自身も、マティアス同様あのような状態になっているネウスを見るのは久しぶりで、今更ながらばくばくと心臓がけたたましい音を奏でているのに気付き、そっと自分の心臓を抑えるように手のひらを当てた。

「いや、悪い。あれは俺が悪い……。少し感情が抑えきれなかった……」
「感情が少し抑えきれなかった位であんな状態になるのは辞めて下さいよ……!あの時よりも遥かに恐ろしかったですからね!」
「確かに……。俺、あの時ネウス様に殺されると思うくらい怖かったですもん……。母さんが来なかったらどう止めれば良かったのか……」

ロザンナと、マティアスの言葉にぐぅっと言葉を詰まらせるとネウスは二人から視線を逸らした。

「まあ、分かりますけどね……メニアさんを始末するつもりだった、とあの男から聞いて頭に血が登ったんでしょうけど……」
「──ばっ、!マティアス!」
「……え、メニア?メニアって、今ネウス様とマティアスが保護している人間の女の子?その子が始末される、って聞いてネウス様があんな事になってたの?」

マティアスの言葉に、焦ってネウスが言葉を遮ろうとしたがしっかりとロザンナの耳に届いてしまっていたらしく、マティアスの言葉にロザンナは驚きに瞳を見開いた。

「ミリアベル以外、興味ありませんって態度だったネウス様が人間の女の子に興味を持ったの?その子を始末するって聞いて、先程のような状態になったの?ネウス様が……?」

信じられない、と言うような表情を浮かべてロザンナはネウスを見やる。
ロザンナの視線から逃れるようにふいっ、とネウスは顔を背けるが、背けたネウスの耳に付いているイヤリングがロザンナの目に入り、更にくわっと瞳を見開いた。

(ミリアベルの魔法が込められている魔石のイヤリングの本数が減っている……?数百年、大切に扱って絶対に誰にも触れさせないようにしていたネウス様がもしかしてミリアベルの魔法が込められた魔石を砕いたの?何のために──)

ネウスの耳に付いている魔石のイヤリングの本数が三本から一本に減ってしまっている事に気付いたロザンナは、ちらり、とマティアスに視線を向けると自分の隣に居る息子にこそこそと声量を落として問い掛ける。

「メニアって女の子と、ネウス様はお付き合いをしているの……?」
「──いえ。そのような事実は無いです……。メニアさん自身も、ネウス様自身に対してそのような気持ちを抱いているような感じではないですね……」
「そうなの……やっと奥方を決めたのかと思ったのだけれど……」

マティアスの言葉に、ロザンナは残念そうに眉を下げると溜息を吐き出す。
ネウスが自分から行動を起こしたのは過去にミリアベルただ一人だけで、だがその女性はネウスでは無く他の男性を選んでしまった。

それから、ネウス自身ミリアベルの事が忘れられなかったのだろう。
数百年、ずっと伴侶を得る事は無かったのだが、ネウスの立場を考えるとそろそろ本当に自分の伴侶を得るような時期だ。

魔の者の命が脅かされていた数百年前とは違い、今は魔の者も穏やかに暮らす事が出来るようになっている。
命を脅かされていた時期は、ネウスは魔の者の王である事から自分の種族の事を第一に考え、行動して来ていたがそろそろ自身の幸せを見付けてもいいだろう、とロザンナは考えている。

心を許せる伴侶を見付け、幸せを見付け、後継を作ってもいいのではないか、と。

(──……そうでないと、ネウス様の後を狙う不届者が後を絶たない)

ネウスの後継を狙うだけならばまだいい。
だが、ネウスの立場を狙う者が出てこないとは言えないのだ。

(最近、こっちの国でも物騒な考えを持つ者が出てきてしまったしね……)

命の危機を脱した者達は、穏やかに流れる日々に満足する者もいれば、刺激を求める愚かな者も居る。

人間を「糧」として考える、認識している同族も少なからず居るのは事実だ。
それを今まではネウスが絶対的な力で押さえ込み、大事にはなっていないが数が増えたら──?

そのような恐れを避ける為にも、ネウスにはそろそろ身を固め、後継を。と考えているのは何もロザンナだけでは無い。
ネウスの側近達は本人に対して口にはしない物の、数年前からそのような事を考えている。

だが、人の感情に聡いネウス自身もその事はうっすらと察しているだろう。
たまに、申し訳なさそうな表情をしているのを見る。
周囲が結婚をいくら勧めても、ネウスが好きになれる女性が居ないのであればどうする事も出来ない。

ロザンナは、ちらりと再度ネウスに視線を向ける。
ネウスの耳で揺れているイヤリングが、室内の照明に照らされてキラキラと眩く光り輝き、紅く繊細な輝きを放っていた。
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