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しおりを挟むメニアの乗る馬車が邸へと到着し、遅い帰宅となってしまった事に両親や使用人が心配して話し掛けて来たが、学院で勉強をしている事から今後も遅い時間帯に帰宅する事がある事を伝えると、メニアの両親が提案をしてきた。
「メニア。遅い時間にいくら馬車に乗っているとは言え、女性一人で帰って来るのは心配だ。何とかセリウス様に相談して、送ってもらうのは出来ないのか?」
「……セリウス様はシャロン様と共にお帰りになりますし、元々私の光属性魔法の授業はお二人より長いのです。元々お待たせしてしまっていたのに、更に私の勉強にお付き合いさせてしまうのは申し訳ないですから……」
メニアは、自分の父親の提案に首を横に振ると最もな事を告げ、何とか断る方向に話を持って行く。
恐らく、父親はセリウスとシャロンに精神干渉の魔法を受けているのだろう。
一番優先してくれるのはメニアの感情ではあるが、それがいつ覆されてしまうか分からない。
(お父様と、お母様には早く解呪の魔法を込めた魔石をお渡ししないと……)
きっぱりと断ったメニアに、未だに心配そうな表情を浮かべている父親にメニアは「大丈夫です!」と笑顔で告げると、その場から逃げるように自室へ着替えに向かう。
着替えて、夕食を食べて、自室に戻ったら眠る前にいくつか魔法を魔石に発動してみよう、とメニアは考えていた。
以前確認した禁書の中の解呪の魔法はまだ構築式を最後まで理解しきれていない。
最後までしっかりと細部まで理解する事が出来れば、今後はメニア自身が解呪の魔法を発動する事が出来る。
(ただ……私の魔力がそうそう何度も聖属性魔法を発動出来る程、豊富では無さそうなのよね……)
構築式が複雑で、細部まで魔力を張り巡らせて発動するにはまだ魔力制御が上手く出来ていない可能性がある。
魔力制御にむらがあり、必要以上の魔力を消費してしまっている。
メニアは、自身が魔法を発動した時に体の中からごそっと魔力が消え去る感覚をここ数日感じていた。
(風属性や、五元素魔法ではそんな事は殆どないから……やっぱり聖属性魔法は特殊なんだわ)
国王陛下との謁見の日までは後僅かだ。
そして、ネウスから聞いた人間でも、魔の者でも無い者の存在。
そして、ネウス達魔の者の誰かがセリウスやシャロンの手助けをしている可能性。
メニアは自室の扉を開けて中に入ると、溜息を付いた。
「──何だか、本当にこれから大変な事が起きそうね……」
その予感は外れて欲しい、と思いながらメニアは邸で過ごす用の衣服に着替え始めた。
夕食から数時間。
メニアは夕食後、可愛い可愛い甥っ子と姪っ子二人と存分に戯れ、癒して貰ってから自室へと戻って来ていた。
「ああ……本当に可愛い。うちのマルクとリリーは本当に天使だわ……」
よたよたと覚束無い足取りで必死にメニアに駆け寄り、遊んで貰いに来るふくふくほっぺの二人を思い出し、メニアは表情を緩ませると上機嫌でネウスから貰った魔石をテーブルの上にジャラリ、と並べる。
「あの子達に被害が及ばないように、私の魔法が何か役に立てばいいのだけど……防御結界の魔法を込めて、この邸を守れるように中心部に置いておこうかしら」
そうすれば、もし自分が不在の場合でも、邸内に居る誰かが魔石に魔力を込めてメニアが封じた魔法を発動してくれれば少しは役に立つ可能性がある。
メニアはテーブルの上に置いた魔石の中から一つ摘み上げると、そうしよう、と呟いてその魔石に掛けるように聖属性魔法の防御結界を発動した。
パッと一瞬眩い光が発現したが、その光はすぐにメニアの手の中にある魔石に吸収され、光が収まる。
室内の窓にはカーテンを引いている為、外からもこの室内で発光した光は見えていないだろう。
「──ちゃんと掛かった、かしら?」
メニアは手の中にあった魔石を自分の手のひらの上でころん、と転がせるとまじまじとその魔石を見詰める。
魔石の輝きが、メニアの聖属性魔法を封印されたからか、当初よりも輝きが増しているような気がする。
「──出来ていそう。今度ネウスさんにも確認して貰おう……。この使い方はお姉様に伝えておけばいいかしら」
両親に伝えるよりは、セリウスと殆ど関わりが無い姉に伝えた方が外部には漏れなさそうだ、とメニアは考える。
両親に伝えて、もし、万が一その事がセリウスに知られてしまえば魔石の入手経路や、メニアが発動出来る魔法の種類に疑問を持ち、光属性魔法の使用者では無い、と知られてしまう可能性がある。
「──そうね……。うん、きっとそうした方がいいわ。セリウス様には知られてはいけない……」
婚約を無事解消出来るのはまだ先になるかもしれないが、婚約を解消出来るまで、セリウスやシャロンには聖属性魔法が使える事を知られない方がいいだろう。
メニアは、もう一つの魔石を手に取ると、今度は治癒の魔法を発動してその魔石に封印する。
もし、自分が魔力切れを起こして治癒魔法が発動出来ない事になったら。
そうなった際の万が一を考えて、二、三個治癒の効果を封じた魔石を作ろうと魔法を発動して行く。
治癒魔法と、防御結界であれば今までも光属性魔法の振りをして発動してきた。
その為、魔力制御も正しく行う事が出来ているから、連発しても問題は無いだろう、とメニアは考えていたのだが、最後の一つに魔法を発動した瞬間。
──ズキリ
と、先日よりも痛みが強い頭痛を感じ、メニアは表情を歪めた。
「──嘘でしょ……まだ五回程しか魔法を発動していないのに……」
先日よりも痛みは増しているとは言え、これ以上無理をするのは自分の体に響く可能性がある。
メニアはそう考えると、続きは明日学院から戻ったら再度やろう、と決めてベッドに横になった。
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