【完結】偽りの聖女、と罵られ捨てられたのでもう二度と助けません、戻りません

高瀬船

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しん、と静まり返った室内で、真剣な表情で口を噤む二人の男の様子を見てメニアはネウスの腕の中から唇を開く。

もう、いい加減自分にもしっかりと分かるように説明して欲しい。

「──先程からっ、お二人がお話している内容が全く分からないのですが……っ、何が起きてるんですか……!?」

非難めいたメニアの言葉に、ネウスとマティアスははっと瞳を見開くとネウスは視線を下げてメニアを見詰め、マティアスはメニアの存在を思い出したかのようにメニアに視線を移す。

「わ、悪い……。気が動転しててメニアに説明出来てねえな……。今から説明するから……」

ネウスは慌てたように声を震わせると、一度メニアの拘束を解き、自分の横に座らせる。

「何処から説明すればいいのか……。そうだな……俺のような存在が八十程居る、と言う事からだな……」
「──は、?ネウスさんのような人が八十……?」

あっさりとネウスから語られた言葉に、メニアはぎょっとして素っ頓狂な声を上げてしまう。

「ああ。だが心配すんな。一つの世界に、実体を持てるのは一つの柱──一柱のみ。この世界には既に俺が実体を持ち、存在しているから他の柱が複数存在する事は出来ない」

ネウスは、話しながら自分の眉間をとんとん、と自分の曲げた指で何度か叩き、何故か「思い出すような」仕草で言葉を続ける。

「だが、俺達にも序列と言う物がある。序列っつーのは、力そのものだな……。序列が上の者の方がやはり力は強い。だから、さっきの女から感じた気配は、俺よりも序列が上の者だ」
「ちょ、ちょっと待って下さい……!ネウスさんと同じ存在、?何ですよね?と言う事は、ネウスさんと同じ魔の者、と言う事ですか?」

慌てたようにネウスの言葉にメニアが言葉を挟む。
ネウスと同じような存在で、しかもネウスよりも力が強い者が、何故かシャロンの体に入っている?
想像もしていなかった出来事が起こりすぎていて、メニアは自分の頭を思わず抱えてしまう。

「魔の者っつーのは、この世界での通称だ。世界によって、俺達の通称は様々に変化する。遥か昔から俺達のような存在は、"有る"からな」
「通称……?と、言う事はネウスさんも、遥か昔から生きているんですか……?その……命が無くなる事はない?」
「いや。今の俺は実体を得ているから肉体が滅びれば命を失う。……まあ、人間よりはちっとばかし寿命は長いがな?」

永遠に生き続ける、と言う存在であるとしたらそれはどれだけ途方も無い時間を過ごす事になるのだろうか、と考えてしまっていたメニアは、ネウスの言葉を聞いて少しだけ、ほんの少しだけほっとしてしまう。

昔の友人──ミリアベルや、ノルト、カーティスの事を話すネウスは、何処か寂しそうな瞳をしていたのだ。
決して同じ時間を過ごす事の出来ない友人達を、ネウスは何度も何度も見送り続けて来たのかもしれない、と考えてネウスの気持ちになったら、メニアは自分だったら耐えられない、と考えた。

「──メニアは、優しいな。普通だったらこんな得体の知れない存在に恐怖すんだろ?」

組んだ足に、肘を乗せ顎を手のひらで支えているネウスが呆れたように笑う。

確かに、ネウスの存在はとんでもない者だろう。
魔の者の王、と言うだけで恐ろしく、遠い存在だった者がそれ以上の得体の知れない、未知の存在だと言うのであるのだから──。

だが、メニアは自分で驚く程にネウスと言う存在に恐怖を抱いていない。
ネウスは、初めて会った時から何処か人間臭く、不遜で、自分をしっかりと確立していて。
人間と言う存在を好いている。

「うーん……。確かに、途方も無い話ですけど……ネウスさんはネウスさんですし……」

あっけらかんとそう言葉を返して来るメニアに、ネウスは自分の胸元がきゅう、と苦しくなるような感覚に襲われる。

「──はは、そうだな……。俺は俺だ……。何も、俺だって始めからそんな存在だ、と言う事を理解している訳じゃねえ。……信じられないかもしれないが、俺にだって幼少期はあったしな。……ただ、実体を得て、生まれて、長い年月を生きていたら"思い出す"んだよ、自分がどんな存在か、を」
「えっ、ネウスさんにも幼少期があったんですか……!?」
「……食いつく所がそこか?……ああ、あったさ。人間と同じように俺達も生まれ、成長する。俺達はバラつきはあるが、大体生まれてから百年程で大人になるからな。人間で言うと、二十四、五歳あたりか?ミリアベル達と会ったのは、三百くらいの時だから、そん時くらいから徐々に思い出して来たんだよな……」

ネウスが、その当時の事を思い出すように空を見上げて懐かしそうに瞳を細める。
そして、ゆっくりとメニアに視線を移すと、眉を下げて笑う。

「だから、今は俺がどんな存在かはある程度把握しているし、あの女に入っている存在も把握してる……。あの女が何を目的として召喚をしたのかは分からねえが、俺達を無理矢理召喚するような手は昔からあるんだよ。そして、召喚された者は召喚者の願いに応じて知恵を授け、願いが叶うまでは還らない」
「シャロン様、の願い……」

ネウスの言葉を聞き、メニアはシャロンの願いとは一体何なのだろうか、と考え込む。

何を願い、何を成し遂げたいのだろうか。
だが、セリウスと共にする時間が多い為、恐らくセリウス絡みの事なのだろう、と予想する。

ネウスとメニアが一瞬だけ黙った瞬間、それまでただ黙って二人の話を聞いていたマティアスが思い出したかのように慌てて声を上げた。

「──あっ、!そうだ、メニアさん……!婚約者の男が、数日後の夜会に出ると言ってました!」
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