【完結】偽りの聖女、と罵られ捨てられたのでもう二度と助けません、戻りません

高瀬船

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メニアが使用した魔法によって、確かに頭の中がスッキリしたように感じて、メニアの両親は戸惑いを顕にメニアに手を引かれながら躊躇いがちに言葉を紡ぐ。

「──メニア、?メニアが今使用したのは……光属性魔法?それとも……」
「あなたっ。その事は……!」

メニアの父親の言葉に、素早く母親が小声で父親の言葉を遮る。
父親の声音も小さい声だった為、距離を空けて着いて来ているネウスとマティアスには聞こえていないだろうが、メニアの両親はメニアが光属性魔法では無く、聖属性魔法の適性者だと言う事を周囲に知られてしまわないように注意を払っている。

「大丈夫です、お父様。お母様。お二人には聞こえていませんよ」
「そ、そうか……良かった……」

メニアの言葉に、両親は明らかに安堵したように表情を崩すとチラチラと背後を伺うように視線を向けている。

長年、聖属性魔法の適性者では無く、光属性魔法の適性者だと偽って来たのだ。
虚偽の申告をした、として重罪に処される可能性だってある。
しかも、両親にとってはネウスとマティアスはこの国の近衛騎士と信じているのだ。

(きっと、私が聖属性魔法の適性者だとバレてしまったら陛下に報告がいってしまう、と心配して下さっているのね……)

けれど。

「申し訳ございません、お父様お母様。せっかく長年守って頂いていたのに、結局この国の聖女に任命されてしまいました……」

メニアが申し訳なさそうに視線を下に向けて呟くと、父親が唇を開く前に、隣を歩いていた母親がメニアの手を取り、優しく握る。

「いいのよ、メニア。貴女が謝る事なんて一つも無いのよ……。そもそも、隠したのは貴女がこの国に縛られ、望まぬ境遇に、利用されてしまう未来を少しでも回避したかっただけだから……」
「ああ……。メニアももう数ヶ月で成人だ。自分の身は、自分で守れるような大人になる……。その機会に登録の誤りを正してもいいのかもしれないな……」

二人が将来の事を考え、身を守る術を自らで模索出来るような年齢になるまでメニアを守ってくれていた。
その両親の気持ちを痛い程痛感し、メニアはありがたい、と思う気持ちと同時に申し訳なさを感じてしまう。

今まで、どれだけ両親は面倒事から自分を守ってくれていたのだろうか。

「ありがとうございます、お父様お母様。聖女として任命された事は直ぐに国内に広まってしまうかと思います……。暫くご迷惑を掛けてしまいますが……宜しくお願いします」

メニアがぎゅうっ、と自分の唇を強く噛み締めると、その様子を見ていたメニアの父親と母親は眉を下げて微笑むと、優しくメニアに声を掛けた。

「子供を守るのは当然の事だ。迷惑を描ける、なんて思わないでくれ」











メニアと、メニアの両親が馬車に乗り込み子爵邸へと戻る中、後ろから着いてきていたネウスとマティアスも邸まで同行する為馬に跨り護衛として馬車の側にピッタリと着いている。

馬車の中からその様子を見詰めていたメニアの父親は、関心したように呟いた。

「──それにしても、本当にこの国の聖女は大切にされているんだな……帰宅するだけで護衛が二人もつくなんて……」
「ええ、ええ。そうねぇ。しかも、とっても素敵な二人よね。あんなに素敵な方達、近衛騎士に居たかしら?」

同じく、メニアの母親も窓から外を眺めながらほぅっ、と感嘆の息を零しながらうっとりとネウスとマティアスの姿を見詰めて呟く。

二人の視線がネウスとマティアスに向いている事に、メニアはどぎまぎとしながらなんて事の無いように言葉を返す。

「わ、私も驚きました。宰相様が気遣って下さり、護衛の方をつけて下さったのです。あまりお顔を見た事が無いのは、お二人が最近近衛騎士になられたばかりだからかもしれません」

メニアの言葉に、母親は「あら、そうなの?」と納得したように呟いて、その後も飽きずに二人の姿をじっと見詰めていた。




馬車が到着してメニア達が邸へと向かう中、メニアの父親は護衛についてくれたネウスとマティアスにお礼を伝えている。

その姿を見つめながら、やはりメニアの母親はネウスとマティアスを見詰めていて、確かに二人の容姿はとても良いが、そんなにじっと見詰め続ける程だろうか、とメニアが疑問に思っていると、メニアの母親がぽつり、と呟く。

「あちらの方……、黒髪の……。何だか初めて会った気がしないのよね……?何でかしら……。あれだけ素敵な方だから一度お顔を見たら忘れる訳ないのだけど……」

うーん、と自分の頬に手を当てて考え込む母親に、メニアはどきり、と自分の胸が嫌な音を立てるのを感じた。

(──あのお茶会の日に、具合が悪くてお送りした男性がネウス様だ、とバレてしまったの……?)

マティアスとは正真正銘、両親は初対面であるが、ネウスと両親は一度だけ顔を合わせた事がある。
たった少しの時間で、直ぐにその場を離れた事から両親の記憶には残っていないだろう、と思っていたが、あの日──ハーランド・リュドミラに招待されたお茶会の日に顔を合わせている。

(あの日、お父様とお母様の側にはセリウス様が居て、魔道具を使用されていた筈だからネウスさんの事はあまり覚えていないと思っていたのだけど……)

ネウス自身も、認識阻害の魔法を自分自身に掛けていると言っていたから印象には残りにくい筈なのに、母親の記憶には薄らと残ってしまっているらしい。

(ネウスさんと初対面、というような態度で接して来てしまったけれど、失敗したかしら?)

だが、今更両親に上手い説明を出来る気がしなくてメニアは惚けたように母親に言葉を返すと、邸へと促した。
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