【完結】偽りの聖女、と罵られ捨てられたのでもう二度と助けません、戻りません

高瀬船

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膜が張られたかのような不思議な感覚に、メニアがきょろきょろと周囲を見回しているとうさぎの置物から離れたネウスがソファへと腰掛ける。

「──で?両親には無事に精神干渉を弾く魔法を掛けれたみたいだが、解呪はまだ取得出来てねえのか?」

ネウスの言葉に、メニアもソファへと近付いて行くと申し訳無さそうに眉を下げながら唇を開く。

「すみません……。あと少しだけ時間を下さい。あと少しで取得出来そうなんです」
「そうか……。そうしたらメニアは解呪を覚えたら先ずは自分の両親の魅了と信用を解呪しちまうのが一番優先だな。解呪が終われば、婚約者の事も話せるようになるし、婚約者が自分達に精神干渉の魔法を掛けていた事も話せるようになる。そんな危険な奴と娘を婚約させたままにはしねえだろ」
「恐らく……応じてくれるとは思いますが……。それでも我が家は子爵家ですので、侯爵家との婚約と言う契約を一方的に反故する事は難しいかもしれません……」
「それこそ、メニアさんは聖女の権限を利用しては如何です?意にそぐわない婚約なのであれば国王に相談してしまうのも手だと思いますが」

ネウスとメニアの会話に、マティアスが躊躇いがちに言葉を挟んで来る。

確かに、今までのハピュナー子爵家では侯爵家との婚約を一方的に解消なり、破棄なり出来なかっただろう。
だが、今はメニアが聖女に任命されている。

聖女の権利や権限を狙い、婚約をしていると言う証拠さえ入手出来れば国王陛下へ婚約の解消の申し立てが出来るかもしれない。

メニアはそう考えると、マティアスの言葉に「確かにそうですね」と言葉を返し、セリウスの侯爵家が何かよからぬ事を企てている、と言う証拠を掴めないか、と思案する。

「──けれど……、聖女に任命されてしまった人物を簡単に手放そうとするでしょうか……?今夜も早々にセリウス様が来られると言うのに……」
「はぁ?今夜も来んのか、あいつは……。よっぽど聖女を逃がしたくねえんだな」

呆れたように声を上げるネウスに、メニアもつい苦笑してしまう。

「いっその事、反対に魅了でもあいつに掛けれれば楽だったんだが、同性には効きにくい……やっぱメニアには解呪を早く取得して貰って、両親の精神干渉を解呪するしかねぇな」
「が、頑張ります……!」

話が一旦纏まった所で、二人の向かいのソファに腰掛けていたマティアスがぴくり、と反応する。

マティアスが視線を向けた方向に、ネウスも視線を向けるとメニアに向かって唇を開く。

「この家の使用人が来たみたいだな。魔道具で俺達の姿は見えない。退出しねえぞ」
「──え、!?は、はいっ分かりました……!」

メニアが小さく言葉を返すと、ネウスとマティアスはそのまま口を閉じ、部屋の扉へと視線を向ける。

ネウス達が視線を向けた後、直ぐにコンコン、と控え目なノックの音が室内に響き、メニアは返事を返す。

「失礼します、お嬢様。夕食のお時間ですのでお声掛けをさせて頂きました。セリウス様とシャロン様も来られましたので、旦那様がご一緒にと仰ってます」

扉から姿を表した使用人は、朗らかな表情でメニアの婚約者がやって来た事、友人のシャロンも一緒だと言う事。
夕食を共に取ろう、と父親が言っている事を伝えると、メニアに向かって「お早めにおいでくださいね」と声をかけて一礼すると部屋を退出して行った。

「セリウス様が……それに、何故シャロン様も……」

まだ夕食には少し早い時間だ。
それなのに時間よりも早く訪れたと言うセリウスとシャロンに、メニアは嘆息するとゆっくりとソファから腰を上げる。

ソファに座ったままのネウスとマティアスに顔を向けると、メニアは「行ってまいりますね」と声を掛けて部屋を出て行った。









「──メニア!こんな時間に申し訳ない」
「セリウス様、シャロン様。ようこそおいで下さいました」

セリウスとシャロンが通された応接室へとメニアが姿を表すと、ソファに腰を下ろしていたセリウスが嬉しそうに立ち上がり、メニアに近付いて来る。

セリウスの隣に座っていたシャロンも、メニアに向かって微笑むと「お邪魔しているわ」と声を掛けた。

嬉しそうに笑顔を浮かべ、メニアに近寄って来ていたセリウスがメニアの手を嬉しそうに自分の手のひらで包むと続けて唇を開く。

「ハピュナー子爵が、夕食の時間までメニアと話す時間をくれたんだ。突然の訪問にも関わらず、快諾してくれた子爵は本当に優しいね。メニアと一緒に過ごす時間が取れて嬉しいよ」
「そう、なんですね……」

この部屋に入った時に、両親の姿が無くセリウスとシャロンだけだった事にメニアは疑問を持っていたが、なるほど、と納得する。

両親はまだセリウスとシャロンから掛けられていた魅了と信用の魔法は解呪されていない。
その為、セリウスに上手い事を言われて厄介払いをされたのだろう。

相手の言う事を無条件に信じ、行動してしまうこの魔法は本当に厄介だ、とメニアが感じていると、メニアの手を包み込んでいたセリウスの手のひらに力が篭もる。

「──っ、セリウス様?」

思っていたよりも強い力でぎゅう、と握り締められた自分の手のひらに、メニアは微かに眉を顰めてセリウスに視線を向けると、そこではっと瞳を見開く。

思ったよりも近い距離にセリウスの顔があり、メニアの瞳をじっと見詰め、瞳の奥を覗き込むような距離で、セリウスはゆったりと唇を開いた。



「ねえ、メニア。今度、王立図書館に行かないか?」
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