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しおりを挟むメニアがセリウスにそう答えると、笑みを浮かべたまま、セリウスはメニアの手首を掴んだまま歩を進めて行く。
始めから目的地が分かっていたかのような迷いない足取りに、メニアが訝しげにセリウスに視線を向けると、とある場所へと辿り着いた。
「──お名前を伺っても?」
その重厚な部屋の前にも、衛兵が控えており近付いて来るメニアとセリウスに疑わしげな視線を向けて、メニアとセリウスに話し掛ける。
メニアが何かを答える前にセリウスが衛兵に一歩近付くと、衛兵に視線を合わせたまま唇を開いた。
「この女性はメニア・ハピュナーだ。先日、国王陛下から直接聖女の任命を受けている。俺、……私はセリウス・レブナワンド。彼女の婚約者。メニアの調べ物に時間が掛かってしまうから、手伝いで婚約者の私も入室する」
すらすら、とセリウスが言葉を紡ぐと、セリウスのカフスボタンが淡い紫色の光を放っている。
その光景を目にした瞬間、メニアの頭の中で何か弾けるような感覚がした。
「──セリっ、」
「かしこまりました。将来、夫となられる方ですから大丈夫ですよ。お入り下さい」
メニアがその違和感に眉を顰めている内に、セリウスとその衛兵の話は終わってしまったのだろう。
あっさりと重厚な扉の施錠を解き、衛兵が扉を開け放つと道を譲るように端に寄った。
「さあ、入ろうメニア」
「ちょ、セリウス様っ」
笑顔で手を引き、扉の先へと歩いて行ってしまうセリウスに引かれるまま、メニアは足を踏ん張る事も出来ずにそのまま扉の先へと進んで行ってしまう。
先程よりも些か強い力で手を引き、歩いて行くセリウスの顔を後ろから伺い見るとセリウスは薄らと頬を赤らめ、キラキラと瞳を輝かせている。
口端はつぃっと上がり、何故かその表情がメニアには薄気味悪く感じてしまい、セリウスの意識がメニアから離れている内に思い切りセリウスの腕を振り払った。
──ぱしんっ、と腕を振り払われた事に驚き、セリウスがメニアに振り向く。
「メニア……?どうしたんだい……?俺の手を振りほどくなんて……メニアらしくないよ」
──効いていないのか?
セリウスが最後に小さく呟いた言葉がしっかりとメニアの耳に届き、瞳を見開いてしまう。
(効いていない……?セリウス様は今確かにそう言ったの?)
その言葉から、先程セリウスのカフスボタンが淡い光を発光した事で何らかの精神干渉魔法を使用したのだろう、と言う事が分かる。
メニアの頭の中で破裂音のような物が鳴ったのは、その精神干渉の魔法を弾いたからだろうか。
頭の中はすっきりとクリアで、何にも自分の感情が惑わされていない事を確認すると、メニアはセリウスに向かってキッと鋭い視線を向ける。
「──セリウス様……。何故ここに、無理矢理入室したのですか……?ここは、何がある場所なんですか……?」
「無理矢理?嫌だな、メニア。俺はそんな事していないよ。確かに、この部屋はこの国で大事な資料を保管している場所だけど、衛兵に説明したら普通に入室させてくれたでしょ?」
──ぱちん、と再度破裂音がする。
「でも、まだセリウス様は私の夫になっていませんよね……?ただの、婚約者です……。それに、セリウス様は以前私に守る為にシャロン様と逢瀬をしている、と言っていましたけど、それも本当は違うんじゃないですか?」
「急にどうしたんだい?シャロンの話は……今は関係ないでしょ。俺の婚約者はメニアだし、俺が好きなのはメニア一人だけだよ?」
──ぱちん、とまた再度破裂音がする。
「──っ、セリウス様はっ私の事を好きではないでしょう……!?」
──ぱんっ!と耳元で先程よりも大きな破裂音がして、メニアは瞳を見開く。
瞬時に理解した。
(精神干渉を弾く魔法が、解けそう……っ!)
大きな破裂音は警告音なのだろうか。
先程から何度も何度も繰り返し小さな破裂音が頭の中でしていた。
恐らく、その破裂音がセリウスからの精神干渉の魔法で、それをメニアが毎朝自分に掛けている聖属性魔法の弾く魔法に干渉しているのだろう。
先程から、十を超える破裂音が頭の中で響いている。
(セリウス様のカフスボタンは……っ)
メニアがちらり、とセリウスの袖に視線を向けるとそのカフスボタンの光が先程よりも淡く、弱々しくなっている。
(魔道具としての効果が切れてきている……!?)
メニアの態度に、セリウスが訝しげるように眉間に皺を寄せて、そして無意識だろうか。
自分の袖に着いているカフスボタンにそっと手をやり、そこにカフスボタンが着いているのかどうかを確認しているのだろうか。
そっと大切そうに指先で何度か撫でているのが見える。
このまま、押し問答をしていてもメニアは自身の魔法が度重なるセリウスからの精神干渉の魔法で効果が無くなってしまう事を察する。
この場で、セリウスの目の前で再度自分自身に魔法を掛けたりしてはいけない。
眩く輝く光の質に、このタイミングで魔法を張り直せばセリウスはメニアが何かしらの"防御魔法"を発動した事に気付くだろう。
そして、それは容易くセリウスがやろうとしている事に対する防御魔法だと知られてしまう。
精神干渉を弾く魔法は聖属性魔法だ。
光属性魔法の使用者だと思っているセリウスに知られてはいけない、と言う気持ちがとても大きい。
(どうしよう、急いで背後にある扉へと風属性の強化魔法を使用して向かう……?だけど、強化魔法はセリウス様も使用出来る……っ扉に辿り着く前にセリウス様に捕まる可能性もあるわ……)
一体、自分がどう動けば正解なのだろうか。
メニアが途方に暮れ、顔色を悪くさせているとセリウスは何を思ったのか、心配そうな表情を浮かべてメニアへと近付いて来る。
「……メニア。何をそこまで心配しているのかは分からないけど……。俺はただ……」
セリウスはそこで言葉を途切れさすと、ちらりと自分の隣にある書架に視線を向けて、僅かに瞳を見開く。
そうして、にんまりと嫌な笑みを浮かべるとゆっくりとその書架から一冊の本を抜き出した。
「ただ……これを確認したかっただけだから」
「──ぇ、」
一瞬だけ見えた本の背表紙には、「魔の者の生態」とだけ簡潔に記されていた。
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