67 / 155
67
しおりを挟む「メランド卿……!?」
突然現れたラドに、メニアが驚きの声を上げると、急いでこの場所に駆け付けたのだろうか。
ラドがぜいぜいと肩で息をしながら額の汗を自分の腕で拭い、メニアと共にいるネウスとマティアスに鋭い視線を向ける。
「そこに居るハピュナー嬢を解放しろ。その女性は得体の知れないお前達が手を触れていい方では無い……」
ぎりっ、と奥歯を噛み締め、地の底を這うような怒りの感情が籠った声音にメニアはびくり、と恐怖に体を震わせるが、ラドは誤解をしている。
ラドの目の前に居るのは、この国と友好関係を結んでいる魔の者の王である人物と、その側近だ。
この場で敵対するのは良くない、と思いメニアが事情を説明しようとラドに向かって唇を開く前に、ラドは自分の側に居るこの保管庫の衛兵に悔しげな視線を向けると唇を開く。
「──衛兵に何の魔法を使用したのかは分からないが、精神干渉魔法は国で禁止されている魔法だ……。その魔法を何処で取得し、何の目的で使用したのか洗いざらい吐いて貰う!」
ラドは、ネウスやマティアスから感じる本能的な恐怖に顔色を真っ青にしながら、この国の国民であり、聖女であるメニアを守ろうとする気概を伺う事が出来、ラドが何らかの魔法を発動しようとしている雰囲気を感じ取り、メニアは慌てて唇を開いた。
「メ、メランド卿!誤解なのです……っ、先ずは話を聞いて下さいっ!」
緊迫した空気の中、未だに背中に張り付くネウスの腕をメニアはべりっと無理矢理剥がすとラドの方へと向かって小走りに向かった。
一先ず、この場所で長々と話す事はどうかと思い、メニアが場所を移動しようと提案すると、あっさりとラドが頷き、王立図書館に併設している会議室に場所を移動した。
もう直ぐ図書館も閉館の時間だった事もあり、あの場所に居続けるのは良くないだろう、と考えたのだ。
時間が経てば、セリウスもあの部屋から出てきてしまうので更に話がややこしくなってしまう、と考えて場所を移動したのだが──。
会議室に入った途端、メニアはラドに腕を強く引かれてラドの側に避難させられると、二人から離れた距離に居るネウスとマティアスに向かって攻撃魔法を放った。
「──なっ!」
驚くメニアの目の前で、ラドが使用する水魔法だろうか。
細長く形を変形させた凝縮された水の矢が、ネウス目掛けて勢い良く放たれ、そしてネウスの体に当たる寸前にその水の矢がぱしゅん、と小さな音を立てて消え去った。
「……は、?」
それには、メニアの隣に居たラドも驚きの声を上げ、呆気に取られたような表情を浮かべるとネウスを凝視する。
メニアと、ラドから視線を向けられたネウスはなんて事のないようなあっけらかんとした表情で首を傾げると唇を開く。
「今は魔力を消費しちまったから有難い。いくらでも俺に魔法を放ってくれていいぞ?」
「──は?それ、は……私の魔力を吸収、?」
ネウスの言葉にラドが言葉を紡ぐと、億劫そうにネウスが頷く。
「──待て、待て待て待て。魔力を吸収して、自分の糧にするなんてのは、一つの種族しか知らない……!」
ラドが混乱したように自分の額に手を当てて、メニアに視線を向けるとメニアは眉を下げて唇を開いた。
「ですので……話を聞いて下さい、と……」
「──っ!!魔の者……っ!!」
メニアのその言葉に、全てを理解したラドは悲鳴を上げるように小さく叫ぶと、その場に尻もちを付いた。
ラドが落ち着くのを待っている間、メニアとネウス、マティアス三人は全てをラドに説明する事を決めていた。
ネウス達の姿を見られてしまったのもあり、あの場所に何故魔の者であるネウス達が居たのか、その理由を説明するには、セリウスの事も話さなければいけない。
そして、セリウスとネウス達と同じ種族の魔の者の誰かが手を組んでいる可能性も説明する必要があるだろう、と結論に至った。
ネウス曰く、ラドは「信用できんじゃねえか?」との事だったので、メニアは国の宰相であるラドに、自分の事情を説明しようと決めた。
(お父様や、お母様よりも先に説明してしまうのは何だか……はばかられるけれど……。でも、セリウス様とシャロン様がこの国に不利益な情報を魔の者に流していたら大変だもの)
「──失礼、落ち着きました……」
メニア達の目の前のソファに座っていたラドが、俯いていた体勢から体を起こすと、しっかりとメニア達に視線を向けて先程の慌てたような声音とは違い、しっかりと芯の通った声音で声を上げた。
「やっとかよ、随分時間が掛かったな?」
ネウスがからかい交じりに声を掛けると、ラドは恥じ入ったように若干視線を下に下げると唇を開く。
「先程は取り乱し、突然貴方に攻撃を仕掛けてしまい申し訳無い。私はラド・メランドと申します。この国の宰相を務めている」
「ああ、俺は別に気にしてねえ。ネウスだ」
ネウスがあっさりと自分の名をラドに告げると、ネウスの名を聞いたラドの瞳がみるみるうちに見開かれて行く。
「──は、え?ネウス……っ、て……」
ラドの顔色が一瞬の内に真っ青になって行くのを、メニアは初めてネウスの名を聞いた時の自分と同じ反応をしているな、と何処か他人事のように遠くを見詰めると乾いた笑い声を出す。
「私も、メランド卿と同じ反応をしました……」
「──っ!!た、大変失礼致しました……!」
メニアの言葉に、目の前に居る男が魔の者の王であるネウス本人である事を瞬時に察すると、ラドはローテーブルに自分の額を叩き付けるかのような勢いで頭を下げた。
「──だから、気にしてねえって……。ラドはメニアの身を守る為にやったんだしな……」
「ご、ご理解頂きありがとうございます……!」
ネウスは呆れたような表情を浮かべると、ラドに視線を向けて「で?」と話を促した。
「何でこの国の宰相であるラドが血相変えてあの場所に来たんだ?」
「あ、それは……。王城の私の執務室には貴重蔵書保管庫に設置している魔道具と対の物がございまして。あの場所は我が国で貴重な資料が保管されていますので、悪意を持って魔法を発動した者が居れば、直ぐに知らせを受ける事が出来るのです」
ラドはそこで一度言葉を切ると、ネウスをしっかりと見つめ返しながら言葉を続ける。
「──それだけならばまだしも、あの場所から膨大な魔力量を感知して、対の魔道具が破損致しました。何かが起きた、と思い急いであの場に。そして、先日ハピュナー嬢の護衛を頼んだ──ネウス様のお隣にいらっしゃるその男性が我が国の近衛騎士では無い、と言う事が分かっておりまして、その存在を追っている所ハピュナー嬢の側にその姿を見付けてその……早とちりしてしまった次第です」
51
お気に入りに追加
3,399
あなたにおすすめの小説

こんなに遠くまできてしまいました
ナツ
恋愛
ツイてない人生を細々と送る主人公が、ある日突然異世界にトリップ。
親切な鳥人に拾われてほのぼのスローライフが始まった!と思いきや、こちらの世界もなかなかハードなようで……。
可愛いがってた少年が実は見た目通りの歳じゃなかったり、頼れる魔法使いが実は食えない嘘つきだったり、恋が成就したと思ったら死にかけたりするお話。
(以前小説家になろうで掲載していたものと同じお話です)
※完結まで毎日更新します
居場所を奪われ続けた私はどこに行けばいいのでしょうか?
gacchi
恋愛
桃色の髪と赤い目を持って生まれたリゼットは、なぜか母親から嫌われている。
みっともない色だと叱られないように、五歳からは黒いカツラと目の色を隠す眼鏡をして、なるべく会わないようにして過ごしていた。
黒髪黒目は闇属性だと誤解され、そのせいで妹たちにも見下されていたが、母親に怒鳴られるよりはましだと思っていた。
十歳になった頃、三姉妹しかいない伯爵家を継ぐのは長女のリゼットだと父親から言われ、王都で勉強することになる。
家族から必要だと認められたいリゼットは領地を継ぐための仕事を覚え、伯爵令息のダミアンと婚約もしたのだが…。
奪われ続けても負けないリゼットを認めてくれる人が現れた一方で、奪うことしかしてこなかった者にはそれ相当の未来が待っていた。
【完結】もう結構ですわ!
綾雅(ヤンデレ攻略対象、電子書籍化)
恋愛
どこぞの物語のように、夜会で婚約破棄を告げられる。結構ですわ、お受けしますと返答し、私シャルリーヌ・リン・ル・フォールは微笑み返した。
愚かな王子を擁するヴァロワ王家は、あっという間に追い詰められていく。逆に、ル・フォール公国は独立し、豊かさを享受し始めた。シャルリーヌは、豊かな国と愛する人、両方を手に入れられるのか!
ハッピーエンド確定
【同時掲載】小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ
2024/11/29……完結
2024/09/12……小説家になろう 異世界日間連載 7位 恋愛日間連載 11位
2024/09/12……エブリスタ、恋愛ファンタジー 1位
2024/09/12……カクヨム恋愛日間 4位、週間 65位
2024/09/12……アルファポリス、女性向けHOT 42位
2024/09/11……連載開始

初夜に大暴言を吐かれた伯爵夫人は、微笑みと共に我が道を行く ―旦那様、今更擦り寄られても困ります―
望月 或
恋愛
「お前の噂を聞いたぞ。毎夜町に出て男を求め、毎回違う男と朝までふしだらな行為に明け暮れているそうだな? その上糸目を付けず服や装飾品を買い漁り、多大な借金を背負っているとか……。そんな醜悪な女が俺の妻だとは非常に不愉快極まりない! 今後俺に話し掛けるな! 俺に一切関与するな! 同じ空気を吸ってるだけでとんでもなく不快だ……!!」
【王命】で決められた婚姻をし、ハイド・ランジニカ伯爵とオリービア・フレイグラント子爵令嬢の初夜は、彼のその暴言で始まった。
そして、それに返したオリービアの一言は、
「あらあら、まぁ」
の六文字だった。
屋敷に住まわせている、ハイドの愛人と噂されるユーカリや、その取巻きの使用人達の嫌がらせも何のその、オリービアは微笑みを絶やさず自分の道を突き進んでいく。
ユーカリだけを信じ心酔していたハイドだったが、オリービアが屋敷に来てから徐々に変化が表れ始めて……
※作者独自の世界観満載です。違和感を感じたら、「あぁ、こういう世界なんだな」と思って頂けたら有難いです……。
どうも、死んだはずの悪役令嬢です。
西藤島 みや
ファンタジー
ある夏の夜。公爵令嬢のアシュレイは王宮殿の舞踏会で、婚約者のルディ皇子にいつも通り罵声を浴びせられていた。
皇子の罵声のせいで、男にだらしなく浪費家と思われて王宮殿の使用人どころか通っている学園でも遠巻きにされているアシュレイ。
アシュレイの誕生日だというのに、エスコートすら放棄して、皇子づきのメイドのミュシャに気を遣うよう求めてくる皇子と取り巻き達に、呆れるばかり。
「幼馴染みだかなんだかしらないけれど、もう限界だわ。あの人達に罰があたればいいのに」
こっそり呟いた瞬間、
《願いを聞き届けてあげるよ!》
何故か全くの別人になってしまっていたアシュレイ。目の前で、アシュレイが倒れて意識不明になるのを見ることになる。
「よくも、義妹にこんなことを!皇子、婚約はなかったことにしてもらいます!」
義父と義兄はアシュレイが状況を理解する前に、アシュレイの体を持ち去ってしまう。
今までミュシャを崇めてアシュレイを冷遇してきた取り巻き達は、次々と不幸に巻き込まれてゆき…ついには、ミュシャや皇子まで…
ひたすら一人づつざまあされていくのを、呆然と見守ることになってしまった公爵令嬢と、怒り心頭の義父と義兄の物語。
はたしてアシュレイは元に戻れるのか?
剣と魔法と妖精の住む世界の、まあまあよくあるざまあメインの物語です。
ざまあが書きたかった。それだけです。
毒を盛られて生死を彷徨い前世の記憶を取り戻しました。小説の悪役令嬢などやってられません。
克全
ファンタジー
公爵令嬢エマは、アバコーン王国の王太子チャーリーの婚約者だった。だがステュワート教団の孤児院で性技を仕込まれたイザベラに籠絡されていた。王太子達に無実の罪をなすりつけられエマは、修道院に送られた。王太子達は執拗で、本来なら侯爵一族とは認められない妾腹の叔父を操り、父親と母嫌を殺させ公爵家を乗っ取ってしまった。母の父親であるブラウン侯爵が最後まで護ろうとしてくれるも、王国とステュワート教団が協力し、イザベラが直接新種の空気感染する毒薬まで使った事で、毒殺されそうになった。だがこれをきっかけに、異世界で暴漢に腹を刺された女性、美咲の魂が憑依同居する事になった。その女性の話しでは、自分の住んでいる世界の話が、異世界では小説になって多くの人が知っているという。エマと美咲は協力して王国と教団に復讐する事にした。
悪役令嬢に仕立て上げたいのならば、悪役令嬢になってあげましょう。ただし。
三谷朱花
恋愛
私、クリスティアーヌは、ゼビア王国の皇太子の婚約者だ。だけど、学院の卒業を祝うべきパーティーで、婚約者であるファビアンに悪事を突き付けられることになった。その横にはおびえた様子でファビアンに縋り付き私を見る男爵令嬢ノエリアがいる。うつむきわなわな震える私は、顔を二人に向けた。悪役令嬢になるために。
【完結】捨てられた双子のセカンドライフ
mazecco
ファンタジー
【第14回ファンタジー小説大賞 奨励賞受賞作】
王家の血を引きながらも、不吉の象徴とされる双子に生まれてしまったアーサーとモニカ。
父王から疎まれ、幼くして森に捨てられた二人だったが、身体能力が高いアーサーと魔法に適性のあるモニカは、力を合わせて厳しい環境を生き延びる。
やがて成長した二人は森を出て街で生活することを決意。
これはしあわせな第二の人生を送りたいと夢見た双子の物語。
冒険あり商売あり。
さまざまなことに挑戦しながら双子が日常生活?を楽しみます。
(話の流れは基本まったりしてますが、内容がハードな時もあります)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる