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しおりを挟む「ネウスさんは謁見の日に、来ないんですか?」
「──は?」
メニアはついつい自分の唇からぽろりと出てしまった言葉に、はっとして直ぐに自分の唇を手のひらで覆う。
今まで気安く会話をしてくれていたから気軽にそう聞いてしまったが、ネウスは魔の者の王だ。
人間の王族が居る王城に行くなんて面倒くさい事をする理由が無いし、そもそも魔の者の王であるネウスに対して遠慮なしに来ないのか、なんてメニアが聞いていいような相手では無い。
その事を今更思い出したメニアは顔色を真っ青にすると慌ててネウスに対して頭を下げた。
「も、申し訳ございませんネウスさん……!あまりにも軽率でした……どうか今の言葉は忘れて下さい」
「──はあ?何が失礼なんだ……?別に何も失礼とは思わねぇが……」
突然メニアが謝罪をした事に、ネウスはキョトンとしながら言葉を続ける。
「それより、謁見の日か……。流石に王城に入るのは正体がバレたら不味いし、外から見とくわ。何かあってもすぐ対応してやるから心配せずに会って来いよ。ただし、ちゃんと精神干渉を弾く魔法は掛けていけよ」
さも当然、と言うような態度でそう言葉を紡ぐネウスにメニアは呆気にとられてしまう。
ネウスが国王陛下との謁見の最中も、近くに居てくれるという。
それがどれだけ心強いか。
メニアは嬉しそうに表情を綻ばせるとネウスにお礼を告げた。
それから、メニアとネウスは禁書の内容を確認したり頭痛が収まると他の魔法を発動したり、と時間を過ごしていると突然ネウスが勢い良くソファから立ち上がり、メニアの部屋の窓──部屋の窓の先にある子爵邸の正門の方向へと視線を向けた。
ぴり、としたネウスの気配にメニアの室内が若干緊張感に包まれる。
「ネウス、さん……?何かありましたか……」
メニアが恐る恐るネウスにそう問いかければ、ネウスは一度メニアに視線を戻してから再度窓の方向へ視線を向けると、唇を開く。
「──メニアの婚約者が来たみたいだな……。あいつの魔力は分かりやすい……」
──それに、違和感を感じる。
ネウスは最後の一文は自分の心の中で呟くと、このままメニアの部屋に滞在する事は出来ないと判断して脱いでいた自分の上着をソファの背もたれから素早く持ち上げると、上着に腕を通しながらメニアに話し掛ける。
「メニア。婚約者と会う時には気を付けろよ。少しでも不穏な気配を感じたらその場から離れろ。俺は取り敢えず自分の邸に戻る。また来るからその間しっかりと魔法の発動の練習をしとくんだぞ」
「わ、分かりましたネウスさん……!今日はありがとうございました」
メニアの頭を一度くしゃり、とネウスは撫でてから窓の方向に視線を向けた後そのまま魔法を発動して部屋から姿を消した。
あっという間に姿を消したネウスが去った室内は、途端にしん、と静まり返り先程までネウスと会話をしていたのが嘘のようだ。
「──いけないっ!セリウス様が来る前に禁書をしっかりと仕舞っておかないと……!」
メニアは思い出したかのように声を上げると、セリウスの訪問を知らせる使用人が来る前にパタパタと室内で忙しく動き回り、禁書をクローゼットの奥深くに仕舞い込んだ。
全ての禁書を閉まった後、セリウスの訪問を知らせに使用人がメニアの自室に訪れ、メニアは応接室に通されたセリウスの元へと向かった。
両親と共に移動して来たのだろう。
その場にはセリウスと両親、そして何故かシャロンも同席していて、メニアが姿を表すと両親はセリウスとシャロンに挨拶をしてから退室していった。
室内にメニアとセリウス、シャロンだけの三人になると、セリウスが心配そうな表情を浮かべてメニアに近付いて来る。
「メニア、先程の男には何もされていない?何かされたんだったら俺に言って。恐い思いもしてないかな?」
「セリウス様、大丈夫ですよ。先程の男性はとても紳士的でしたし、馬車でお送りした際は何度もお礼を告げて頂きました」
メニアの印象に、「婚約者」である自分以外の異性が残るのが嫌なのだろう。
セリウスは心配するような態度でメニアにそう言い募るが、メニアがあっさりと躱すとこれ以上追求するのも不自然なのもあって、口を噤む。
セリウスが言葉を切ったのをいい事に、今度はシャロンがメニアにずいっと近付き、些か興奮したように唇を開く。
「馬車でお送りしたのは、どこの伯爵家かしら?私、心配なのでこれから我が侯爵家の薬を持って行って差し上げようと思うのだけれど……!」
「──シャロン……っ」
シャロンがこれ程ネウスに夢中になるとは思っていなかったのだろう。
セリウスは苦虫を噛み潰したような表情で小さくシャロンに声を掛けるが、そのような態度を婚約者であるメニアの前でする事も如何なものか。
メニアはしらっとした表情で小首を傾げながら唇を開く。
「申し訳ございません、シャロン様。先程の男性は邸まで送って貰うのは、と気後れされて馬車で少し走った後にすぐ馬車を止めて降りてしまわれました……ご加減が心配ではあるのですが、私にもあの男性がそれからどこをどうやって帰宅されたのか、分かりません」
「そ、そう……。そうなのね……。それなら仕方ないわね……伯爵家の三男と仰っていたのだから、今後夜会等でお見かけする可能性もあるわよね……」
シャロンはメニアの言葉に悔しそうな表情を浮かべると、どうにかネウスと接点を持てないか、とぶつぶつ考えているようだ。
その様子に、セリウスは面白く無さそうに眉を寄せていたが、メニアの目の前だった事を今更思い出したのか、取り繕うようにメニアを気遣う言葉を掛けてから早々に子爵邸から退散していった。
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