【完結】偽りの聖女、と罵られ捨てられたのでもう二度と助けません、戻りません

高瀬船

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「聖女、と言う人の配偶者は聖女を守る為に全てを知る事が出来るのですね」

メニアの言葉にラドはこくり、と頷く。

それならば。
セリウスと結婚さえしなければセリウスに聖女の持つ権利や恩恵を全て話さないで済む、と言う事だ。
精神干渉の魔法は既に解呪され、メニアは自らの体に干渉を弾く魔法を掛け続けている。
恐らく今後セリウスに惑わされる事は無くなるだろう。
情報の漏洩も防ぐ事が出来る、とメニアは安堵した。

「私には今、婚約者が居ます。相手の方から将来夫になるのだから、と情報が欲しいと言われた場合は強くお断りして宜しいでしょうか?」

メニアの不安そうな表情に、ラドは一瞬探るような視線をメニアに向けたが、一拍遅れて頷くと唇を開く。

「ええ。お断りしてしまって大丈夫です。聖女に関わる全ての情報は限られた人間以外には秘匿すべき、と国王陛下も同意されてますので、強く求められた場合は国王陛下から許可証を入手するように相手に伝えて下さい」
「──分かりました、ありがとうございます」

国王陛下の名前を出しても良い、とラドから返答を貰いメニアは表情を緩ませる。
ラド自身も、メニアと婚約者の間に何かがあったのか、と察する事は出来たが特に深入りする事は無く、メニアに聖女の権利──聖女と言う存在が持つ権利、権限、恩恵をゆっくりと説明し始めた。

・毎月、国から助成金の支払いが発生する事
・王城敷地内の国立図書館への入館に許可取りが不必要な事
・図書館内の貴重蔵書保管庫への入室が可能な事
・禁書と呼ばれる国宝の閲覧が可能な事
・王城への訪問に許可取り不必要な事

「──そして、最後に……。こちらが一番取り扱いに注意して頂きたいのですが……。我が国と友好関係にある魔の者、及びその者達が住む国や土地の情報を開示致します」

ふむふむ、とメニアはラドの説明を神妙な心地で静かに聞いていたが、最後にラドが口にした言葉にぎょっと瞳を見開く。

まさか、魔の者の名前が出てくるとは思って居なかったメニアはどうして魔の者の情報が秘匿情報なのだろう、と呆気に取られる。

ネウスやマティアスと実際に顔を合わせ、話しているメニアは彼らが存外あっさりと自分達の情報をぺらり、と話しているのを聞いている為、そんなに重要な情報が沢山あるのか、と些か緊張気味にラドに視線を向ける。

「ああ、ハピュナー嬢が驚かれるのも無理はありません。彼らと我々が交流していたのは数百年以上も前ですから、姿を見た事もありませんよね。友好関係を結んでいたとは言え、彼らは魔の者。元々は好戦的な性格で残忍な一面も併せ持っております。その為、彼らと万が一接触する事があった場合には、彼らが使用する闇属性魔法と対極にある聖属性魔法がとても有効です。その為、聖属性魔法の使用者は彼らに有効な魔法を覚え、光属性魔法の使用者は、聖属性魔法の使用者をサポートする役目があります」

スラスラとラドから語られる言葉達に、メニアは慌てて口を挟む。

「ちょ、ちょっとお待ち下さい……!闇属性と対極の聖属性魔法の使用者が、魔の者に有効な魔法を学ぶ……?光属性魔法の使用者はサポートする……?魔の者とは友好関係を築いているのですよね……、何故そんな……戦闘になった場合の準備をしているのですか?」
「──そうですね、ハピュナー嬢のご質問はご最もです。ですが、数百年間あちらの方達と意思疎通をしてきておりません。その為、今現在も魔の者達が我々に好意的なのかどうかは分からないのです」

ラドはそこで一度言葉を切ると、不安そうな感情を瞳に乗せてそっと視線を下げる。

「それに……。今回噴水広場に魔獣が発生した事件も、もしかしたら魔の者の意思でこの国に"攻撃"を仕掛けて来た可能性もありますので」
「──……っ、」

そんな事はない、と言えてしまったらどんなに楽だろうか。
今も尚、ネウスを筆頭として魔の者達はこの国の者達との仲を維持してくれている。
残忍、と言うが魔の者の王であるネウスは一度友人と認めた相手にはそのような態度を取らない。
見捨てても良かった筈のこの国を、友人達の故郷だから、子孫達がまだこの国に居るから、とこの国の人間であるメニア自身を助けてくれる程だ。

確かに数百年、関わりが無く魔の者に対する恐怖に過剰に反応してしまうのは理解出来るが、怖がり、反発する等一番愚かな事だ、とメニアは感じてしまう。
関わりが無くなってしまったのならば、また再度関係を構築する努力をすれば良いのだ。
だが、そうはせず未知の者に対する恐怖や畏怖で反対に反発しようとしてしまっている今の流れは宜しくない。

(──ネウスさんに一度相談しないと……)

メニアはそう考えると、ラドが続ける聖女の細々とした説明をそのまま黙って聞いた。
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