52 / 155
52
しおりを挟む「セリウス様、どうしてこちらに?」
「どうして、だって……?メニアと話す時間もなく離れてしまったからメニアを探していたんだよ」
にこやかに、嬉しそうに話しメニアに近付いて来るセリウスから無意識にメニアは一歩後ずさってしまう。
メニアのその行動に、セリウスは片眉をぴくり、と上げて直ぐに反応するとにこやかな笑顔を浮かべたままメニアの態度になど気付いていない、といった様子で更に足を踏み出し近付いてくる。
「──先ずは、聖女に任命された事、おめでとう。あの日、メニアが必死にこの国の国民達を助け、治療した事が国王陛下に認められたんだね。そんな素晴らしい精神を持ったメニアが俺の婚約者だなんて、とても誇らしいし自分の事のように嬉しいよ」
「ありがとうございます。ですが、あの日は私に出来る最低限の事をしたまでです。その結果が良く出過ぎただけ……セリウス様にそのように喜んで頂けるような事ではありません」
「メニアは昔から謙虚だね。謙虚な心はとても美しいし、誇れる事だけれど、もう少し自分に自信を持って欲しいな?メニアはとっても素晴らしい功績を残して聖女に任命されたのだから」
変わらず足を止めずに近付き続けるセリウスに、メニアの隣に居たマティアスが堪らずにメニアとセリウスの間に体を割り込ませると、そこで初めてマティアスの存在に気が付いたかのようにセリウスがピタリ、と足を止めてマティアスに胡乱な目を向ける。
「……近衛騎士?何故俺とメニアの間に入ってくるんですか?」
セリウスが苛立ちを滲ませた声音でマティアスにそう話し掛けると、マティアスは真っ直ぐにセリウスに視線を向けて唇を開く。
「ラド・メランド卿からハピュナー嬢をご両親の元へ送り届けるよう仰せつかったのです」
「……俺はメニアの婚約者ですが?婚約者同士、積もる話しもあるのだから少しだけ席を外してくれません?」
セリウスの言葉に、マティアスはちらり、とメニアに視線を向ける仕草をセリウスに見せる。
マティアスの視線を受けて、メニアは小さく首を横に振るとセリウスに向き直ってきっぱりと言い放つ。
「ハピュナー嬢は早くご両親の元へと向かいたいご様子です。この国の宰相直々のご命令に背く訳にはいきません」
「──……ちっ」
毅然とした態度でそう言い放つマティアスに、セリウスは小さく舌打ちをすると、先程までメニアに向けていた優しげな視線をすっかりと引っ込めると忌々しそうにマティアスを睨み付ける。
「たかが護衛風情が……」
ぼそり、と低く唸るような声音でセリウスはメニアに聞こえないように吐き捨てると、今度はメニアに向かって微笑み掛けると唇を開く。
「メニア。今日の夜に改めてそちらの家にお邪魔するよ。その時に話そう」
「──えっ、ちょ……っセリウス様……っ」
メニアが慌てたようにセリウスに声を掛けるが、セリウスはメニアの呼び止める声に笑顔で手を振るとそのまま踵を返し、謁見の間の方向へと歩いて行ってしまった。
セリウスの姿が見えなくなってから、メニアは小さく「どうしよう」と呟くと、メニアの前にいたマティアスが真剣な表情でメニアに振り向いた。
「メニアさん……。先程の、メニアさんの婚約者ですが……。魅力と信用の魔法を俺とメニアさんに常時発動してました……。幸い、メニアさんに精神干渉を弾く魔法を掛けて貰っていたので大事なかったですが、こんな王城で堂々と精神干渉の魔法を使用するあの男は、本当に危険です……」
夜に、再度セリウスがハピュナー子爵邸にやってきてしまう。
その前に、両親にも早めに精神干渉を弾く魔法を掛けなければ、と考えたメニアとマティアスは急ぎ、メニアの両親が待っていると言う控えの間に戻って来た。
「何とかお父様とお母様に魔法を掛けてしまって、セリウス様の訪問を断る方向に話を持っていかないとですね」
「ええ。それが一番安全かもしれません。我々魔の者のように元々魔力が多い者だったら、ある程度相手の魔法に対する耐性を持つ事も可能ですが、今回は人間ですもんね……」
「今回は、って……。やはり、魔の者のお二方に比べて、人間で精神干渉に耐えうる人間が果たして居るのか、ですよね……」
ネウス達以外の魔の者が、セリウスに手を貸していて、魅了と信用の魔法を授けたのであれば、人間に魔の者の魔法である魅了を弾く力はないと言う事か、とメニアは納得する。
それならば、やはり早急に解呪の魔法を何がなんでも取得しなければ、とメニアが考えていると、いつの間にか両親が待つ「控えの間」に到着していたらしく、メニアとマティアスは一度頷きあってから扉をノックした。
49
お気に入りに追加
3,399
あなたにおすすめの小説

こんなに遠くまできてしまいました
ナツ
恋愛
ツイてない人生を細々と送る主人公が、ある日突然異世界にトリップ。
親切な鳥人に拾われてほのぼのスローライフが始まった!と思いきや、こちらの世界もなかなかハードなようで……。
可愛いがってた少年が実は見た目通りの歳じゃなかったり、頼れる魔法使いが実は食えない嘘つきだったり、恋が成就したと思ったら死にかけたりするお話。
(以前小説家になろうで掲載していたものと同じお話です)
※完結まで毎日更新します
居場所を奪われ続けた私はどこに行けばいいのでしょうか?
gacchi
恋愛
桃色の髪と赤い目を持って生まれたリゼットは、なぜか母親から嫌われている。
みっともない色だと叱られないように、五歳からは黒いカツラと目の色を隠す眼鏡をして、なるべく会わないようにして過ごしていた。
黒髪黒目は闇属性だと誤解され、そのせいで妹たちにも見下されていたが、母親に怒鳴られるよりはましだと思っていた。
十歳になった頃、三姉妹しかいない伯爵家を継ぐのは長女のリゼットだと父親から言われ、王都で勉強することになる。
家族から必要だと認められたいリゼットは領地を継ぐための仕事を覚え、伯爵令息のダミアンと婚約もしたのだが…。
奪われ続けても負けないリゼットを認めてくれる人が現れた一方で、奪うことしかしてこなかった者にはそれ相当の未来が待っていた。
【完結】もう結構ですわ!
綾雅(ヤンデレ攻略対象、電子書籍化)
恋愛
どこぞの物語のように、夜会で婚約破棄を告げられる。結構ですわ、お受けしますと返答し、私シャルリーヌ・リン・ル・フォールは微笑み返した。
愚かな王子を擁するヴァロワ王家は、あっという間に追い詰められていく。逆に、ル・フォール公国は独立し、豊かさを享受し始めた。シャルリーヌは、豊かな国と愛する人、両方を手に入れられるのか!
ハッピーエンド確定
【同時掲載】小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ
2024/11/29……完結
2024/09/12……小説家になろう 異世界日間連載 7位 恋愛日間連載 11位
2024/09/12……エブリスタ、恋愛ファンタジー 1位
2024/09/12……カクヨム恋愛日間 4位、週間 65位
2024/09/12……アルファポリス、女性向けHOT 42位
2024/09/11……連載開始

初夜に大暴言を吐かれた伯爵夫人は、微笑みと共に我が道を行く ―旦那様、今更擦り寄られても困ります―
望月 或
恋愛
「お前の噂を聞いたぞ。毎夜町に出て男を求め、毎回違う男と朝までふしだらな行為に明け暮れているそうだな? その上糸目を付けず服や装飾品を買い漁り、多大な借金を背負っているとか……。そんな醜悪な女が俺の妻だとは非常に不愉快極まりない! 今後俺に話し掛けるな! 俺に一切関与するな! 同じ空気を吸ってるだけでとんでもなく不快だ……!!」
【王命】で決められた婚姻をし、ハイド・ランジニカ伯爵とオリービア・フレイグラント子爵令嬢の初夜は、彼のその暴言で始まった。
そして、それに返したオリービアの一言は、
「あらあら、まぁ」
の六文字だった。
屋敷に住まわせている、ハイドの愛人と噂されるユーカリや、その取巻きの使用人達の嫌がらせも何のその、オリービアは微笑みを絶やさず自分の道を突き進んでいく。
ユーカリだけを信じ心酔していたハイドだったが、オリービアが屋敷に来てから徐々に変化が表れ始めて……
※作者独自の世界観満載です。違和感を感じたら、「あぁ、こういう世界なんだな」と思って頂けたら有難いです……。
どうも、死んだはずの悪役令嬢です。
西藤島 みや
ファンタジー
ある夏の夜。公爵令嬢のアシュレイは王宮殿の舞踏会で、婚約者のルディ皇子にいつも通り罵声を浴びせられていた。
皇子の罵声のせいで、男にだらしなく浪費家と思われて王宮殿の使用人どころか通っている学園でも遠巻きにされているアシュレイ。
アシュレイの誕生日だというのに、エスコートすら放棄して、皇子づきのメイドのミュシャに気を遣うよう求めてくる皇子と取り巻き達に、呆れるばかり。
「幼馴染みだかなんだかしらないけれど、もう限界だわ。あの人達に罰があたればいいのに」
こっそり呟いた瞬間、
《願いを聞き届けてあげるよ!》
何故か全くの別人になってしまっていたアシュレイ。目の前で、アシュレイが倒れて意識不明になるのを見ることになる。
「よくも、義妹にこんなことを!皇子、婚約はなかったことにしてもらいます!」
義父と義兄はアシュレイが状況を理解する前に、アシュレイの体を持ち去ってしまう。
今までミュシャを崇めてアシュレイを冷遇してきた取り巻き達は、次々と不幸に巻き込まれてゆき…ついには、ミュシャや皇子まで…
ひたすら一人づつざまあされていくのを、呆然と見守ることになってしまった公爵令嬢と、怒り心頭の義父と義兄の物語。
はたしてアシュレイは元に戻れるのか?
剣と魔法と妖精の住む世界の、まあまあよくあるざまあメインの物語です。
ざまあが書きたかった。それだけです。
毒を盛られて生死を彷徨い前世の記憶を取り戻しました。小説の悪役令嬢などやってられません。
克全
ファンタジー
公爵令嬢エマは、アバコーン王国の王太子チャーリーの婚約者だった。だがステュワート教団の孤児院で性技を仕込まれたイザベラに籠絡されていた。王太子達に無実の罪をなすりつけられエマは、修道院に送られた。王太子達は執拗で、本来なら侯爵一族とは認められない妾腹の叔父を操り、父親と母嫌を殺させ公爵家を乗っ取ってしまった。母の父親であるブラウン侯爵が最後まで護ろうとしてくれるも、王国とステュワート教団が協力し、イザベラが直接新種の空気感染する毒薬まで使った事で、毒殺されそうになった。だがこれをきっかけに、異世界で暴漢に腹を刺された女性、美咲の魂が憑依同居する事になった。その女性の話しでは、自分の住んでいる世界の話が、異世界では小説になって多くの人が知っているという。エマと美咲は協力して王国と教団に復讐する事にした。
悪役令嬢に仕立て上げたいのならば、悪役令嬢になってあげましょう。ただし。
三谷朱花
恋愛
私、クリスティアーヌは、ゼビア王国の皇太子の婚約者だ。だけど、学院の卒業を祝うべきパーティーで、婚約者であるファビアンに悪事を突き付けられることになった。その横にはおびえた様子でファビアンに縋り付き私を見る男爵令嬢ノエリアがいる。うつむきわなわな震える私は、顔を二人に向けた。悪役令嬢になるために。
【完結】捨てられた双子のセカンドライフ
mazecco
ファンタジー
【第14回ファンタジー小説大賞 奨励賞受賞作】
王家の血を引きながらも、不吉の象徴とされる双子に生まれてしまったアーサーとモニカ。
父王から疎まれ、幼くして森に捨てられた二人だったが、身体能力が高いアーサーと魔法に適性のあるモニカは、力を合わせて厳しい環境を生き延びる。
やがて成長した二人は森を出て街で生活することを決意。
これはしあわせな第二の人生を送りたいと夢見た双子の物語。
冒険あり商売あり。
さまざまなことに挑戦しながら双子が日常生活?を楽しみます。
(話の流れは基本まったりしてますが、内容がハードな時もあります)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる