【完結】偽りの聖女、と罵られ捨てられたのでもう二度と助けません、戻りません

高瀬船

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途中で話を遮ってすみません、と慌てて言葉を掛けながらマティアスは続ける。

「すみません、俺も早くあの二人をどうにかしなければいけないと思い、その夜会への参加を了承したような形になってます……!」
「夜会、夜会ですか……?」
「承諾しちまったなら仕方ねえな……」

申し訳無さそうにあわあわと狼狽えながら報告してくるマティアスに、メニアはこの時期に夜会等あっただろうか、と考え込む。

創星祭が行われる時期に、侯爵家等も参加する大きめの夜会。
メニアにも声を掛けて来た事から、子爵家や男爵家のような下位貴族でも参加出来るような大規模な物なのだろう。

そう考えて、メニアはその大規模な夜会を一つ思い至り、「あっ」と声を上げる。

「──この国の聖女様達に感謝し、この国の発展を祈る名目の夜会がありました……!」

忘れていた、と言うようにメニアが声を出すとネウスとマティアスが「なるほど」と相槌を打つ。

「その夜会は相当デカそうだな……?それにメニアをパートナーとして連れて行って、聖女に任命されたメニアを周囲に知らしめるつもりか……?」
「そうなのでしょうか……?セリウス様が何をするつもりかは分かりません……その、いつもこういった夜会時にはシャロン様をパートナーにする時もあるので、今回の夜会ではどちらをパートナーにするつもりなのか……」

あっさりと婚約者である自分以外の女性をパートナーにする可能性がある、と言う事をメニアが口にした事でネウスとマティアスはぎょっと瞳を見開く。

「──いやいやいや!何でメニアが居るのに他の女をパートナーにすんだよ!」
「そ、そうですよ!婚約者である女性を差し置いて、他の女性をパートナーにするなんて事普通ではありませんよ、メニアさん!」
「え、え?──あ、そうですよね、そうです!それが今まで普通でしたし、特に気にしてませんでした……!」

ネウスとマティアスに言われて初めて、メニアは夜会のパートナーに、婚約者が自分以外の女性を連れて行く事がいかにおかしい事かを初めて思い至る。
普通に考えれば、婚約者以外の女性をパートナーに選び、並び立つなどあってはいけない事だ。

何年も前から「それ」が当たり前のように行われていた為、メニアもそれが「普通」なのだと錯覚していた。

「た、確かに夜会の時に周囲から変な視線を向けられていました……。今まではそれが普通の事だったので、気にも止めていなかったのですが、今ははっきりとセリウス様のその対応がおかしいって分かります……」
「そうだろ……、それくらい人間の貴族社会に詳しくない俺だって分かる事だぞ……?それをおかしいと思わない程、年月を掛けて魅了と信用を掛け続けられてたって事だろう」

呆れたような表情を浮かべたネウスにそう言われてしまい、メニアはぐぅっ、と押し黙ってしまう。
その様子を見て、マティアスも怪訝な表情を浮かべながらメニアに向けて唇を開く。

「そう、ですね……。ここまでメニアさんの認識が他の人間とズレているのにも引っかかります。今は幸い、精神干渉の魅了と信用は解呪されていますし、ご自身で聖属性魔法も掛けているから今はもう新たに精神干渉を受ける事はありませんが、解呪された後に直ぐ今までの対応がおかしい、と感じなかったのは……深く掛けられていたからですかね……?」

深く、魅了と信用を掛けられ続けてしまっていた弊害なのだろうか。
人に、ネウスやマティアスに指摘されないとその異常性に気が付かない。

「ああ……本当に駄目ですね……。何が"普通"で何が"異常"なのか……昔からそれが当たり前のように思っていたので、少し考え方がズレてしまっているのでしょうか……?」
「──いや、俺達に指摘されて直ぐにその考えの可笑しさに気付けたんだ。洗脳期間が長かったせいでまだその弊害は残っているが、"人間"としての一般常識はしっかりと学んでるみてえだから、まあ……その内に慣れてくるだろう」

考えてみれば、ネウスと出会って精神干渉を解呪してもらってからまだそんなに時間が経っていない。
長年、掛け続けられた最早洗脳のような魔法に、メニアは思考が歪められてしまっているのだろう。
今直ぐに正常な思考回路には戻らないかもしれないが、時間が経ち、セリウス達と関わり合いが無くなれば落ち着くだろう、と結論に至った。

そして、メニアとネウス、マティアスらの三人は他の王が入り込んでいるシャロンには関わりを持たないように、と決まり事を決めて一旦解散する事にした。

「メニア。一先ず俺とマティアスは帰るが、この部屋の魔道具はそのままにしておけよ。あと、あの女には極力近付くな。ブレスレットが熱を持ったらその場から立ち去ってくれ。……明日の夕方、また学院に迎えに行く」
「──分かりました、ネウスさん。マティアスさんもありがとうございました!気を付けて帰って下さいね!」

メニアの言葉を最後に、ネウスとマティアスは転移魔法で姿を消した。










翌日の学院。
授業が全て終わり、いつものようにネウスとマティアスと待ち合わせをしている屋上の方角へ歩いていたメニアは、人通りの少ない廊下で突然腕を捕まれ、近くにあった空き教室へと連れ込まれた。

「──ぅぐっ!」
「しー、静かにして、俺だよメニア」

メニアが恐怖により滅茶苦茶に暴れようとした所を、大きな手のひらで口を塞がれる。

ぞっとして、その手のひらの持ち主を確認しようとした所で、メニアの耳に聞き慣れた男の声が聞こえて、メニアはジタバタと動かしていた腕をぱたりと力無く下げた。

「え、セリウス様……?何故……」
「驚かせてしまってごめんね、メニア。今日、これから王立図書館に行くから着いて来て欲しいんだ」
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