【完結】偽りの聖女、と罵られ捨てられたのでもう二度と助けません、戻りません

高瀬船

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コンコン、と言うノックの音に反応して、室内に居る人物が扉に近付いて来る気配がする。
メニアは勿論、マティアスも室内にはメニアの両親しかいないと思っていたので、メニアが中から開けてくれるのかな?と考える。

ドアノブを掴んで、中から扉が開きメニアとマティアスの目の前に現れた姿に、二人は驚愕に瞳を見開いた。

「──お待ちしてました、ハピュナー嬢」
「……っ、な、ネウ、なんで……っ」

にんまり、と口の端を愉しげに持ち上げてメニアとマティアスを出迎えたネウスに、メニアはついついネウスの名前を呼んでしまいそうになり、何とかネウスの名前を飲み込むとあわあわと慌てながら室内と、ネウスの顔に交互に視線を向ける。

メニアのやや後ろに居たマティアスも、何故ネウスが控えの間に居るのか、と呆気に取られた表情を浮かべている。

しかも、ネウスはマティアスと同じくこの城の近衛騎士達が身に纏っている騎士服をきっちりと着込んでいる。
何処でその騎士服を調達したのかは分からないが、ネウスの事だからろくな事をしていないだろう、とメニアは考えてしまう。

「ハピュナー子爵家の皆様をお邸までお送り致しますのでご安心下さい」
「そ……、そうなの、ですか……。それはありがとうございます……っ」

メニアの反応を愉しむように瞳を細めて笑うネウスに、メニアは自分の頭を抱えたい衝動に駆られる。

メニアは何故ネウスが近衛騎士の格好をしてこんな場所に居るのか、今直ぐに問い質したい気持ちでいっぱいになるが、背後にはメニアの両親が居る。
この場で聞く事も出来ず、メニアが狼狽えて居るとネウスがメニアにしか聞こえない程度の声音で話し掛けて来る。

「メニアの両親達に俺の顔を見せておけば、今後邸にメニアを訪ねに行っても不自然じゃねーだろ?それに、今日は俺達と一緒に行動した方がいい」
「それは、確かにそうですね……。ネウスさんを城の近衛騎士だ、と両親が認識してくれれば今後ネウスさんと会うのも不自然に思われないと思います」

メニアとネウスがこそこそと話をしていると、部屋のソファーに座っていたメニアの父親が不思議そうな表情を浮かべて声を掛けて来る。

「フォールさん……?」
「──ああ、これは大変失礼致しましたハピュナー子爵。さあ、ハピュナー嬢こちらへどうぞ」

メニアの父親の呼び掛けに、ネウスはにっこりと笑みを浮かべるとメニアに手のひらを差し出す。

「フォール、さん……?」
「……偽名だ、気にすんな」

ぽそり、とメニアが呟くと直ぐにネウスから返答が返る。
息をするように自分の身分を偽り、なんて事ないように振る舞うネウスにメニアは呆れた視線をついつい向けてしまう。
偽名まで使って、自分の両親と面識を持っていたとは、とメニアが些か疲れたような心地で両親の元へと到着すると、ネウスとマティアスはメニア達家族から距離を取ると薄らと笑みを浮かべたまま室内の壁際に控える。

「──ああメニア、おかえり!国王陛下との謁見は一体どんな内容だったんだい?」
「私達、このお部屋に案内されてからメニアが何処に行ったかも分からなくて……。そうしたらそちらのフォールさんがメニアの家族だから、って私達の護衛を申し出てくれたの……。ねえ、護衛が必要な程の事がメニアの身に起きているの……?何か、危ない人にメニアは狙われているの?」

父親と母親が、近付いて来たメニアに駆け寄ると心配そうにメニアの手を取り、そう口早に捲し立てる。
二人の様子からネウスは詳細は話していないのだな、とメニアは考えると両親に自分がこの国の聖女と言う者に任命された事を告げた。





メニアの話を聞いて、呆気に取られたような表情を浮かべる両親にメニアは苦笑すると、聖女と言う者の権力を利用する者がこれから多くなる事や、自分達の身を守る為に今回ネウスやマティアスが邸まで護衛してくれる事を合わせて伝える。

「え……、?ちょっと待ってちょうだい、メニア……。メニアがこの国の聖女様に……?え……」
「それ、は……。とても栄誉あるお役目を承った、と言う事だな……。それはとても素晴らしい事だな……」

メニアの説明に、両親はおろおろとしながら思い思いの事を口にしている。
突然自分の娘がこの国の聖女になるなんて思わなかったのだろう。
両親の戸惑いは大きいようで、呆然としてしまっている。

この状況であれば、どさくさに紛れて二人に精神干渉を弾く魔法を掛ける事が可能だろうか、とメニアは考える。
二回ほど魔法を発動するので、魔力の消費が少しばかり心配になるが、昨日ネウスとマティアスに魔法を発動した時に消費した魔力もある程度は戻っているだろう。

(──既に蓄積されている分はどうにも出来ないけれど、今後更に掛けられてしまう事は防げるわね……)

今夜、セリウスが邸に来ると言っていたのだ。
その際に両親もセリウスと顔を合わせる。セリウスが自分自身と両親に魅了と信用を重ねがけしようと魔道具を持っていたとしても、今両親に精神干渉を弾く魔法を掛けてしまえば防げるだろう。

「お父様、お母様落ち着いて下さい……。えっと、精神を落ち着かける魔法を今かけますね」

メニアは口早に二人に声を掛けると、二人が言葉を発する前に魔法を構築し、手のひらを二人に向けると魔法を発動する。

「──えっ、」
「──……っ」

両親がメニアに向かって声を上げる前にメニアの魔法が発動され、二人を真っ白い清廉な光が包み込む。
暫しして、その光が収束すると、呆気に取られていた両親が瞳を瞬かせた。

「──これで、少しは頭がスッキリしたかと思います。……そろそろ邸に戻りましょう?」

メニアは誤魔化すようににっこりと笑顔を浮かべると、二人の手を取って控えの間の扉の方へと導いた。
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