【完結】偽りの聖女、と罵られ捨てられたのでもう二度と助けません、戻りません

高瀬船

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「お父様、お母様お待たせ致しました……!」
「ああ、メニア。焦らないでいい、昨日は具合が悪かったのだからゆっくり降りて来なさい」
「ふらつきは?熱とかは無いの?大丈夫?」

翌日、休日のこの日に国王陛下と王城で謁見する。
王城から迎えの馬車が来ているので、メニアと両親はその馬車で王城まで向かう予定だ。

王家の紋章が刻まれた馬車であれば、王城の正門から庭園までをそのまま進む事が出来る為、歩いて向かうと言う時間の勿体ない使い方をしないで済む。

謁見の間にはメニアのみが入室を許されているので、メニアに同行する両親は控えの間で待つ事になるのだが、心配性な両親はメニアに付き添う事にしているらしい。

メニアは自室から子爵邸の玄関まで急ぎ足で向かうと、大階段を降りて行く。
昨日、体調不良で学院を休んだ事を心配しているのだろう、メニアが階段から降りて来るのを両親はハラハラとした表情で見守っている。

手摺に掴まりながら階段を一段一段降り、メニアはふと玄関から見える外の景色に視線を向ける。

(昨日は……ネウスさんとマティアスさんに魔法を掛けたけれど、そこまで魔力を消費しなかった……発動時の光が無ければお父様とお母様にもこっそり掛けれたのだけど……今は無理ね)

セリウスとシャロンからどれだけ精神干渉の魔法を受け続けているのかは分からない。
両親の優先事項は、今現在は自分の娘であるメニアに寄っているが、今後両親への精神干渉が進めば、その優先順位に変動が生じてしまう可能性もある。

(やっぱり……二人には早めに解呪の魔法を掛けなきゃ……)

メニアは最後の段差を降りると、自分を待つ二人に笑顔で駆け寄った。




馬車に揺られ、王城への道を進みながら王都の様子を馬車の中からメニアは盗み見ていたが、ネウスとマティアスの気配は全くと言っていい程感じる事が出来ず、本当に今日は側に居てくれているのだろうか、と若干心配になってしまう。

謁見の間では、メニアと同じくセリウスとシャロンも呼ばれている為、接近するのは良くないだろうがここまで気配を感じないと些か不安になってしまう。

メニアのその何とも言えない表情を見て、目の前に座る父親と母親がメニアを元気付けてくれるように話しを振ってくれ、メニアは王城に到着するまでの束の間、両親と穏やかな会話を楽しんだ。





馬車が王城に到着し、庭園を過ぎた所でメニアと両親は別々の案内の者に声を掛けられ、それぞれメニアは謁見の間に、両親は控えの間に案内される事となり、メニアと両親は一言二言言葉を交わすと、それぞれ出迎えてくれた案内の者に着いて行く事になる。

メニアの前を歩くのは、この国の筆頭政務官らしく、メニアを迎える際に深々と頭を下げ、自らの名を告げた。
この国で相当な地位を持っている筈の筆頭政務官に丁寧な挨拶をされ、ましてや学生であるメニア自身に敬語で話す目の前の男の姿を見詰めながら、メニアは「聖女候補」である人物への丁寧な対応に呆気に取られた。

メニアの前を歩いていた筆頭政務官は、ちらりと肩越しにメニアに振り返ると穏やかな表情と口調で言葉を発した。

「セリウス・レブナワンド卿とシャロン・タナヒル嬢はお揃いです。陛下はメニア・ハピュナー嬢に一番にご挨拶を、と考えておられるようで現在皆様が謁見の間に揃っております」
「──えっ、セリウス様とシャロン様が既に居らっしゃるのですね……!遅れてしまい申し訳ございません……!」
「いえいえ、とんでもございません。王城からの迎えの馬車はこちらで手配させて頂いておりますので、ハピュナー子爵令嬢が気に病む必要はございませんよ」

にこにこと笑みを浮かべながら、前を歩く筆頭政務官は機嫌良さげに言葉を続ける。

ぽつり、ぽつり、とメニアとその筆頭政務官が穏やかな会話を続けていると謁見の間に到着したのだろう。
案内をしていた筆頭政務官がくるり、とメニアに向き直り「到着致しました」とメニアに告げる。
そうして、何事かを謁見の間の扉の前で控えていた護衛に伝えると、筆頭政務官がこほん、と一つ咳払いをした。

暫しして謁見の間の扉が開かれると、メニアの名前を告げ、筆頭政務官は謁見の間へと進んで行った。



「おお、待っておったぞ。堅苦しい挨拶は抜きにしよう」

謁見の間に進み行ったメニアは、謁見の間にある玉座に座る国王陛下に急ぎカーテシーを行うと、そう言葉が返ってきた。

国王陛下の許しを得て、メニアは幾ばくか気持ちを軽くして挨拶を行うと、既に謁見の間に通されていたセリウスとシャロン二人と目が合う。

二人から気遣うような視線を感じて、メニアはそちらに少しだけ顔を向けると小さく頷いて、「大丈夫だ」と言う事をそれとなく伝える。

「メニア・ハピュナー嬢よ。この度は、創星祭での勇気ある行動と、我が国の国民達の命を助けてくれた事、国民達に代わって礼を伝えよう」
「そのような……っ、勿体なきお言葉でございます……!」
「よいよい、謙遜は無用だ。──この度のメニア・ハピュナー嬢の働きに最大の感謝を贈ろう」

国王陛下の言葉に、メニアは頭を下げて応える。

メニアの様子を微笑ましく見詰めながら、国王陛下は自身の顎髭に手を添えて何度か自らの手で撫で付けると、続けて唇を開いた。

「──此度のメニア・ハピュナー嬢の働きは、自らの危険を顧みず行動した事は賞賛に値する。そして、素晴らしい治癒魔法で国民の命を救ってくれたのも紛れもない事実よな。……よって、儂の権限でもって、此度の働きに見合う報奨をメニア・ハピュナーに与える」

国王陛下は、そこで一度言葉を区切ると、眩しい物を見るかのように瞳を細めてメニアを見詰めると、ゆったりと唇を開いた。



「メニア・ハピュナーをこの国の聖女として新たに任命する」
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