【完結】偽りの聖女、と罵られ捨てられたのでもう二度と助けません、戻りません

高瀬船

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その場から逃げろ、と口にするネウスにメニアは驚きに目を見開くとネウスに問い掛ける。

「人間と、魔の者以外の魔力ですか……?それは、魔獣とか魔物とか……そういった類の生き物と言う事でしょうか……?」

逃げなければいけない程の「何か」がこの国に居るとでも言うのだろうか、とメニアは不安になる。
魔獣や魔物達ですら、意思の疎通を測ることが出来ず、その凶暴性が危険視されていると言うのにそれ以上の危険性を秘めた生き物がまだ居ると言うのだろうか、とメニアは不安気にネウスとマティアスに向かって交互に視線を向ける。

「──いや……。まだハッキリとは分からねえが……もしかしたらその可能性があるっ、て事だ……人型の、人間や俺達魔の者以外の者がこの国に居る可能性があるが、その気配は微かで本当にこの国に居るのか、それとも俺の気の所為で本当はそんな物がいねえのか……まだハッキリとは分からねえ」
「人間と、魔の者以外の存在、ですか……?」

人間と魔の者以外に、人型を保つ存在などが本当に居るのだろうか。
もし、そのような存在がこの国に本当に居るのだとしたら、その存在は何の為にこの国に居るのだろうか。

メニアは一抹の不安を胸に抱えると、先程ネウスから受け取ったブレスレットを無意識に反対の手のひらでぎゅう、と握ってしまう。

ネウスの口振りからして、その存在が厄介な者のような気がして、メニアは詳しい説明を求めるようにネウスとマティアスに視線を向ける。

メニアから視線を受けて、マティアスは困ったように眉を下げると唇を開く。

「──ネウス様が感じた気配、俺が感じた気配が本物なのかどうかを確認しようと母さんを呼んだのですが……すみませんメニアさん。母さんが来るにはまだ少し時間が掛かりそうで……。恐らく謁見の時間には間に合いません」
「だから、最低限危険を感知する魔道具をメニアに渡しておくから、俺達が側にいない際に何か起きたら直ぐにその場から逃げろよ」

マティアスの言葉に続けるようにネウスがそう話す。

「──逃げる……。もし、その方が謁見の場で何かをして来たらどうすれば……その場にはこの国で重要な方達が大勢居るはずです。……謁見の場には同席しないですが、恐らく両親も王城には同行しますので、両親を置いて逃げるのは……流石に出来ません……」
「そうだとしても、だ。両親は最悪俺がどうにかしてやる。もしそのブレスレットが熱を持った場合はメニアは自分の身だけを考えろ。……マティアスはメニアの側に付け」
「分かりました、ネウス様」

いつになく真剣な表情でそう話すネウスに、メニアは不安そうな表情を隠す事は出来ないままただ頷いた。











屋上庭園でネウスとマティアスと暫し話しをした後、メニアはネウスとマティアスと共に帰宅する為の馬車までやって来ると、その場でネウス達と別れた。

馬車に乗り込んで邸までの道を馬車に揺られながら考え込む。

「──ネウスさんが警戒する程の、存在……?」

メニアはぽつりと呟くと、その言葉の内容にぶるり、と自分の体が恐怖で震える。
自分の体を自分の腕で抱きしめるようにすると、制服のポケットに自分の手のひらが当たり、カチ、とポケットの中で物同士がぶつかったかのような音がして、メニアはハッとすると自分のポケットに視線を向ける。

「そう言えば、さっきネウスさんが……」

この馬車に乗る前にネウスから手渡された物の存在を思い出し、メニアは自分のポケットに手を入れると手のひらに当たった物を掴み、そのまま取り出す。

「……魔石、と言ってたわよね……」

自分の親指の第一関節程の大きさの魔石もあれば、それよりも一回りも二回りも大きい魔石もある。
ネウスは別れ際、大小様々な大きさの魔石をメニアの手のひらいっぱいに持たせると「魔法を発動する時はこの魔石に発動しろ」と言っていた。

魔石には発動された魔法の効果を封じ込めておく性能があるらしく、ネウスが耳にしているイヤリングにも魔法が封じ込められている。

「確か……ネウスさんのイヤリングはミリアベル様の解呪の魔法だったわね……」

魔石は魔法を封じ込められると魔道具と言う物になる。
魔力を持った人間が、その魔石に魔力を流し破壊すると封じられていた魔法が発動する。

発動された魔法は魔石が壊れれば効力を無くしてしまうが、半永久的に魔法が発動し続けるような魔道具もあるらしい。
それは照明の魔道具だったり、着火の魔道具だったりするが魔石の加工と加工術者の腕が確かでないと、半永久的に使い続ける事は出来ない。

そもそも、半永久的に使用出来る魔道具はとても高価な為大体は買い換えて行くものとなる。

「私が、この魔石に解呪の魔法を封印すれば、もし自分の魔力が枯渇してしまっても、少ない魔力で聖属性魔法を沢山解放する事が出来る、と言う事よね」

それならば、時間は掛かってしまうかもしれないが解呪の魔法を魔石に込めておけば、家族全員に解呪の魔法が込められた魔石を渡しておけるかもしれない、とメニアは考えてそっとその魔石を自分の指先でつん、とつついてみる。

色とりどりの魔石は、メニアの行動に答えるように馬車の窓から差し込む月の光を浴びてキラリ、と輝いたような気がした。
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