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しおりを挟む「──以上で、聖女の権利や権力のお話は終わりです。ハピュナー嬢、何かご質問はございますか?」
長時間話し続けたからだろうか。
ラドは、ふう、と一つ息を吐き出すとカップに口を付けて喉を潤す。
メニアはラドと視線を合わせると苦笑しながら唇を開く。
「いえ、特にはありません……。実際問題、聖女に任命された事に戸惑いや驚きの感情が勝っていて、情けないのですが今は何も思い浮かばないのが現状です」
「──失礼、そうですよね。我が国の聖女が悪事に利用されないように、と急ぎご説明してしまいましたが、落ち着いたらまた王城へお越し下さい。その際にまたご説明致しましょう」
「そんな……、メランド卿もお忙しいのですし……」
「いえいえ。聖女様の身の安全を一番に考えなければなりません。本日は、"聖女"と言う人物が持つ権力を狙う者達が居る、と言う事だけご理解頂ければ大丈夫ですから」
ラドは笑顔でメニアにそう告げると、室内にある時計に視線を向けて微かに瞳を見開くと申し訳なさそうに表情を崩した。
「大分お時間を頂いてしまいましたね。本日はこれでお帰り頂いて大丈夫です。ご両親の待つ控えの間には近衛を一人付けますので、ご一緒にお帰り頂いて大丈夫ですよ」
ラドはそう言うと、ソファから立ち上がり応接間の扉を開けると近くに控えていた近衛らしき人物に声を掛けている。
メニアも慌ててソファから腰を上げると、ラドに向かってぺこりと頭を下げた。
「メランド卿、本日は色々と教えて頂きありがとうございました……!とても勉強になりました」
「いえいえ。突然の事でとても驚かれたでしょう。本日はゆっくりと休んで下さいね」
メニアの言葉に、ラドはにこやかに微笑んでから扉を開けると外に控えていた近衛にメニアを控えの間に案内するように伝える。
「ハピュナー嬢を控えの間に頼む。くれぐれも失礼のないようにな」
「畏まりました」
「──っ、!?」
部屋から出たメニアは、下を向いていた為近衛の姿を視界に入れていなかったが、ラドとその近衛が言葉を交わしている声に驚き視線をその近衛に向けた。
とても聞き覚えがある声に、何故こんな所に、と驚きが表情に出てしまわないよう必死に抑えるが、正面にいるその近衛にはメニアが戸惑い、驚き慌てている様子はしっかりと視界に入っているだろう。
「ハピュナー嬢、控えの間までご案内致しますので、どうぞこちらへ」
「──あ、ありがとうございます……」
「それでは、ハピュナー嬢。私はこちらで失礼致します。また後日王城に来られた際は正門にいる近衛に声を掛けて下さいね」
ぺこり、と頭を下げて去っていくラドの背中を見詰めながら、メニアは周囲から人が居なくなった事を確認すると、にこやかな表情を浮かべ自分の隣に立っている近衛にじとっとした視線を向ける。
「──びっくりしました……何やってるんですか、マティアスさん……」
「いや、接触するには近衛の振りでもしないと王城を自由に動けないじゃないですか?」
ははっ、とあっけらかんと笑うマティアスにメニアは「もう」と唇を尖らせると安心したように肩から力を抜いた。
「本当は、ネウス様が近衛の振りしてメニアさんを迎えに行く、って言ってたんですが、流石に目立ってしまうでしょう?」
「えぇっ。ネウスさんが来るつもりだったんですか……!?それ、は……ちょっと……あの容姿ですし……悪目立ちしちゃいますよ……」
「そうでしょう?この王城は強い魔法を防ぐ魔道具が設置されているので、ネウス様の使用する認識阻害の魔法は弾かれちゃうんですよね。だから俺が使用する認識阻害の魔法の方が効力が弱いので、俺がメニアさんを迎えに」
ぱちっ、とウィンクをして悪戯っぽく笑顔を見せるマティアスにメニアも呆れたような笑みを返す。
「同じ認識阻害の魔法でも、発動する使用者によって魔法の力の強さが違うのは分かるんですけど、魔道具にもそれを検知する機能が備わっているんですね。それに驚きました」
「あー……。そうなんですよね……。それが……精巧な魔道具を発明する時に俺の母さんも関わっていたらしくて……母さんの知識のせいで精巧な魔道具が作成されちゃって……。ネウス様も"ロザンナめ!"って怒ってましたよ」
自分達の仲間のせいで自分達の正体を見破ってしまう魔道具を作成してしまっていた事に、この王城に来るまですっかり忘れてしまっていたらしく、数百年前の事だったのでネウスもすっかり失念してしまっていたらしい。
「そんな昔に作成した魔道具がまさか未だに現役で頑張ってるとは、ってネウス様も少し嬉しそうにしてましたけどね。後で母さんにネウス様が褒めてたよ、って伝えてあげるつもりです」
「──ふふっ、本当に魔の者の皆さんは仲が良いんですね。まるで家族みたいです」
メニアの言葉に、マティアスは一瞬だけ苦しそうな表情を見せると眉を下げて言葉を続ける。
「そう、ですね……。そう言って貰えて嬉しいです。俺達は仲間だと認めた者に対しては警戒心を無くすし、懐まで相手を入れてしまう……。けれど、それが必ずしも良い事とは限らない、って事を今回強く痛感しましたよ」
「それは──……」
ネウスとマティアスが言っていた、他の魔の者の魔力の事だろうか。
メニアがマティアスに言葉を掛けようと、唇を開いた所でメニアとマティアスの背後から声を掛けられた。
「──メニア、ここに居たのかい?もう帰るのかな?それなら一緒に帰ろう」
嬉しそうに声を弾ませて、こちらに近付いて来る足音が聞こえ、メニアとマティアスは同時に振り向く。
二人が振り向いた先には、セリウスが笑顔でメニアに近付いて来ていて、セリウスの瞳にはメニアに対する執着の感情が一瞬浮かんで消えたのが見えた。
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