【完結】偽りの聖女、と罵られ捨てられたのでもう二度と助けません、戻りません

高瀬船

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メニアと、メニアの両親を邸の正面玄関まで見送り、ネウスとマティアスはにっこりと微笑みを浮かべるとメニア達に頭を下げてその場から立ち去った。

立ち去る前に、バチり、とネウスと目が合ったメニアはネウスにふい、と軽く視線を自室の方へと向けられて「自室に行け」と言う意味なのだと理解すると小さく頷く。
マティアスは知っているが、ネウスにはまだメニアからセリウスが今夜この邸に来るかもしれない、と言う事を話していない。

直ぐに部屋に直行しろ、と言うのであればメニアに取っても都合が良い。


邸の中に入ると、メニアは気疲れした様子の両親に声を掛ける。

「お父様、お母様。申し訳ございません、少し疲れてしまったので暫く自室で休んで居ますね」
「そうか、メニアは私達より疲れただろう。夕食の時間まで休んでいなさい」
「マルクとリリーにも、メニアの部屋には近付かないように言っておくから、ゆっくり休んでいてね」

心配してくれる両親に嘘を告げるのは些か心が傷んだが、メニアは両親の言葉に有難く頷くと早々に自室へと向かった。







階段を抜けて、廊下を足早に進み自室へと辿り着くとメニアは自分が通れるだけの隙間を開けてその隙間からするりと自室へと入り込んだ。

「何だ……自分の部屋に入るのに侵入するみてえだな」
「ネウス様。我々がメニアさんの部屋に居るのを見られてしまったら不味いでしょう。だからメニアさんは細心の注意を払っているのですよ」
「──お二人とも……」

どこか呑気な様子でメニアに話し掛けるネウスとマティアスに、メニアは自分の体から力が抜けていくような心地になる。

「それなら大丈夫だ。ロザンナから遮断の魔道具を預かって来た」

ネウスが得意気に自分の手のひらに乗せた物を二人に見えるように掲げていて、メニアはそれをぱちくり、と瞳を瞬かせて凝視する。

ネウスが「魔道具」と呼んだそれは、とてもそうとは見えないような形状をしていて訝しげに視線を向ける。

ネウスの手のひらには、ちょこん、とうさぎの置物が置かれていて、女性が好みそうな繊細な装飾が施されている。
うさぎの瞳が魔石になっているのだろうか。
ルビーのような赤い石が嵌め込まれていて、メニアの部屋の照明を受けてキラキラと輝いている。

とても可愛らしい見た目のその置物に、メニアはついつい無言でネウスを見詰めてしまう。

「何だ……?疑ってんのか?ロザンナの魔道具作成の腕は確かだぞ。こいつはまだ試作段階の物らしいが、俺達魔の者の闇の魔力を込めると"全てを遮断"する魔法が発動するそうだ」
「……全て、ですか?」
「ああ。音も、姿も、匂いも、気配も全てだな」
「母さんが言うには、解除には我々魔の者の闇の魔力を流さないといけないらしいので、常用するには場所を選びますが、こう言った密談をする場合にはとても役立ちますよ」

ネウスの言葉に、マティアスが詳細を補足するように説明してくれる。

メニアはその言葉を聞いて、目の前にある可愛らしい魔道具がとても恐ろしい物のように思えてしまう。

解除に闇魔法の魔力が必要、と言う事は魔の者とやり取りが出来る者しかこの魔道具を発動する事も解除する事も出来ない。
その為、この魔道具をこうして国内に持ち込み、王城などで発動したら。
王城内で、誰にも姿を見られる事なく、好きに動き回る事が出来てしまう。
もし、それで良からぬ事を考えた者がこの魔道具を悪用したとしたら。

「そ、そんな凄い魔道具を簡単に見せては駄目ですよ、ネウスさん……!もし私が悪い事を考えていたら、ネウスさんを騙してこの魔道具を悪用するかもしれませんよ!」

メニアが必死になってネウスにそう伝えると、メニアの言葉をキョトン、と瞳を丸くして聞いていたネウスが数秒後、楽しそうに声を出して笑い始めた。

「メニアが俺を騙して悪用?そんな事起きる訳ねえだろ」
「……っ、ふふっ、そうですよメニアさん。メニアさんに人を騙すような……、しかもネウス様を騙すなんて事出来る筈ありませんよ」

ネウスに続いてマティアスも可笑しそうに笑い始めてしまい、メニアは自分がそんなにおかしい事を二人に言ってしまったのだろうか、と考える。

「え、え……だって、その魔道具はとても凄い物ですよ……!?この国の人間には、解除する事が出来ない物なのですから、悪用しようとすればいくらでも悪用出来ちゃうんですよ……!」
「あー……まあ、そうだが……。俺達はメニア以外にこの事を話すつもりもねえし、心配する事は無い。それに、使用するとしてもこうした話しをする時だけだしな」

ネウスはそう話すと、メニアの頭をぐりぐりと撫でてからそのうさぎの置物に自分の魔力を込める。
ネウスの魔力に呼応して、うさぎの瞳がきらり、と輝きを増すと室内に膜が張ったかのような感覚を覚える。

「──これはメニアの部屋に置いておくか。俺達がメニアに用がある時にこれを使おう」

ネウスはそう言うと、ぐるりとメニアの室内に視線を巡らせると、ベッド脇にあるローチェストにそのうさぎをトン、と置いた。
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