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しおりを挟む「王立、図書館ですか……?何の為に……?」
何故、そのような場所に用があるのか。
メニアは不信感を顕にセリウスにそう問い掛ける。
手を離して欲しい、と思いメニアは握られている自分の手のひらをそっと抜こうとしたが、セリウスが離してくれる様子は無い。
「うん。貴重な蔵書が沢山ある場所だろう?俺達は図書館に入るには許可取りをしなくちゃいけないけど、メニアと一緒なら許可取りをしなくても入る事が出来る。ほら、俺もシャロンも自分達の五元素魔法について調べたい事があるんだけど、許可が下りるのは早くても一月後だ」
「ええ、ええ。そうなのよ。一ヶ月も時間を無駄にするのは勿体ないじゃない?」
セリウスの後ろから、シャロンも便乗するようにメニアに向けて話し掛けて来る。
「だから、ね?メニア。メニアと一緒なら図書館に入る事が出来るじゃない、お願いよ」
「で、でも……っ。そう言った事をするのは……他に待たれている方もいるので良くないです」
メニアはきゅっと唇を噛み、断るような言葉をシャロンに向けると、シャロンは眉を下げて悲しげな表情になる。
「そんな……。別に貴重な蔵書がある場所に入れて、と言う訳でも無いわ。禁書を読ませてと頼んでいる訳でもなく、王立図書館に一緒に行きましょう、と言う友人の誘いにもメニアは頷いてくれないの?」
うるうると瞳を潤ませて悲しそうにメニアから一歩下がるシャロンの腰をすかさず支えるセリウスに、メニアは目を見張る。
「シャロン……。いいんだ、仕方ないよ。メニアが嫌だと言う事を無理強いしたくはない」
「──でもっ、セリウス貴方言ってたじゃない?聖女になったメニアに相応しい夫になれるように、自分も魔法の腕を磨きたいって……。ねえ、メニア?貴方の婚約者であるセリウスは、貴方に相応しくなりたいって言う一心で勉強したい、と言っているのよ?その婚約者の気持ちを、メニアは蔑ろにするの?」
まるで、メニアが悪者のような二人の言い分に、メニアは自分が全面的に悪い事をしているような気分にさせられる。
(何故、私がこんなに二人に責められないといけないの……っ聖女の権利を、悪用しようとしているのは二人じゃない……!)
非難めいたシャロンの瞳に、メニアは思わず顔を逸らしてしまう。
だって、悪くない筈だ。
宰相だって言っていたではないか。
聖女と言う者が得る権力や権限に擦り寄って来る者達がいる、と。
けれど、確かにシャロンが言う通り、セリウスとシャロンは無理難題を言っている訳でもないような気がしてきてしまう。
シャロンの言う通り、禁書を見せろと言っている訳ではない。貴重な蔵書保管庫に入室させろ、と言っている訳ではない。
(あ、あれ……?そうしたら、お二人は無理難題を言っている訳ではないから、いいのかしら……?王立図書館は許可取りさえすれば、貴族の人も入れるのだし……)
メニアの意思が、頑なだった物から緩んで来たのが分かったのだろうか。
シャロンがその変化に目ざとく気付き、「メニア」と甘ったるい声でメニアに声を掛ける。
今までのシャロンの声音と違うような気配がして、メニアが「え、?」と戸惑いながら俯いていた顔を上げると思っていたよりも間近にシャロンの顔があり、その近さにメニアが無意識の内に後退る。
無意識に、シャロンから距離を取ろうとしたメニアを逃がさない、とでも言うようにシャロンは更に間合いを詰め、メニアの瞳を覗き込むようにしっかりと瞳を合わせて唇を開いた。
「ね?メニア、お願いよ」
シャロンの声を聞いた瞬間、メニアの頭の中で「キン」と言う高い金属音のような音がした。
空気が張り詰めるような、自分の意識が霞がかるような不思議な感覚に、メニアは自分の瞳を驚愕に見開く。
そして、その後。
メニアが手首に付けていたブレスレットが瞬時に熱を持ち始めた事に気付く。
「──……っ!」
ネウスに付けていろ、と言われて身に付けていたブレスレット。
確か、人間と魔の者以外の者の魔力に反応する、と言っていた。
「──え、」
メニアは信じられないような気持ちで、呆然としながら目の前に居るシャロンに視線を向ける。
目の前に居るのはシャロンの筈なのに、違う人物のように感じる違和感。
笑顔が美しいシャロンと同じく、美しい笑みを浮かべているが、その笑顔の美しさに畏怖を覚える程。
その感覚は、ネウスに会った時にも感じた感情だ。
美し過ぎる者を見ると、人間は何故か恐怖を覚え、畏怖を感じる。
この感情は何なのだろうか──。
メニアがぼうっと惚けていると、シャロンがゆっくりとメニアに向かって手を伸ばして来た。
「──マティアス!消せ!」
「かしこまりましたっ!」
誰かの声が聞こえた、と思った瞬間、メニアは自分に手を伸ばすシャロンから強い力で引き離され、自分の背中が何か固いものにぶつかる。
そして、目の前に居たシャロンの姿が一瞬の内に消えて、見慣れた景色が自分の目の前に広がる。
「──メニア、メニア!しっかりしろ、意識を取り戻せ!」
ぱちん、ぱちん、と軽く自分の頬を叩かれる感触に、メニアは自分の視界に映る光景が自室である事に気付き、先程から自分に声を掛け続ける男性がネウスだと言う事に気が付いて、どっと冷や汗をかいた。
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