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しおりを挟む──聖女に任命する。
国王陛下の言葉に、謁見の間に居た人々が俄に沸き立つ。
ざわざわと空気が揺れ、メニアを羨望の眼差しで見詰める者も居れば、どうにかメニアとの縁を得ようとじっとりとした視線を向けてくる者も居て、メニアは国王陛下からの言葉に感謝の言葉と、聖女と言う称号を承った事を告げ、頭を下げる。
(やっぱり……聖女の任命を回避する事は出来なかった……)
頭を下げたまま、メニアは床を見詰めながらぎゅう、と唇を噛むとこれから自分の周囲が騒がしくなってしまう事と、ハピュナー子爵家を利用しようとする者が出てくるであろう事を想像して、気持ちが落ちる。
悪意を持った人間から両親を守る為にも、自分がしっかりとしなければいけない。
そうして、自分達の家族に被害が及ばないように自分がしっかりと聖属性の魔法を覚えないといけない。
(やる事が沢山あって……ネウスさんに相談したい……)
ネウスと出会ってから、メニアは今まで知らなかった事を沢山学んだ。
光属性の適応者として国に登録をされているメニアは、聖属性魔法の事を殆ど知る事が無かったが、ネウスが渡してくれた禁書で聖属性魔法の事を学び、今まで発動した事が無かった聖属性魔法を沢山取得し、発動した。
そして、自分に掛けられた精神干渉の魔法や、婚約者であるセリウスと友人だと思っていたシャロンが自分に対して何か良くない事を企てている事を知り、そして今は「聖女」に任命されてしまった。
この国の聖女は治癒魔法や浄化魔法に優れた者の事を総称として聖女と呼んでいるのかと思っていたが、実際聖女として認められた者に与えられる権限が強く、恩恵も大きい。
ここ数週間でそう言った多すぎる情報に、メニアの頭はパンクしてしまいそうになっていた。
そうして、メニアが今後の事を考えている内に国王陛下はセリウスとシャロンにも感謝の意を述べ、別途報奨を与えると告げた。
メニア、セリウス、シャロンの順に国王陛下は声を掛け終えると謁見を終え、そのまま退出する。
国王が退出すると入れ替わりにこの国の宰相がメニアに近付いて来た。
「メニア・ハピュナー嬢。私はこの国の宰相を務めるラド・メランドと申します。これから貴女には、この国の聖女についてご説明をさせて頂きます」
ラドは自分の胸元に手を当ててメニアに挨拶をすると、周囲の他の者達がメニアに近付いて来る前に「場所を変えましょう」とメニアを促し、謁見の間から連れ出した。
戸惑いながらメニアは小さく返事を返し、チラリとセリウスとシャロンに視線を向ける。
今日、この謁見の間に入ってからと言うものの、二人とは視線を交わしただけで会話と言う会話は行っていない。
セリウスもメニアを見ていたのか、セリウスに視線を向けたメニアはぱちり、とセリウスと視線が合ってしまい、気まずそうにそっと視線を外した。
(あの様子なら……セリウス様もシャロン様も抜け出す事は難しそう)
セリウスとシャロンの周りには、彼ら二人を褒め称えるような人垣が出来ており、二人が侯爵家の子供と言うのもあり取り入ろうとしている者達が多い。
メニアの元へは、近付きたいような様子の者達も居るがラドが側に居るせいか近付いて来る様子は無い。
「ハピュナー嬢。我が国の聖女に関して、詳細を知る者はあまり多くありません。中には他言無用の内容もございます。情報の管理にはくれぐれもお気を付け下さい」
「しょ、承知しました……」
柔らかい声音で、優しく話してはくれるが、ラドが口にした内容は情報の漏洩に気を付けろ、と言う事でメニアは緊張感に体を固くすると上擦った声でラドに返事をする。
謁見の間を出て、周囲に人の気配が確認出来ない所でそう口にしたラドの様子からして、「聖女」に与えられる権限はやはり相当な物なのだろう。
ラドが先導し、応接間に到着すると室内へと促される。
「──ご両親とは、ご説明が終わり次第控えの間にご案内致しますので、先ずはそちらのソファにお掛け下さい」
「分かりました。よ、宜しくお願い致します」
メニアが緊張した面持ちでソファに腰掛けると、ラドはメニアの様子に苦笑しながら自らも正面のソファへと腰を下ろした。
目の前の男──この国の宰相であるラド・メランドはメランド伯爵家の当主で、代々この国の宰相を輩出している由緒ある伯爵家だ。
ラドはプラチナブロンドの透き通った髪色を持ち、翡翠の瞳をきゅうっと細めると、目尻に細い皺が浮かぶ。
一見冷たい印象の容姿をしているが、先程からメニアに話し掛ける声音は優しく、穏やかで表情も常に微笑みを浮かべていて、メニアは優しい人柄なのだろうな、とラドのその表情を見詰めながら感じる。
「この国の聖女に関して、正しく聖女様に与えられた"権利"を知る者は多くありません。知る者はこの国の国王陛下に、宰相、筆頭政務官、聖女様方本人と、その配偶者……のみです」
「それだけの人数しか……、知らないのですか……」
ラドの口から出てきた人数の少なさに、メニアは驚きに瞳を見開くが目の前のラドは苦笑しながら続ける。
「そうです。聖女様に与えられる権利が大きく、聖女様本人を唆し、利用しようとする人間が多い……。その為、本当の権利を知る者は少ないのです」
「それでは……メランド卿が仰った方達以外には聖女と言う存在は他に権利は無い、と思われているのでしょうか?」
それならば、何故セリウスはメニアの治癒魔法に固執したのだろうか、と考えメニアが問いかけると、ラドは小さく首を横に振ると答える。
「──いえ。全てを秘匿すると要らぬ災いを呼び寄せる為、聖女様の権利を幾つか隠し限られた人間にのみ情報を公開しています」
「限られた、人間……」
「ええ、そうです。その他の者達も、聖女様の得る権利や恩恵を最小限知っています。その為、本日謁見の間に居た者達はハピュナー嬢に近付こうとしていたでしょう?」
ラドの言葉に、メニアはこくりと頷く。
「これから……聖女様が得られる権利や恩恵を余す事無くお伝え致します。決して、ご家族にも口外しないようお気を付け下さいね。聖女様の配偶者に情報を告げる事が出来るのは、聖女様を理解し、聖女様を悪意の持った人間から守る為に特別に情報の公開を許可しております」
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