【完結】偽りの聖女、と罵られ捨てられたのでもう二度と助けません、戻りません

高瀬船

文字の大きさ
上 下
46 / 155

46

しおりを挟む

メニアの乗る馬車が邸へと到着し、遅い帰宅となってしまった事に両親や使用人が心配して話し掛けて来たが、学院で勉強をしている事から今後も遅い時間帯に帰宅する事がある事を伝えると、メニアの両親が提案をしてきた。

「メニア。遅い時間にいくら馬車に乗っているとは言え、女性一人で帰って来るのは心配だ。何とかセリウス様に相談して、送ってもらうのは出来ないのか?」
「……セリウス様はシャロン様と共にお帰りになりますし、元々私の光属性魔法の授業はお二人より長いのです。元々お待たせしてしまっていたのに、更に私の勉強にお付き合いさせてしまうのは申し訳ないですから……」

メニアは、自分の父親の提案に首を横に振ると最もな事を告げ、何とか断る方向に話を持って行く。

恐らく、父親はセリウスとシャロンに精神干渉の魔法を受けているのだろう。
一番優先してくれるのはメニアの感情ではあるが、それがいつ覆されてしまうか分からない。

(お父様と、お母様には早く解呪の魔法を込めた魔石をお渡ししないと……)

きっぱりと断ったメニアに、未だに心配そうな表情を浮かべている父親にメニアは「大丈夫です!」と笑顔で告げると、その場から逃げるように自室へ着替えに向かう。

着替えて、夕食を食べて、自室に戻ったら眠る前にいくつか魔法を魔石に発動してみよう、とメニアは考えていた。
以前確認した禁書の中の解呪の魔法はまだ構築式を最後まで理解しきれていない。
最後までしっかりと細部まで理解する事が出来れば、今後はメニア自身が解呪の魔法を発動する事が出来る。

(ただ……私の魔力がそうそう何度も聖属性魔法を発動出来る程、豊富では無さそうなのよね……)

構築式が複雑で、細部まで魔力を張り巡らせて発動するにはまだ魔力制御が上手く出来ていない可能性がある。
魔力制御にむらがあり、必要以上の魔力を消費してしまっている。
メニアは、自身が魔法を発動した時に体の中からごそっと魔力が消え去る感覚をここ数日感じていた。

(風属性や、五元素魔法ではそんな事は殆どないから……やっぱり聖属性魔法は特殊なんだわ)

国王陛下との謁見の日までは後僅かだ。
そして、ネウスから聞いた人間でも、魔の者でも無い者の存在。
そして、ネウス達魔の者の誰かがセリウスやシャロンの手助けをしている可能性。

メニアは自室の扉を開けて中に入ると、溜息を付いた。

「──何だか、本当にこれから大変な事が起きそうね……」

その予感は外れて欲しい、と思いながらメニアは邸で過ごす用の衣服に着替え始めた。





夕食から数時間。
メニアは夕食後、可愛い可愛い甥っ子と姪っ子二人と存分に戯れ、癒して貰ってから自室へと戻って来ていた。

「ああ……本当に可愛い。うちのマルクとリリーは本当に天使だわ……」

よたよたと覚束無い足取りで必死にメニアに駆け寄り、遊んで貰いに来るふくふくほっぺの二人を思い出し、メニアは表情を緩ませると上機嫌でネウスから貰った魔石をテーブルの上にジャラリ、と並べる。

「あの子達に被害が及ばないように、私の魔法が何か役に立てばいいのだけど……防御結界の魔法を込めて、この邸を守れるように中心部に置いておこうかしら」

そうすれば、もし自分が不在の場合でも、邸内に居る誰かが魔石に魔力を込めてメニアが封じた魔法を発動してくれれば少しは役に立つ可能性がある。

メニアはテーブルの上に置いた魔石の中から一つ摘み上げると、そうしよう、と呟いてその魔石に掛けるように聖属性魔法の防御結界を発動した。

パッと一瞬眩い光が発現したが、その光はすぐにメニアの手の中にある魔石に吸収され、光が収まる。
室内の窓にはカーテンを引いている為、外からもこの室内で発光した光は見えていないだろう。

「──ちゃんと掛かった、かしら?」

メニアは手の中にあった魔石を自分の手のひらの上でころん、と転がせるとまじまじとその魔石を見詰める。

魔石の輝きが、メニアの聖属性魔法を封印されたからか、当初よりも輝きが増しているような気がする。

「──出来ていそう。今度ネウスさんにも確認して貰おう……。この使い方はお姉様に伝えておけばいいかしら」

両親に伝えるよりは、セリウスと殆ど関わりが無い姉に伝えた方が外部には漏れなさそうだ、とメニアは考える。
両親に伝えて、もし、万が一その事がセリウスに知られてしまえば魔石の入手経路や、メニアが発動出来る魔法の種類に疑問を持ち、光属性魔法の使用者では無い、と知られてしまう可能性がある。

「──そうね……。うん、きっとそうした方がいいわ。セリウス様には知られてはいけない……」

婚約を無事解消出来るのはまだ先になるかもしれないが、婚約を解消出来るまで、セリウスやシャロンには聖属性魔法が使える事を知られない方がいいだろう。

メニアは、もう一つの魔石を手に取ると、今度は治癒の魔法を発動してその魔石に封印する。
もし、自分が魔力切れを起こして治癒魔法が発動出来ない事になったら。
そうなった際の万が一を考えて、二、三個治癒の効果を封じた魔石を作ろうと魔法を発動して行く。

治癒魔法と、防御結界であれば今までも光属性魔法の振りをして発動してきた。
その為、魔力制御も正しく行う事が出来ているから、連発しても問題は無いだろう、とメニアは考えていたのだが、最後の一つに魔法を発動した瞬間。

──ズキリ
と、先日よりも痛みが強い頭痛を感じ、メニアは表情を歪めた。

「──嘘でしょ……まだ五回程しか魔法を発動していないのに……」

先日よりも痛みは増しているとは言え、これ以上無理をするのは自分の体に響く可能性がある。

メニアはそう考えると、続きは明日学院から戻ったら再度やろう、と決めてベッドに横になった。
しおりを挟む
感想 195

あなたにおすすめの小説

こんなに遠くまできてしまいました

ナツ
恋愛
ツイてない人生を細々と送る主人公が、ある日突然異世界にトリップ。 親切な鳥人に拾われてほのぼのスローライフが始まった!と思いきや、こちらの世界もなかなかハードなようで……。 可愛いがってた少年が実は見た目通りの歳じゃなかったり、頼れる魔法使いが実は食えない嘘つきだったり、恋が成就したと思ったら死にかけたりするお話。 (以前小説家になろうで掲載していたものと同じお話です) ※完結まで毎日更新します

居場所を奪われ続けた私はどこに行けばいいのでしょうか?

gacchi
恋愛
桃色の髪と赤い目を持って生まれたリゼットは、なぜか母親から嫌われている。 みっともない色だと叱られないように、五歳からは黒いカツラと目の色を隠す眼鏡をして、なるべく会わないようにして過ごしていた。 黒髪黒目は闇属性だと誤解され、そのせいで妹たちにも見下されていたが、母親に怒鳴られるよりはましだと思っていた。 十歳になった頃、三姉妹しかいない伯爵家を継ぐのは長女のリゼットだと父親から言われ、王都で勉強することになる。 家族から必要だと認められたいリゼットは領地を継ぐための仕事を覚え、伯爵令息のダミアンと婚約もしたのだが…。 奪われ続けても負けないリゼットを認めてくれる人が現れた一方で、奪うことしかしてこなかった者にはそれ相当の未来が待っていた。

【完結】もう結構ですわ!

綾雅(ヤンデレ攻略対象、電子書籍化)
恋愛
 どこぞの物語のように、夜会で婚約破棄を告げられる。結構ですわ、お受けしますと返答し、私シャルリーヌ・リン・ル・フォールは微笑み返した。  愚かな王子を擁するヴァロワ王家は、あっという間に追い詰められていく。逆に、ル・フォール公国は独立し、豊かさを享受し始めた。シャルリーヌは、豊かな国と愛する人、両方を手に入れられるのか!  ハッピーエンド確定 【同時掲載】小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ 2024/11/29……完結 2024/09/12……小説家になろう 異世界日間連載 7位 恋愛日間連載 11位 2024/09/12……エブリスタ、恋愛ファンタジー 1位 2024/09/12……カクヨム恋愛日間 4位、週間 65位 2024/09/12……アルファポリス、女性向けHOT 42位 2024/09/11……連載開始

初夜に大暴言を吐かれた伯爵夫人は、微笑みと共に我が道を行く ―旦那様、今更擦り寄られても困ります―

望月 或
恋愛
「お前の噂を聞いたぞ。毎夜町に出て男を求め、毎回違う男と朝までふしだらな行為に明け暮れているそうだな? その上糸目を付けず服や装飾品を買い漁り、多大な借金を背負っているとか……。そんな醜悪な女が俺の妻だとは非常に不愉快極まりない! 今後俺に話し掛けるな! 俺に一切関与するな! 同じ空気を吸ってるだけでとんでもなく不快だ……!!」 【王命】で決められた婚姻をし、ハイド・ランジニカ伯爵とオリービア・フレイグラント子爵令嬢の初夜は、彼のその暴言で始まった。 そして、それに返したオリービアの一言は、 「あらあら、まぁ」 の六文字だった。  屋敷に住まわせている、ハイドの愛人と噂されるユーカリや、その取巻きの使用人達の嫌がらせも何のその、オリービアは微笑みを絶やさず自分の道を突き進んでいく。 ユーカリだけを信じ心酔していたハイドだったが、オリービアが屋敷に来てから徐々に変化が表れ始めて…… ※作者独自の世界観満載です。違和感を感じたら、「あぁ、こういう世界なんだな」と思って頂けたら有難いです……。

どうも、死んだはずの悪役令嬢です。

西藤島 みや
ファンタジー
ある夏の夜。公爵令嬢のアシュレイは王宮殿の舞踏会で、婚約者のルディ皇子にいつも通り罵声を浴びせられていた。 皇子の罵声のせいで、男にだらしなく浪費家と思われて王宮殿の使用人どころか通っている学園でも遠巻きにされているアシュレイ。 アシュレイの誕生日だというのに、エスコートすら放棄して、皇子づきのメイドのミュシャに気を遣うよう求めてくる皇子と取り巻き達に、呆れるばかり。 「幼馴染みだかなんだかしらないけれど、もう限界だわ。あの人達に罰があたればいいのに」 こっそり呟いた瞬間、 《願いを聞き届けてあげるよ!》 何故か全くの別人になってしまっていたアシュレイ。目の前で、アシュレイが倒れて意識不明になるのを見ることになる。 「よくも、義妹にこんなことを!皇子、婚約はなかったことにしてもらいます!」 義父と義兄はアシュレイが状況を理解する前に、アシュレイの体を持ち去ってしまう。 今までミュシャを崇めてアシュレイを冷遇してきた取り巻き達は、次々と不幸に巻き込まれてゆき…ついには、ミュシャや皇子まで… ひたすら一人づつざまあされていくのを、呆然と見守ることになってしまった公爵令嬢と、怒り心頭の義父と義兄の物語。 はたしてアシュレイは元に戻れるのか? 剣と魔法と妖精の住む世界の、まあまあよくあるざまあメインの物語です。 ざまあが書きたかった。それだけです。

毒を盛られて生死を彷徨い前世の記憶を取り戻しました。小説の悪役令嬢などやってられません。

克全
ファンタジー
公爵令嬢エマは、アバコーン王国の王太子チャーリーの婚約者だった。だがステュワート教団の孤児院で性技を仕込まれたイザベラに籠絡されていた。王太子達に無実の罪をなすりつけられエマは、修道院に送られた。王太子達は執拗で、本来なら侯爵一族とは認められない妾腹の叔父を操り、父親と母嫌を殺させ公爵家を乗っ取ってしまった。母の父親であるブラウン侯爵が最後まで護ろうとしてくれるも、王国とステュワート教団が協力し、イザベラが直接新種の空気感染する毒薬まで使った事で、毒殺されそうになった。だがこれをきっかけに、異世界で暴漢に腹を刺された女性、美咲の魂が憑依同居する事になった。その女性の話しでは、自分の住んでいる世界の話が、異世界では小説になって多くの人が知っているという。エマと美咲は協力して王国と教団に復讐する事にした。

悪役令嬢に仕立て上げたいのならば、悪役令嬢になってあげましょう。ただし。

三谷朱花
恋愛
私、クリスティアーヌは、ゼビア王国の皇太子の婚約者だ。だけど、学院の卒業を祝うべきパーティーで、婚約者であるファビアンに悪事を突き付けられることになった。その横にはおびえた様子でファビアンに縋り付き私を見る男爵令嬢ノエリアがいる。うつむきわなわな震える私は、顔を二人に向けた。悪役令嬢になるために。

【完結】捨てられた双子のセカンドライフ

mazecco
ファンタジー
【第14回ファンタジー小説大賞 奨励賞受賞作】 王家の血を引きながらも、不吉の象徴とされる双子に生まれてしまったアーサーとモニカ。 父王から疎まれ、幼くして森に捨てられた二人だったが、身体能力が高いアーサーと魔法に適性のあるモニカは、力を合わせて厳しい環境を生き延びる。 やがて成長した二人は森を出て街で生活することを決意。 これはしあわせな第二の人生を送りたいと夢見た双子の物語。 冒険あり商売あり。 さまざまなことに挑戦しながら双子が日常生活?を楽しみます。 (話の流れは基本まったりしてますが、内容がハードな時もあります)

処理中です...