【完結】偽りの聖女、と罵られ捨てられたのでもう二度と助けません、戻りません

高瀬船

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転移した場所が、メニアのハピュナー子爵邸の自室では無く、学院の屋上庭園だった事にメニアはぱちくりと瞳を瞬かせると、目の前に居るネウスに視線を向けて唇を開く。

「──ここ、学院の屋上ですよね?どうして邸に戻らなかったんですか?」

学院に居続けるよりも、邸に戻ってしまった方がこの学院の生徒達に見付かる可能性も少ないのにどうしたのだろうか、と不思議そうにメニアが話し掛けると、ネウスはメニアの腰に回していた自分の腕を退かすと周囲にぐるり、と視線を巡らせる。

「この屋上への扉は施錠されているからこの時間にここまで上がって来る奴はもういないだろ?それなら、メニアの邸に戻って婚約者の訪問の邪魔が入るより、話をするのであればここが一番安全だ」
「なるほど……!」

ネウスの言葉に、「確かに」とメニアも納得する。
何処で調べたのかは不明だが、この学院の屋上庭園は昼休憩の時間と、中休憩の時間は解放されていて学院の生徒達であれば誰でも利用する事が出来る場所だ。
だが、学院の授業が全て終了する夕方の時間には学院の生徒が屋上庭園に残らないように完全に施錠される。
ましてメニアが受ける光属性魔法の授業は、他の五元素魔法の授業よりも終わるのが遅い。
メニアの授業が全て終了した頃にはこの屋上庭園は完全に施錠されている為、他の人間達の邪魔が入らない唯一の場所となる。

「国王との謁見は、次の休みだろ?それまでのあと数日間、この場所で話すのが一番安全だ」
「そう、ですね。邸よりもこの場所の方が確実に安心です」

二人は話しながら歩いて行くと、庭園の中にある小さなベンチとテーブルを見付けてその場所に腰掛ける。

ベンチに腰掛けたネウスは、一度自国に戻したマティアスの魔力がこの場所に近付いて来ている事に気が付き、そちらの方向に視線を向けながら唇を開いた。

「──メニア。もうすぐマティアスが来る。突然この場所に現れるが驚いてでけぇ声出すなよ?」
「マティアスさんが?わ、分かりました……!」

思いのほか焦ってこちらに向かって来ているようで、この場所に来るマティアスの移動速度が早いのがネウスは気になり、到着した時の衝撃でメニアの体が吹っ飛んでしまないか心配になり、ネウスは向かいのベンチに座っているメニアの横へと移動した。

「──ネウスさん?」
「来るぞ。舌噛むなよ」

突然自分の横に移動してきたネウスに、メニアが不思議そうに声を掛けるがネウスはそのままメニアの問いに答える事無く、自分の腕をメニアの腰に回して自分の体へと強く抱き寄せた。

「──!?」

ネウスの行動にメニアが戸惑い、ネウスから自分の体を離そうとした瞬間、この屋上庭園に物凄い突風が吹き荒れる。

メニアの耳元で風の音が低く轟き、目を開けていられない程の衝撃が自分の体を襲う。
声を出す事すら出来ず、吹き荒れる風に逆に呼吸が出来なくて息苦しい程だ。
メニアはその突風の衝撃と、息苦しさに思わず自分の体をその場に留めおくように抱き留めてくれているネウスの体に縋った。

メニアの行動に、一瞬だけネウスの体がぴくり、と反応したがその後直ぐに力強く体を引き寄せられ、風に飛ばされないように気遣ってくれている。



暫し屋上庭園に突風が吹き荒れ、風が収まって来るとネウスが呆れたような声音で言葉を発した。

「──マティアス……。この国は人間が多いんだ。もう少し気を使って魔法を発動しろ」
「も、申し訳ございませんネウス様……。母から預かった魔道具を急いでお持ちしなければとそれだけを考えていたらこんな事に……」
「お前がそんなだからほら見ろ。メニアの髪の毛がぐしゃぐしゃになっちまっただろうが」

けろり、と会話をしているネウスとマティアスに、メニアはやっと閉じていた瞳を開くと、先程の突風でボサボサに乱れてしまった髪の毛をせっせと直してくれるネウスから慌てて体を離す。

「あ、ありがとうございますネウスさん……!ネウスさんに押さえて頂いたお陰で飛ばされずにすみました……っ」
「──別に礼はいらねぇよ」

ささっと自分から距離を取ったメニアに、ネウスは面白く無さそうに眉を寄せるとマティアスに視線を戻す。

「……で。ロザンナはどうした?お前と一緒じゃ無かったのか?」

てっきりマティアスと共にロザンナもやって来るとばかり思っていたネウスがマティアスにそう問い掛けると、マティアスは申し訳無さそうに眉を下げながら唇を開く。

「そうなんです……始めは母さんも俺と一緒に来る予定だったんですが、妹達も一緒に来ると我儘を言って……。母さんは妹達に甘いですからね。転移魔法を使えない妹達と別行動でネウス様の元に行く、と……。それで母さんの代わりにこの魔道具を先に届けに来ました」
「妹達……?まさかカーナとユリナもこの国に来んのか……?それじゃあ今国に残ってんのはロンだけか!?」
「ええ。そうです、兄さんだけ残って仕事の多さにひいひい言ってました」
「ああ……まあ……仕方ねぇな……」

ネウスとマティアスの会話の中に沢山の名前が出てきて、メニアがぱちくりと瞳を瞬かせていると、メニアが戸惑っている事に気付いたネウスがマティアスから渡された魔道具を手に、メニアに近付いて来る。

「──悪いな、メニア。呼んでた奴が諸事情で遅れるみたいだ。その変わりに魔道具をマティアスに持たせたみてぇだから、メニアはこれを普段から身に付けてろ」
「わ、分かりました。マティアスさん、お借りしますね」

メニアは何が何だか分からないまま、ネウスに渡された魔道具──ブレスレットのような物を大事そうに受け取る。

綺麗で、繊細な装飾が施されたそのブレスレットは、装飾部分に小さな宝石のような物がいくつも散りばめられていて、とても高価な物だと言う事が分かる。

メニアは受け取ったブレスレットをそっと慎重に自分の手首に嵌めると、ちらりとネウスに視線を向ける。

「ああ、それなんだが。人間と魔の者以外の魔力を感知すると熱を持って装着者に知らせてくれる。そのブレスレットが反応したら直ぐにその場から逃げろ」
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