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しおりを挟む「最っ悪だ……何で、ここに居る……?同一の種族は同じ場所に存在する事が出来ねえ筈だ……」
「同一?ネウスさん……?」
ネウスの声が微かに震え、メニアを抱き込む腕の力が更に強まる。
「──ぅ……っ、」
メニアは、自分の体を圧迫する物凄い力に肺の中の空気を全て押し出されるような状況になり、苦しげに息を吐いた。
苦しいから、腕を離して欲しい。などとネウスに言えるような状況ではなく、狼狽えているネウスを落ち着かせる為に、先程とは逆にメニアの頭は冷静になり動揺しているネウスを必死になって落ち着かせる。
ネウスは、自分の背中を優しく摩るメニアの手のひらの感触に縋るように、メニアの頭を更に自分の胸に抱え込むとぐっ、と背中を丸めて乱れる呼吸を落ち着かせるように何度も深呼吸をした。
「誰かが、──いや、あの女が召喚しやがったんだ、畜生っ。あんなのにどうやって対抗すればいいんだよ……っ」
「あの女、……シャロン様ですか?シャロン様が何か良く無い物を召喚した、……?」
ネウスの言葉にメニアが反応すると、優しい声音でネウスに問い掛ける。
信じられないがネウスが畏れ、動揺している。
ネウスが畏れる程の何か良くない物が、シャロンに喚び出されていると言うのだろうか。
ただの人間に、そんな事が出来るのだろうか。
だが、ネウスの様子からして間違い無くその存在はシャロンの中に居るのだろう。
「──ああ、"あれ"は……あの人は……」
ネウスが項垂れるようにメニアの頭にぐぅっ、と自分の頭を乗せて、甘えるようにボソボソと唇を動かす。
「この世界にあっちゃいけない者だ。俺が居る為に実体は伴っちゃいねえが、でも確かに同じ力を感じるから……っ、くそっ、序列何位だ……っ、少なくとも俺よりは上だっ」
「──えっ、?えぇ……っ、待って、待って下さいネウスさん……っ話が全く読めないです……っ」
序列?実体?
先程からネウスが話している言葉が全く分からない。
ネウス自身も混乱しているせいか、取り留めない言葉達を自分の唇から吐き出して、何とか情報を整理しようとしているのだろうか。
「くそっ、俺の種族の奴に気を取られ過ぎてたっ、あの女が何のために召喚したのか分からねえが、このまま放置出来るもんじゃねえし、契約者の願いを叶えないと戻らないかもしれない……っ」
「えっ、えぇ……?」
ネウスの言っている言葉の殆どが分からない。
メニアがどうしたらいいのか分からず、ネウスの腕の中から何とか逃れられないか、ともぞもぞと動き出すと、メニアの行動に気が付いたネウスが鋭い視線をメニアに向ける。
「──何で、逃げようとするっ」
「ぅぷっ、苦しい……っ、さっきからネウスさん苦しいんですっ」
ネウスの拘束から逃れようとしていたメニアを逃がさないように、ネウスは自分から僅かに距離を取ったメニアを再度強い力で抱き締めると、混乱した頭を落ち着かせるように唸る。
そうこうしている内に、大分時間が経ったのだろう。
メニアの部屋の外からバタバタと人が近付く気配がして、扉が勢い良く開かれた。
「ネウス様、メニアさん!無事で──……」
セリウスとシャロンの対応が済んだのだろう。
慌てたようにメニアの部屋に転がり込んで来たマティアスが、室内に視線を向けてぴたり、と固まる。
信じられない物を見た、とでも言うようなマティアスの視線に晒されて、メニアは今の状況を今更ながらはっと自覚する。
「俺が、大変な目に合ってる時に何やってんですか二人共……」
呆れたような、非難するようなそんな視線と口調でマティアスに告げられ、メニアは慌てて自分を抱き締めるネウスの背中をばしばしと手のひらで叩く。
離してくれ、と言う意味を込めて叩いたのだが、その意思をしっかりと汲み取っている筈のネウスはメニアを解放する気配が全くと言って良いほど無い。
「マティアスさん……」
困ったようにマティアスに視線を向けるメニアに、マティアスは諦めたように溜息を一つ着くと、二人に近付き向かいのソファに腰を下ろした。
「……珍しくネウス様が動揺されているので、申し訳ないのですがメニアさんはネウス様の精神安定剤としてそのまま抱かれてて貰っていいですか……?先程の報告をしちゃいます……」
「精神安定剤……」
まさかこのまま話を始めようとするマティアスに、メニアはぽかんと自分の口を開けてしまう。
真面目な話をしようとしている雰囲気の二人に、メニアは「嘘でしょう」と頭の中で小さく叫ぶ。
先程よりは幾らか落ち着きを取り戻したのか、ネウスから聞こえる心臓の音は未だに些か早いが、自分を逃がさまい、と言うように抱き留める腕の力は緩んでくれていない。
(私を、ぬいぐるみか何かと思っているのかしら……)
メニアが諦めたように体から力を抜くと、ネウスはマティアスに視線を向けて「……で?」と話を促した。
「ネウス様と、メニアさんがあの部屋から退避した後、直ぐにあの二人に意識操作の魔法を掛けました。女性の中に居る存在に抗われるかと思ったんですが、拍子抜けする程あっさりと魔法が掛かったので、メニアさんと話をしに来た記憶はそのままに、あの二人は急用が出来たからこの邸を出る、と言う事にして帰らせました」
「あの女からは何も抵抗は無かったんだな?」
「はい。メニアさんに魔法を掛ける時に力を使い果したのか……あの後の僅かな時間ではありますが、その時間内にもう一度その存在を感じる事はありませんでした」
「──そうか。……召喚が完全では無かったのか……それとも、お前が父親の能力を強く受け継いだから魔法の掛かりが良かったのか……そこら辺は調べる必要があるな」
真面目に、真剣に話を進める二人にメニアは口を挟む箇所が無く、ただただ黙って二人の話を聞く。
「──ネウス様。先程感じた気配……俺は父さんが人間だからそこまで敏感ではないですが、それでもハッキリと感じる事が出来ました……俺達が貴方に感じる感覚と同じです……」
「……俺も信じたくはねえが。認めざるを得ない。あれは、俺と同じ存在だ。俺と同じく、配下を持ち、下僕を従える"王"の一つだ……。だが、同じ世界線に王は複数存在する事は出来ない……だからこそ実体がねえんだろ……しかも最悪な事に、あれは、俺よりも序列上位の王だ」
しん、と静まり返った室内に、ネウスの声だけが静かに響いた。
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