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しおりを挟む──魔の者の生態。
そう記された分厚い本は、重厚感があり本を持つセリウスの手のひらにずっしりと収まっている。
本の厚さから行って、かなりの情報量が記されているようで、魔の者のそれだけ多くの情報量を何故セリウスが欲しているのか、とメニアは疑問に思う。
じり、と一歩セリウスから後ずさり、メニアはセリウスに向かって唇を開いた。
「──何故、セリウス様がそのような本を探されていたのですか……?魔の者など、数百年関わり合いがない種族じゃないですか」
セリウスの注意がメニアからその手の中の本に逸れている内にこの場所を出てしまった方がいいだろう、とメニアは考えてじりじりと後方へと下がって行く。
セリウスとシャロンと、距離を置いて何処か違う場所に逃げ込み再度自分自身に魔法を掛けないといけない。
セリウスから距離を取ろうとしているメニアに気付いていないのだろうか。
セリウスは手にした本を大事そうに、嬉しそうに見つめてぽつり、と言葉を漏らす。
「そう思っているのはメニアだけだよ。魔の者は、俺たちの近くに居るし、存外お互いの利益の為ならば協力関係だって結べるんだから」
「魔の者が私達の近くに……?数百年もやり取りが無かったのに、突然そんな事を言われても……魔の者、と言う何かにセリウス様は唆されているのではないですか?」
メニアは、魔の者がセリウスの近くに居る事も、そして存外魔の者が人間に対して悪い感情を持っていない事を知っている。
そして、今現在もこの国には魔の者の王を含め、複数の魔の者が自国に入っているのを知っている。
だが、その存在を否定して、セリウスは利用されているのではないか、と敢えて口にする。
貴族男性は総じてプライドが高い者が多い。
自分の爵位よりも下の、しかもメニアのような下位貴族である女性から否定され、騙されているのでは、と指摘されるのを嫌悪する者が多い。
だからメニアは、セリウスも普段は温厚なふりをしているが根っこの部分はきっと他の貴族男性と変わらないだろう、と当たりをつけて敢えて煽るような言葉を掛ける。
何か、セリウスに協力している魔の者の情報を得られればいい。口を滑らせてくれればいい。
「──っ、メニアは何も知らないからそんな事が言えるんだ!確かに魔の者は存在するし、相手の求める物を用意すれば、魔の者が協力だってしてくれる!あの、魔の者が……!人間に手助けをしてくれるんだ、それは俺やシャロンが選ばれた者だからだよ、メニアじゃなく、俺達が!」
「……っ?」
何故そこで急にシャロンが出てくるのか。
「セリウス様や、シャロン様が選ばれた者……?」
「──っ、」
メニアの言葉に、セリウスははっとしたように瞳を見開くと喋り過ぎたとでも言うようにメニアから気まずそうに視線を外す。
「セリウス様は、何か魔の者と協力関係にあると言う事ですか?それで、その本が必要になった……?」
王立図書館のさらに入る者を選別する場所。
この場所に入れる者しかセリウスが手にしている書物を見る事が出来ない。
その事から考えて、この場所は王立図書館内にある貴重蔵書保管庫に間違い無いだろう。
それを、セリウスに協力している魔の者が欲しているのか。
それともセリウス自身が協力者の魔の者を効率的に利用する為に魔の者の情報を欲しているのかがどうか分からない。
(もっと情報を引き出すべき……?)
メニアがそう迷っていると、セリウスはメニアに向かって足を踏み出す。
「──まだ、魔の者に関する資料があるかもしれない。メニアは勿論俺に協力してくれるよね?」
「それは、最早協力では無く……」
──利用だ。
メニアの言いたい事が分かったのだろう。
セリウスは片眉をぴくり、と跳ね上げる。すると、また再度メニアの頭の中に破裂音がし始める。
「──っ、」
再度、セリウスからの精神干渉の魔法が発動されている、と察したメニアはくるり、と踵を返すと自身に風属性魔法の身体強化を発動する。
「──メニア!」
メニアがこの部屋から脱出しようとしているのが分かったのだろう。
一拍遅れてセリウスも自身に風属性魔法で身体強化を掛けると、メニアを追い掛けるように地を蹴り駆け寄る。
「──何でっ、上手く掛からない……っ」
ぼそり、とセリウスの焦りが滲んだ声がメニアの直ぐ後ろから聞こえて、その余りの近さにセリウスが直ぐ背後に迫っている事に気付き、メニアの頭の中が焦りで満ちる。
メニアが扉に手を伸ばし、外から扉を押し開け外へ逃げ出そうとしたが、背後から伸びたセリウスの手のひらが物凄い力でメニアの手首を掴み、止めた。
「──……あっ、」
「まだ出すわけにはいかないよ、メニア!」
メニアの手首を捻り上げ、勝ち誇ったようにセリウスが声を弾ませる。
その声が響いた瞬間、メニアの目の前の扉が勢い良く開かれ、メニアの体が外から開かれた扉の奥に居た人物に強く引き寄せられた。
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