【完結】偽りの聖女、と罵られ捨てられたのでもう二度と助けません、戻りません

高瀬船

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メニアの言葉に、ネウスは釈然としないような気持ちになりながらこくりと頷くと唇を開いた。

「──した方が、いいだろ……。慣れればメニアにも何となく感覚が掴めてくるだろうしな……」
「分かりました……。もう一度魅了、ですか?」

メニアの言葉に、ネウスは頷くと再度メニアに魔法を発動する。








何度か同じやり取りを繰り返して、メニアの精神干渉魔法を弾く魔法の効力がとてつもない持続力を持っている事が判明する。

「ぜんっぜん掛からねぇな……」

ネウスは信じられない、と言うように瞳を見開くとメニアに何度も本当に変化が無いのか確認するが、ネウスの目の前に居るメニアはけろっとしたままだ。

「ネウスさん、本当に魔法掛けてます……?全然掛けられている感じがしないですが……」
「掛けてる。普通に掛けてんだよ……なのに全く掛からねぇ……。持続力が凄まじいな」

ネウスは諦めたように力を抜くと、メニアの部屋のソファに深く腰掛ける。
自分の魔法が正しく発動しているのか、と心配になってしまう程メニアの聖属性魔法の効果持続が長い。

それ程多い魔力量では無いメニアは、魔法制御にとても長けた能力を持っているのだろうか。

ネウスは信じられない物を見るように、じっとメニアを見詰める。
メニアがもっと早くに聖属性魔法を取得していれば、セリウスのような愚かな者に長年魅了と信用を掛けられる事など無かっただろうに、と残念に思う。
メニア程の力を持った人間が、あっさりと精神干渉の魔法に乱され、自身の心を乱されていた。

(感じる魔力量は、ミリアベルには全く及ばない……それなのに、無意識の内に適した魔力量を調整し、最低限の負担で魔法を発動している。器用なのか、なんなのか……)

ちらり、とネウスがメニアに視線を向けるとやはりメニアも自覚が無いようで不思議そうな表情を浮かべたままだ。

無自覚でこれ程の綿密な魔力操作を行い、複雑な構築式に魔力を乗せて魔法を発動する。
メニアは魔法を発動する際の構築式をとても繊細に細部まで正しく構築しているのだろう、そしてその構築式に自分の魔力を乗せる際にも細かい微調整を行い、発動した魔法が長期的に発動し続けるように無意識下で計算して発動している。

「メニア。恐らく何度やっても同じ事だ……。メニアが発動しているその魔法の持続時間は多分めちゃくちゃ長い。魔法が切れた場合、微かに違和感を感じる筈だが、魔法が切れる事を防ぐ為に毎朝自分で精神干渉を弾く魔法を発動しておけ」
「分かりました。自室で掛ければ、他の人に発動時の光も見られないので一石二鳥ですね!」

ふんふんとやる気に満ちた表情で頷くメニアにネウスは思わず苦笑する。
そもそも朝に掛けた魔法が一日中持続する事すら有り得ない事ではあるが、何となくメニアの魔法はそれくらいの持続力があるだろうな、とネウスは感じる。

「ああ。あとは、まあ……どれだけの魔法を発動したら魔力切れを起こすか、と言うのも確認が必要だな……メニアは魔力操作は器用にこなすが、元々魔力の量は多くない筈だ。魔力を使い過ぎると、体がだるくなってくる。魔力が枯渇しちまうと最悪の場合死に至る可能性があるから自分がどれだけの魔法を発動する事が出来るか、それを把握しておくのも必要だ」
「分かりました。うーん、どうしましょう……ネウスさん何かお怪我とかしてないですか?もしくは気分が悪いとかがあれば治癒魔法か状態異常の解除を発動します」
「怪我も、体調にも不調はねぇな……。それなら待ってろ。傷を作る」
「──え、?」

傷を作る、と言うネウスの言葉にメニアが慌ててネウスへ視線を向ければ、ネウスは懐から小剣を取り出すと、躊躇いなく自分の手の甲をスパっと斬った。
メニアがその様子にぎょっと瞳を見開くと、ネウスはなんて事のないように自分の腕をメニアに差し出して来る。

「ほら、治してくれ」
「えぇ……思い切りが良すぎますよ……。事前に一言言って下さい……」

メニアはぶつぶつと呟きながら、それでもネウスの痛々しい傷口に自分の手のひらを翳すと治癒魔法を発動する為に魔力を練り上げる。
思い切り良く斬り付けたのだろう。ネウスの手の甲からは血が溢れ出て、ぽたぽたと床に滴り始めている。

これだけ深く斬れていれば痛みもある筈なのに、顔色一つ変えないネウスにメニアは呆れてしまう。
痛覚と言う物がこの男には備わっていないのだろうか、と考えながら治癒魔法を発動する。

メニアが魔法を発動すると、ネウスの傷の辺りを真っ白い光が包み込み、傷がみるみるうちに塞がって行く。

ネウスが関心したように小さく「へぇ」と呟いた瞬間、メニアはつきり、と頭痛を感じて眉を顰めた。

「──メニア?」
「すみません、少し……頭が痛いだけなので……大丈夫です」

メニアがその痛みを振り払うようにぶんぶんと首を横に振ると、ネウスはメニアの肩を押してソファに深く座らせる。

「もしかしたらメニアの魔力量は相当少ないのかもしれねえな。一日で複数の魔法を発動するのは控えた方がいい」
「うう……すみません、情けないですね……」

まだ軽い頭痛を覚えた程度なので、まだ魔法を発動する事は出来るだろうが、魔法の発動はゆっくりと慣らして行った方がいい。
ネウスはそう考えると、メニアの頭をぐりぐりと撫でてやりながら唇を開いた。

「──数日後の国王との謁見の際は自分の身を守る事だけを考えてろよ」
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