【完結】偽りの聖女、と罵られ捨てられたのでもう二度と助けません、戻りません

高瀬船

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「メランド卿……!?」

突然現れたラドに、メニアが驚きの声を上げると、急いでこの場所に駆け付けたのだろうか。
ラドがぜいぜいと肩で息をしながら額の汗を自分の腕で拭い、メニアと共にいるネウスとマティアスに鋭い視線を向ける。

「そこに居るハピュナー嬢を解放しろ。その女性は得体の知れないお前達が手を触れていい方では無い……」

ぎりっ、と奥歯を噛み締め、地の底を這うような怒りの感情が籠った声音にメニアはびくり、と恐怖に体を震わせるが、ラドは誤解をしている。

ラドの目の前に居るのは、この国と友好関係を結んでいる魔の者の王である人物と、その側近だ。

この場で敵対するのは良くない、と思いメニアが事情を説明しようとラドに向かって唇を開く前に、ラドは自分の側に居るこの保管庫の衛兵に悔しげな視線を向けると唇を開く。

「──衛兵に何の魔法を使用したのかは分からないが、精神干渉魔法は国で禁止されている魔法だ……。その魔法を何処で取得し、何の目的で使用したのか洗いざらい吐いて貰う!」

ラドは、ネウスやマティアスから感じる本能的な恐怖に顔色を真っ青にしながら、この国の国民であり、聖女であるメニアを守ろうとする気概を伺う事が出来、ラドが何らかの魔法を発動しようとしている雰囲気を感じ取り、メニアは慌てて唇を開いた。

「メ、メランド卿!誤解なのです……っ、先ずは話を聞いて下さいっ!」

緊迫した空気の中、未だに背中に張り付くネウスの腕をメニアはべりっと無理矢理剥がすとラドの方へと向かって小走りに向かった。






一先ず、この場所で長々と話す事はどうかと思い、メニアが場所を移動しようと提案すると、あっさりとラドが頷き、王立図書館に併設している会議室に場所を移動した。

もう直ぐ図書館も閉館の時間だった事もあり、あの場所に居続けるのは良くないだろう、と考えたのだ。
時間が経てば、セリウスもあの部屋から出てきてしまうので更に話がややこしくなってしまう、と考えて場所を移動したのだが──。

会議室に入った途端、メニアはラドに腕を強く引かれてラドの側に避難させられると、二人から離れた距離に居るネウスとマティアスに向かって攻撃魔法を放った。

「──なっ!」

驚くメニアの目の前で、ラドが使用する水魔法だろうか。
細長く形を変形させた凝縮された水の矢が、ネウス目掛けて勢い良く放たれ、そしてネウスの体に当たる寸前にその水の矢がぱしゅん、と小さな音を立てて消え去った。

「……は、?」

それには、メニアの隣に居たラドも驚きの声を上げ、呆気に取られたような表情を浮かべるとネウスを凝視する。

メニアと、ラドから視線を向けられたネウスはなんて事のないようなあっけらかんとした表情で首を傾げると唇を開く。

「今は魔力を消費しちまったから有難い。いくらでも俺に魔法を放ってくれていいぞ?」
「──は?それ、は……私の魔力を吸収、?」

ネウスの言葉にラドが言葉を紡ぐと、億劫そうにネウスが頷く。

「──待て、待て待て待て。魔力を吸収して、自分の糧にするなんてのは、一つの種族しか知らない……!」

ラドが混乱したように自分の額に手を当てて、メニアに視線を向けるとメニアは眉を下げて唇を開いた。

「ですので……話を聞いて下さい、と……」
「──っ!!魔の者……っ!!」

メニアのその言葉に、全てを理解したラドは悲鳴を上げるように小さく叫ぶと、その場に尻もちを付いた。








ラドが落ち着くのを待っている間、メニアとネウス、マティアス三人は全てをラドに説明する事を決めていた。

ネウス達の姿を見られてしまったのもあり、あの場所に何故魔の者であるネウス達が居たのか、その理由を説明するには、セリウスの事も話さなければいけない。
そして、セリウスとネウス達と同じ種族の魔の者の誰かが手を組んでいる可能性も説明する必要があるだろう、と結論に至った。

ネウス曰く、ラドは「信用できんじゃねえか?」との事だったので、メニアは国の宰相であるラドに、自分の事情を説明しようと決めた。

(お父様や、お母様よりも先に説明してしまうのは何だか……はばかられるけれど……。でも、セリウス様とシャロン様がこの国に不利益な情報を魔の者に流していたら大変だもの)


「──失礼、落ち着きました……」

メニア達の目の前のソファに座っていたラドが、俯いていた体勢から体を起こすと、しっかりとメニア達に視線を向けて先程の慌てたような声音とは違い、しっかりと芯の通った声音で声を上げた。

「やっとかよ、随分時間が掛かったな?」

ネウスがからかい交じりに声を掛けると、ラドは恥じ入ったように若干視線を下に下げると唇を開く。

「先程は取り乱し、突然貴方に攻撃を仕掛けてしまい申し訳無い。私はラド・メランドと申します。この国の宰相を務めている」
「ああ、俺は別に気にしてねえ。ネウスだ」

ネウスがあっさりと自分の名をラドに告げると、ネウスの名を聞いたラドの瞳がみるみるうちに見開かれて行く。

「──は、え?ネウス……っ、て……」

ラドの顔色が一瞬の内に真っ青になって行くのを、メニアは初めてネウスの名を聞いた時の自分と同じ反応をしているな、と何処か他人事のように遠くを見詰めると乾いた笑い声を出す。

「私も、メランド卿と同じ反応をしました……」
「──っ!!た、大変失礼致しました……!」

メニアの言葉に、目の前に居る男が魔の者の王であるネウス本人である事を瞬時に察すると、ラドはローテーブルに自分の額を叩き付けるかのような勢いで頭を下げた。

「──だから、気にしてねえって……。ラドはメニアの身を守る為にやったんだしな……」
「ご、ご理解頂きありがとうございます……!」

ネウスは呆れたような表情を浮かべると、ラドに視線を向けて「で?」と話を促した。

「何でこの国の宰相であるラドが血相変えてあの場所に来たんだ?」
「あ、それは……。王城の私の執務室には貴重蔵書保管庫に設置している魔道具と対の物がございまして。あの場所は我が国で貴重な資料が保管されていますので、悪意を持って魔法を発動した者が居れば、直ぐに知らせを受ける事が出来るのです」

ラドはそこで一度言葉を切ると、ネウスをしっかりと見つめ返しながら言葉を続ける。

「──それだけならばまだしも、あの場所から膨大な魔力量を感知して、対の魔道具が破損致しました。何かが起きた、と思い急いであの場に。そして、先日ハピュナー嬢の護衛を頼んだ──ネウス様のお隣にいらっしゃるその男性が我が国の近衛騎士では無い、と言う事が分かっておりまして、その存在を追っている所ハピュナー嬢の側にその姿を見付けてその……早とちりしてしまった次第です」
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